72 船員関係法規

 

721 STCW95条約への対応

船員の技能に関する国際基準を定めたSTCW条約について、現状に即した内容に改めることを目的として、平成203月に開催されたIMO39STW小委員会より条約の包括的見直しに関する作業を開始し、2010年の採択を目途に審議されている。

主な審議事項は以下の通りである。

 

(1)機関部職員の蒸気タービン船に関する資格要件

増加傾向にあるLNG船には蒸気タービン推進方式が多く採用されていることから、「3000kw以上の推進出力を有する蒸気推進船の機関部当直職員のための最低要件」を新たにコードA3章(機関部に関する基準)に追加することを提案している。

本提案についてSTW40本会議に於いて審議した結果、わが国を含む多数の国が新たな資格制度創設について反対したため廃案となった。

 

(2)電気技士(Electric Officer

船舶に搭載される電子・電気機器が複雑化していることに鑑み、電気技士の資格を創設するとの提案(イラン等)に対し、わが国は、電気機器の保守・点検は機関士が担当していることから新たな資格要件は不要である旨発言してきたが、より多くの国の理解が得られるよう、STW40に於いてわが国から反対意見の文書を提出するに至った。

しかしながら、わが国の主張に対し、「電気関係の専門職員に対するニーズが大きい以上、統一的な資格要件を創設する意義は大きい」とする意見が大勢を占める結果となり、電気技士を機関部職員の資格を基礎とする限定資格、または新しく独立した資格、のいずれかとする方向で継続審議されている。

 

(3)機関部職員の養成期間短縮

機関部職員の資格要件については、コードAに規定する能力基準の充足に加え、「6月以上の乗船履歴を含む30月以上の教育訓練」が義務付けられているが、甲板部職員の資格要件と整合性を図るべく、教育訓練の期間ではなく、能力基準に基づくものに改めるべき旨をEU各国が提案している。

これに対して多数の国が「ますます高度な知識が要求される状況に於いて、養成期間を短縮することが機関士の質の低下を招きかねない」とする反対意見を表明したが、EU各国をはじめとする多数国の支持により、養成期間を短縮する方向で継続審議されている。

 

(4)有能海員 (Able Seafarer <Deck/Engine>

ILO海事労働条約(MLC2006)を策定するに当たり、有能海員について定めているILO74号条約(わが国は未批准)がMLC2006に盛込まれず、IMO/STCW条約に移管されることとなり、STW小委員会で能力要件等について協議されている。

元来、“有能船員”と言う職位は、熟練部員を非熟練部員と処遇上差別化する目的で作られた。

その資格要件については、ILO条約体系からSTCW条約体系への移管が合意されているが、現在のドラフトでは、本制度を実施する必要性がない我が国等に於いても、国内法制を担保する必要性が生じるため、わが国より「有能海員制度の国内法制の担保は、各国主管庁の裁量に委ねるべき」旨を主張したところ、“配乗が強制される資格ではないものの、任意で乗船しようとする者のために国内法制を担保する必要はある”との意見が大勢を占め、わが国の主張は受け入れられなかった。

従って、有能海員が条約に盛込まれる結果となったが、同職位を国内法制に採り入れるか否かについては審議中である。

なお、有能海員が国内法に採り入れられたとしても、同職位の配乗は強制とはしない旨、国土交通省海事局は明言している。

 

(5)当直者の最短休息時間

当直を担当する職員及び部員に最低限必要とされる休息時間について、MLC2006との調和を図るべく検討されている。 これまでのわが国の主張は次の通り。

EU諸国の提案は、当直担当者以外の者を規制の対象に含めており、「条約の構成と目的を維持する」旨の見直し原則に反する。規制は当直担当者に焦点を置いた内容のままとすべきと考える。

MLC2006との調和を図ることが望ましいとは言え、STCW条約が海上安全を目的とする規定であるのに対し、ILO条約は労働法・社会法の観点から規定された内容であることから、MLC2006をそのまま移植することに反対する。

 

STW40に於ける審議の結果、わが国が支持しているイラン案が採用される方向で継続審議されているが、現行規定にある「2日間特別規定(コードA-8-1 4)」については、ILO海事労働条約との整合性の観点から廃止すべきとの意見が大勢を占め、同規定が廃止される方向で審議が進んでいる。

 

(6)証明書の更新手続期間

有効期限日前6ヶ月(わが国は12ヶ月)間を更新期間とし、新しい資格証書の有効期限を旧証明書の有効期限日から5年間とする旨シンガポールが提案している(コードB)。 これに対し、わが国は更新期間について具体的に規定する必要はなく、各国主管庁の判断で定められるべき旨主張している(継続審議中)。

 

(7)その他

@    船舶安全配員原則の見直し

安全配員原則については、MSC81に於ける海難事故と疲労及び配員基準の因果関係を示す調査結果報告を受け、STW38より内容の見直しを検討してきたところ、「最小配員数の基準を一律に設定して強制すべき(500トン以上の船舶に於ける3名以上の甲板要員の確保等)」旨の一部主張に対し、「最小配員数は、諸々の要因を総合的に勘案して、各国主管庁が決定すべき」旨の主張が圧倒的多数を占め、STW39に於いて、形式的な見直しは行うものの、実質的な内容は現状を維持する方向で検討が進んでいる。

STW39後のコレスポンデンスグループ(わが国を含む計30カ国・団体が参加)では、この安全配員原則の修正案の内容を踏まえ、最小安全配員数の決定のためのフレームワークの検討を開始したが、各国等より種々の見解が表明され議論が完全に拡散したため、今回はまず各国等の考えるフレームワークのあるべき姿を整理し、今後の建設的な議論へと繋げるための叩き台となる資料を報告するに留まることとなった。

 

A    船舶安全代表 (Ship Safety Representative)の職務と訓練

IMO82回海上安全委員会(MSC82)に於いて、Ships Safety Representative(船舶安全代表:乗組員の中から選出される船内の安全風土・安全文化の確立維持を担う者)についてSTWに於いて検討することで合意されたことを受け、コードA6節中に、表A-6-6表「船舶安全代表に指名された船員に関する最低限の能力基準」を追加すべき旨、提案している。STW4120101月)にて継続審議を行なう。

 

B    海事保安強化

IMO事務局より、昨今深刻化する海賊問題に鑑み、STCW条約に海賊対策に関する訓練要件等の内容を盛込む旨の提案がなされた。本提案にわが国を含む多くの国が支持を表明したため、同事務局より各国に対し、次回会合に向けた意見提出が求められた。

 

722 船員法等の改正

1) 船員法及び船員法施行規則の一部改正(平成20717日施行)

安定的な海上輸送の確保を図るため、日本船舶及び船員の確保等を計画的に行う必要があることから、船舶運航事業者等による日本船舶・船員確保計画の作成、必要な課税の特例等、の支援措置等について定めるとともに、船員の労働環境の改善のための措置を講ずることを目的として、「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律」が平成20717日に施行された。

これに伴い、船員法及び船員法施行規則は、時間外労働の上限基準の設定、及び休息時間の確保等、船員の労働環境を改善する以下の措置を実施する改正が行われた。

@  国土交通大臣が船員法に基づく労使協定時間外について上限基準を設けることを可能とし、4週間当たり56時間とする

A  最低限付与しなければならない1日当たり10時間の休息時間を、3回以上に分割して与えることの禁止し、いずれか長い方の休息時間は6時間以上とする

B  通常配置表の掲示

C  記録簿の記載事項に休息時間を追加、及び海員に対し写しを交付

D  年少船員の夜間労働禁止時間の例外を認めた場合の休息時間を午前0時から午前9時を含む連続した9時間とする

上記の措置のうち、@は平成193月の「船員に係る労働契約・労働時間法制検討会」に於ける最終とりまとめに於いて、船員の所定外労働は陸上と比較し長時間となっており、目前に迫った船員不足時代に於いて、船員を確保するために、船員の労働条件を改善し、職業としての魅力を向上させる必要があるとして、所定外労働の太宗を占める労使協定時間外の短縮を図るための措置を講ずる予定。

一方、A〜Eについては、同じく平成193月に「ILO海事労働条約国内法化勉強会」に於ける中間とりまとめで、条約の批准に向けて国内法化が必要とされた措置の内、交通政策審議会海事分科会に於いて船員の確保に向けた労働環境改善等の政策目的に寄与し、条約の批准前に海事政策として先行的に実施すること望ましいとされたものである。

また、海上運送法の改正により制度化された航海命令を発する際に、国土交通大臣が航海命令従事証明書を船長に交付することとなったことに伴い、船長に対し当該証明書を船舶に備え置くことを義務付け、更に船舶所有者に対し船員の雇入に際し、航海命令による旨を明示することが義務付けられた。

2)船員法施行規則及び船員労働安全衛生規則の一部改正(平成2091日施行)

鳥インフルエンザに人が感染する事例が増加し、新型インフルエンザの発生が危惧されていることから、新型インフルエンザの発生直後から、まん延防止策を迅速に実施できるよう、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症予防法」)が改正され、鳥インフルエンザが二類感染症に追加されるとともに、新型インフルエンザ等感染症が健康診断、就業制限及び入院の対象となる感染症として追加された。

一方、「船員法施行規則」及び「船員労働安全衛生規則」に於いては、感染症予防法で定められている感染症のうち、船内生活に於いても感染する恐れが高いものを「伝染病」として規定し、健康証明の検査合格標準表や、伝染病が発生している地域又は発生するおそれのある地域におもむく場合に、伝染病の予防に必要な措置を講じなければならないものとして定めている。

このため、「船員法施行規則」及び「船員労働安全衛生規則」に於いても感染症予防法に新たに追加された新型インフルエンザ及びその他の感染症を新たに措置すべき伝染病として追加された。

 

723 ILO条約改正等への対応

(1) ILO最低賃金について

日本籍船に乗組む外国人船員の労働条件は、国際労働機関(以下 ILO)第187号勧告に基づき、国際海運連盟(以下 ISF)と国際運輸労働者連盟(以下 ITF)で構成するILO合同海事委員会(以下 JMC)で決定される最低賃金を基に協議されている。

平成21212日及び13日の両日、ILO本部に於いてJMC小委員会が開催され、当協会もISFの一員として参加。前回会合(平成182月)決定に基づき平成201231日より適用されている最低賃金(AB船員)の現行レート$545に対する見直し協議が行われた。

ISF側より、現下の世界的経済危機が治まるまでは、如何なる交渉も出来ないと主張し、平成222月の再会合を提案した。

ITF側は、経済危機については認めるものの、ILO MinimumSafety Netであり、ProductivityProfitabilityに左右される性格のものではないと主張した。

最終的に、両者合意に至らぬまま閉会となり、当面は前述の$545が維持される結果となった。同会合の審議内容は、平成2111月にILO事務局より同理事会に正式報告される予定である。

 

 (2) 船員の死傷及び遺棄に関する請求に係る責任及び補償に関する第9IMO/ILO合同特別専門家作業部会

平成2132日〜6日の間、IMO/ILO合同特別専門家作業部会が、スイス・ジュネーブのILO本部にて開催された。

同会合には、政府側公式メンバーとしてキプロス、フランス、ギリシャ、韓国、フィリピン、イギリス、アメリカが参加。政府側オブザーバーとしてアンゴラ、バハマ、ベルギー、デンマーク、ドイツ、日本、マーシャル諸島、メキシコ、ノルウェー、パナマが参加した。また、ISF(船主側)、ITF(船員側)を含め計約60名が出席した。なお、当協会からは弊欧州事務局よりISFの一員として参加した。

 

@検討経緯

本件は平成1311月の第22IMO総会で、船員の権利と保護を強化することを目的として、船員の遺棄/死傷クレームに対し金銭的保証の手配を船主に求めた「船員遺棄事例に於ける金銭的保証の供与に関するガイドライン」に係る決議(A.93022))及び「船員の死傷についての契約上の請求に対する船主責任に関するガイドライン」に係る決議(A.93122))を採択したことから始まっている。

これらのガイドラインは、題記IMO/ILO合同特別専門家作業部会に於いて準備されたもので、両ガイドラインは、ILOでも同年同月の第282回総会に於いて採択され、平成1411日から効力を有している。

その後、ILOは平成182月、批准国が少なく国際的な実効性を伴っていない数多くの船員労働に関する条約/議定書を統合した海事労働条約(以下MLC)を採択し、その中で、締約国は船主に対して、倒産時を含め、遺棄時の送還費用や死傷に対する災害補償につき金銭的保証の手配を要求するよう定めている。しかし、IMOガイドライン及びMLCには、金銭的保証の具体的な手立てが規定されていない。このためIMOガイドラインを起草したIMO/ILO合同作業部会が、これまで8回にわたり実効性のある解決策について検討を行ってきた。

 

2)審議概要

今回の会合での審議の概要は以下の通りである。

1)条約化の形態について

MLCを改正することで条約化することが合意された。主な理由は、次の通りである。

@    船員の遺棄及び死傷時に於ける請求に対する責任及び補償の内容については、MLCで扱われていること。

A    MLCの条約改正手続きによれば迅速な条約化が可能であり、他の形態である「個別の条約」とするよりも早期の実施が期待できること。(但し、ISFとしては、本件についてはこれまで十分な審議が尽くされてきたと考えていないため、ILOに於いて更なる検討が必要で、早期の条約化は望んでいなかった)

B    金銭的保証に関する証明書をMLCの海事労働証書に統合することで加盟国の負担を軽減すること。

2)保証の形態について

保証の形態については、加盟国の裁量を認め、保険に限定せずに、社会保障制度、国内の基金などを認めることが合意された。

3)対象船舶について

金銭的保証制度の対象船舶については、MLCとの整合性に鑑み、漁船を除外することが合意された。なお、MLCでは、海事労働証書の対象船舶は「国際航海に従事する総トン数500トン以上の船舶」と規定されている。

4)保証書の発給について

金銭的保証制度に加入していることを示す保証書の発給については、発給者を加盟国政府に限定すると政府の負担が増えることから、政府に限定せず「保証の提供者が発給する」ことで合意された。

5)未払い賃金の扱いについて

遺棄の際に、未払い賃金を金銭的保証の対象に含めることについては、船主側よりMLCが規定するのは送還が実施されるまでの賃金であり、それ以外は規定されていないとして繰り返し反対を行った。しかしながら、船員側が、前回の第8WGで未払い賃金を含めることは合意されていることを主張し、政府側は船員側を支持した。

最終的には、船主側が譲歩し、4ヶ月分を上限として未払い賃金を含めることが合意された。

6)今後の予定

早ければ、平成2111月開催のILO理事会に最終的な条約案が提出される可能性がある。

 

3. 2006ILO海事労働条約

平成182月のILO94回総会に於いて採択された、船舶で労働する船員のための、雇用条件、労働・休息時間、居住・娯楽設備、食料・供食、健康保護・医療・福祉・社会保障等の最低要件を定める、「2006ILO海事労働条約」は、これまでに「リベリア」、「マーシャル諸島」、「バハマ」、「パナマ」及び「ノルウェー」の5ヶ国が批准を登録した。

条約の発効要件は、30以上の国が批准し、その商船船腹量の合計が総トン数で世界の33%以上となってから12ヵ月後とされている。

上記の5ヶ国の批准により、船腹量については43.4%となっており、発効要件を充足することとなった。一方で、EU加盟国(27ヶ国)では、2010年後半までの批准が見込まれており、既に批准している5ヶ国と併せると、32ヶ国となることから、2010年後半にも発効要件が整い、2011年の条約発効が見込まれている。

 

(1) 旗国検査ガイドライン及びPSCガイドライン

同条約では、旗国は、自国を旗国とする船舶に於いて、条約の要件を継続的に満たすことを確保するために、条約が適用される船舶を対象に、国内法令によって旗国検査を実施することが義務付けられている。

また、寄港国に於いては、条約の実効性を担保するため、条約を批准している加盟国の港に寄港する外国船舶について、条約の遵守状況を確認するためにPSC検査を行うことが認められている。

これらの検査については、平成20915日から26日にかけてガイドラインを策定するための政府代表、船舶所有者代表、船員代表、が参加する三者専門家会合がILO本部(スイス ジュネーブ)で開催され、2週間にわたる審議を経て、「2006年の海事労働条約に基づく旗国検査ガイドライン」及び「2006年の海事労働条約に基づき寄港国検査を実施する職員のためのガイドライン」が採択された。

当協会も船主側代表の一員としてISF(国際海運連盟)及び他国船主団体等共に同会合に参加すると共に、日本政府や旗国政府等を通じ船主側意見の反映に努め、適正なガイドラインとなるように腐心した。

条約に基づく検査実施についての最終的な判断は、旗国若しくは東京MOUParis MOU、等のPSC調整機関に委ねる、との説明がILO事務局よりなされたものの、両ガイドラインの採択は、各国が条約を実施するための国内法令等の整備や、各MOU域内に於けるガイドラインの検討に一定の道筋をつけることとなり、条約の批准に向けた各国、機関の動きが進むと思われる。

@ 旗国検査ガイドライン

旗国検査は、条約が適用される船舶を対象に、国内法令によって実施される条約の要件を遵守していることを確認するため実施しなければならないとされ、総トン数500トン以上の国際航海に従事する船舶等に対しては、「海事労働証書」が発給される。

審議の過程では、旗国ガイドラインで取り扱う対象は、海事労働証書を発給するために証明されなければならない条約の付録A5-Iに示されている14分野に限定されるべきとの意見もあったが、採択されたガイドラインは第5.1.3規則に基づく海事労働証書発給に係わる検査も含め、第5.1.4規則の規定に基づく検査も取り扱うものとして策定され、条約が適用される全ての船舶(証書発給の非対象船舶を含む)を対象に、かつ、条約の全ての要件が満たされるために行う検査のためのガイドラインとして採択された。

しかしながら、ガイドラインは一般的な指針であり、旗国による差異が存在し得ること、及び各要件に対する検査の深度については検査官に委ねられること等、旗国による柔軟な対応が認められた。

条約の要件についての個別の検査要領については、ガイドラインの第3章に於いて証書発給のため証明されなければならない14分野に加え、船員の労働条件及び生活条件を確保する上で特に必要とされた5分野を加えた検査要領が盛り込まれた。

A PSCガイドライン

条約では、条約を批准している国の港に寄港する外国船舶について、条約の要件の遵守状況を確認するPSC検査を実施することを認め、条約を批准していない国を旗国とする船舶も、条約を批准している国の港に寄港した場合は、PSCの対象となる。

採択されたガイドラインは、強制要件である総則、規則及びコードの基準(規範A)をPSC検査対象とし、非強制である規範BPSC検査の対象ではないこと、かつ原則として付録A5-IIIの、旗国検査の14分野に関して実施するもの、として採択された。

また、条約では国際航海に従事する総トン数500トン以上の船舶等に発給された海事労働証書及びこれに添付される海事労働適合申告書(DMLC)が条約の要件を満たすことを一応証明する(prima facie evidence)もの、として認められることとなっている。

従って、PSC検査に於いて検査官がこれらの書類をチェックの結果、違反の明白な証拠が得られない場合は、その時点でPSCは終了することとなる。

しかし、書類を審査した結果、条約で規定する更に詳細な検査を行うことができる特定の条件を認めた場合、または証書等の書類を所持しない船舶については、一層詳細な検査が実施される。その結果、重大な不適合等がある場合は、不適合の是正が確認されるまで航行停止の措置がとられることとなる。

2)国内外の状況

わが国では、条約の批准に向けた国内法化の検討について、国土交通省が立ち上げた、政労使の三者で構成される「ILO海事労働条約国内法化勉強会」に於いて、議論がおこなわれ、平成193月に中間とりまとめがなされた。

その後、各国の動向や上記ガイドライン採択の動向を踏まえた上で対応をする必要性から、具体的な進展は見られなかったが、上記ガイドラインの採択に伴い条約の批准が進み、2010年末には条約の発効要件が満たされると見込まれることから、平成213月より同勉強会が再開された。

同勉強会では2010年末の条約批准を見据え、平成21年中ごろの最終とりまとめに向け、中間とりまとめで具体的に整理されていない居住設備及び娯楽設備、旗国検査及びPSC等を中心に検討が行われる。また、懸案事項として、労働時間規制の対象となる船長を適用除外する手続の実現方法等があり、当協会としても引き続き同勉強会に参画し、船主意見が反映されるよう取り組んでいく。

一方、既に条約を批准した主要な船籍登録国であるパナマ、リベリア、バハマ及びマーシャル諸島は、各国とも国内法化状況について現在も検討中である。

本年3月に、パナマ、マーシャル諸島及びリベリアの担当機関と打ち合わせ、情報収集を行い、当方より船主に負担が生じないよう適正に国内法化がなされるよう要請し、共通認識の形成を図り、協力関係の維持を確認した。