7・4 船員の社会保障制度および労働協約の改訂
7・4・1 船員の社会保障制度の概況
(1)適用状況の推移
船員法上の船員を対象とした船員保険及び厚生年金保険(第三種被保険者のうち船員)の適用事業所並びに被保険者数は、海運・水産業界の厳しい状況を反映して斬減傾向が続いており、平成20年3月末の船舶所有者ならびに被保険者数は、前年に比べてそれぞれ64船主、450名の減少で、6,173船主、59,282名となっている。(資料7-4-1-1参照)
船員保険、厚生年金保険(第三種のうち船員)適用状況
時 点 |
船舶所有者数(社) |
被保険者数(人) |
||
|
うち失業 |
|
うち失業 |
|
|
(強制適用) |
|||
1984.3 |
10,280 |
7,180 |
184,702 |
152,004 |
1985.3 |
9,949 |
6,983 |
176,560 |
144,216 |
1986.3 |
9,570 |
6,752 |
165,666 |
134,627 |
1987.3 |
9,313 |
6,558 |
156,584 |
125,855 |
1988.3 |
9,230 |
6,440 |
146,549 |
116,696 |
1989.3 |
9,132 |
6,289 |
138,429 |
109,836 |
1990.3 |
9,877 |
6,240 |
132,205 |
106,018 |
1991.3 |
9,600 |
6,125 |
126,724 |
102,945 |
1992.3 |
9,305 |
5,971 |
120,634 |
99,395 |
1993.3 |
9,008 |
5,844 |
115,625 |
96,699 |
1994.3 |
8,629 |
5,740 |
110,459 |
92,653 |
1995.3 |
8,388 |
5,646 |
105,422 |
88,713 |
1996.3 |
8,190 |
5,528 |
100,349 |
84,736 |
1997.3 |
8,026 |
5,401 |
96,050 |
80,761 |
1998.3 |
7,822 |
5,234 |
91,292 |
76,451 |
1999.3 |
7,536 |
4,985 |
84,171 |
69,778 |
2000.3 |
7,318 |
4,822 |
79,521 |
65,736 |
2001.3 |
7,100 |
4,700 |
75,889 |
62,830 |
2002.3 |
6,912 |
4,541 |
71,317 |
58,794 |
2003.3 |
6,611 |
4,363 |
66,818 |
54,992 |
2004.3 |
6,460 |
4,205 |
63,288 |
52,216 |
2005.3 |
6,347 |
4,121 |
61,935 |
50,791 |
2006.3 |
6,292 |
4,036 |
60,831 |
49,526 |
2007.3 |
6,237 |
3,958 |
59,732 |
48,753 |
2008.3 |
6,173 |
3,908 |
59,282 |
48,333 |
(注)社会保険庁資料
(2)船員保険の財政状況
収入面では、1972年以降36年連続で被保険者数が減少したものの、標準報酬の改定により平均標準報酬月額が増加に転じたため、保険料収入は対前年度比6億円の減少にとどまったことから、収入は同比10億円減少となった。
支出面では、失業保険の受給件数の減少等により、保険給付費は同比7億円減少したが、退職者給付拠出金が同比6億円増加したこと等により、支出は同比2億円の減少となった。
平成19年度の収支は、全体で46億円の黒字で5年連続の黒字決算となった。これにより船員保険全体の積立金残高は、同比46億円増加の1,293億円となった。(資料7-4-1-2参照、予算については資料7-4-1-3参照)
@疾病部門
平成19年度は、前年度に比べ6億円悪化したものの28億円の黒字となった。
A失業部門
平成19年度は、対前年度比11億円の減少となる22億円の黒字となった。
B年金部門(労災)
平成19年度は、前年度比で8億円の改善となる11億円の赤字となった。年金部門の財政は、被保険者数の減少に比べ、年金受給者の減少が小幅に留まるため、今後も赤字幅が拡大していくことが懸念され、船員保険収支全体に与える影響が最も大きい部門である。
船員保険特別会計部門別決算 (単位:億円)
区分 |
収 入 |
支 出 |
|||||
項 目 |
平成18年度 |
平成19年度 |
項 目 |
平成18年度 |
平成19年度 |
||
疾病部門 |
保険料収入 |
393 |
399 |
保険給付費 |
257 |
256 |
|
一般会計より受入 |
30 |
30 |
老人保健拠出金 |
64 |
69 |
||
厚生保険特別会計 |
|
|
退職者給付拠出金 |
40 |
47 |
||
業務勘定より受入 |
2 |
3 |
介護納付金 |
31 |
33 |
||
|
|
|
福祉事業費 |
0 |
0 |
||
計 |
425 |
432 |
計 |
391 |
405 |
||
失業部門 |
保険料収入 |
52 |
37 |
保険給付費 |
23 |
17 |
|
一般会計より受入 |
3 |
1 |
|
|
|
||
その他 |
3 |
1 |
その他 |
1 |
1 |
||
計 |
58 |
39 |
計 |
25 |
17 |
||
年金部門 |
保険料収入 |
132 |
135 |
保険給付費 |
44 |
44 |
|
一般会計より受入 |
0 |
0 |
諸支出金 |
126 |
121 |
||
運用収入 |
13 |
13 |
福祉事業費 |
0 |
0 |
||
その他 |
5 |
7 |
予備費 |
0 |
0 |
||
計 |
151 |
154 |
計 |
170 |
166 |
||
福祉・ |
保険料収入 |
44 |
44 |
福祉事業費 |
35 |
33 |
|
一般会計より受入 |
9 |
7 |
|
|
|
||
その他 |
3 |
1 |
業務取扱費 |
16 |
13 |
||
計 |
56 |
53 |
計 |
51 |
46 |
||
合 計 |
689 |
679 |
合 計 |
636 |
633 |
||
|
|
|
|
収支差額 |
53 |
46 |
|
|
|
|
|
積立金残高 |
1,247 |
1,293 |
|
(注)1.社会保険庁資料等
2.端数処理のため、計数が整合しない場合がある
船員保険特別会計部門別予算 (単位:億円)
区分 |
収 入 |
支 出 |
||||
項 目 |
平成19年度 |
平成20年度 |
項 目 |
平成19年度 |
平成20年度 |
|
疾病部門 |
保険料収入 |
381 |
383 |
疾病保険給付費及 |
|
|
一般会計より受入 |
30 |
30 |
保険者納付金 |
368 |
382 |
|
厚生保険特別会計 |
|
|
介護納付金 |
33 |
30 |
|
業務勘定より受入 |
3 |
- |
予備費 |
3 |
3 |
|
計 |
414 |
413 |
計 |
403 |
415 |
|
失業部門 |
保険料収入 |
36 |
35 |
保険給付費 |
26 |
19 |
一般会計より受入 |
2 |
2 |
|
|
|
|
前年度剰余金受入 |
- |
- |
予備費 |
0 |
0 |
|
計 |
38 |
37 |
計 |
26 |
20 |
|
年金部門 |
保険料収入 |
125 |
130 |
保険給付費 |
49 |
49 |
一般会計より受入 |
0 |
0 |
諸支出金 |
1 |
1 |
|
運用収入 |
14 |
12 |
年金特別会計へ繰入 |
121 |
117 |
|
雑収入 |
4 |
8 |
予備費 |
1 |
1 |
|
計 |
144 |
150 |
計 |
171 |
168 |
|
福祉・業取部門 |
保険料収入 |
42 |
43 |
福祉事業費 |
36 |
38 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
業務取扱費 |
14 |
27 |
|
一般会計より受入 |
8 |
8 |
|
|
|
|
|
|
|
予備費 |
0 |
0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
雑収入 |
2 |
2 |
|
|
|
|
計 |
50 |
53 |
計 |
50 |
65 |
|
|
保険料収入 |
584 |
590 |
疾病保険給付費及 |
|
|
|
一般会計より受入 |
40 |
40 |
保険者納付金 |
368 |
382 |
|
運用収入 |
14 |
12 |
失業保険給付費 |
26 |
19 |
|
|
|
|
年金保険給付費 |
49 |
49 |
|
厚生保険特別会計業務勘定より受入 |
3 |
- |
業務取扱費 |
14 |
27 |
|
|
|
|
諸支出金 |
1 |
1 |
|
雑収入 |
6 |
10 |
福祉事業費 |
36 |
38 |
|
前年度剰余金受入 |
- |
- |
介護納付金 |
33 |
30 |
|
|
|
|
年金特別会計へ繰入 |
121 |
117 |
|
|
|
|
予備費 |
3 |
3 |
|
合計 |
647 |
653 |
合計 |
651 |
667 |
(注)1.社会保険庁資料
2.収入については「積立金より受入」を除いたもの
3.端数処理のため、計数が整合しない場合がある
7・4・2 船員保険制度の改革
(1)船員保険事業運営懇談会
船員保険は、平成18年12月に「船員保険事業運営懇談会」(座長:岩村正彦 東京大学大学院教授、事務局:社会保険庁)が取りまとめた報告書に従って、平成19年4月に法令改正が行われ、2010年1月より雇用保険と労災保険分野が陸上一般制度に統合され、両分野の一般制度を上回る部分と船員独自の福祉分野は健康保険分野とあわせて新船員保険として「全国健康保険協会」によって運営されることが決定した(年報2006年参照)。
その後、同懇談会及びその下部組織である施設検討小委員会(座長:野川忍 東京学芸大教育学部教授(当時))於いて(7-4-2-1)、@福祉施設の見直し、A一般制度統合に伴う労災保険率の設定、B雇用保険制度の見直しを踏まえた船員保険制度の対応について検討が行われてきた。
その結果、@については、平成20年8月の第8回小委員会に於いて、現行の保養施設を半減する等の整理合理化案が取りまとめられ、同年11月の第8回懇談会に於いて承認が得られた(7-4-2-2)。
A及びBについては、第8回懇談会および同年12月の第9回懇談会に於いて議論が行われ、Aについては平成22年1月以降、労災保険に船員に係る業種を新設し、労災保険率について64‰⇒50‰とし、Bについては、船員保険制度に於いても雇用保険と同様の見直しを行うこととされ、その中で平成21年4月から船員保険の失業部門の保険料率については、1‰引下げ11‰(被保険者5‰⇒4‰、船舶所有者7‰)とすることとされた。
当協会は、同懇談会に参加している他の船主団体と連携し、船主の負担軽減に向けて意見反映を行った。
資料7-4-2-1 船員保険事業運営懇談会施設検討小委員会名簿
(平成20年3月、五十音順、敬称略)
(委員) 大内 教正 全日本海員組合 副組合長
岡本 豊 社団法人日本旅客船協会 副会長
小坂 智規 社団法人大日本水産会 常務理事
江口 光三 社団法人日本船主協会 労政委員会委員
清水 保 全日本海員組合 企画室長代行
田中 伸一 全日本海員組合 総務局長
橋 健二 全日本海員組合 水産局長
◎野川 忍 東京学芸大学 教育学部教授
三木 孝幸 日本内航海運組合総連合会 広報委員会委員
(オブザーバー) 今井 克一 社団法人日本経済団体連合会 経済政策本部長
小島 茂 日本労働組合総連合会 総合政策局長
古澤 健治 財団法人船員保険会 常務理事 (注)◎は、座長
資料7-4-2-2 船員保養施設一覧(委託先:(財)船員保険会)
県名 施設名称
1 北海道 稚内船員保険保養所
2 宮城 気仙沼船員保険保養所
3 〃 鳴子船員保険保養所
4 神奈川 三崎船員保険保養所
5 〃 箱根船員保険保養所
6 静岡 焼津船員保険保養所
7 鳥取 鳥取船員保険保養所
8 山口 俵山船員保険保養所
9 愛媛 内子船員保険保養所
10 鹿児島 指宿船員保険保養所
7・4・3 労働協約の改訂
(1)労働協約改定
外航労務部会と全日本海員組合は平成21年の労働協約改定に際し、双方同内容にて申し入れ/要求書の交換を行い即日妥結。有効期間を改定する協定書、及び本年5月より実施される裁判員制度に参加する組合員が不利益な取扱いを受けないよう必要な措置を講じることを旨とする確認書を締結して、平成21年の労働協約が確定した。
(2)協議会(安全)
アデン湾に於ける海賊被害の多発を受け、組合側の申し入れにより協議会(安全)を平成20年10月に開催し、同海域を海賊被害の恐れがある海域として労使共通認識を図り、「ハイリスクエリア」を設定し、同海域入域時の慰労金支給、いわゆる「安全回廊」の通航、及び入出域報告を行うことを合意した。
しかし、平成21年に入りアデン湾に加え、ソマリア東方沖での海賊被害が増加したことに伴い、同年5月に開催した協議会(安全)に於いて「ハイリスクエリア」を同海域に拡大する改定を行った。
(3)女性船員に関する協議会
「女性船員関する協議会」は平成20年の協約改定交渉に於いて、妊娠・出産する女性船員に必要な制度について引き続き協議する場として設置された。
これまでに3回の協議会を開催。船員法の規定により船内で就労することができない妊娠中及び産後8週間以内の女性船員の取扱いについて、引き続き協議を行っている。