日本船舶及び船員の確保に関する基本方針について

 

 安定的な海上輸送の確保を図るために必要な日本船舶の確保、これに乗り組む船員の育成及び確保その他これらに関連する措置(以下「日本船舶及び船員の確保」という。)に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、海上運送法(昭和24年法律第187号。以下「法」という。)第34条第1項に基づき、国土交通大臣は、本基本方針を定める。

 

1.日本船舶及び船員の確保の意義及び目標に関する事項

 (1)日本船舶及び船員の確保の意義

  @外航日本船舶の確保並びに外航日本人船員の育成及び確保の意義

四面を海に囲まれた我が国において、輸出入貨物の99.7%の輸送を担う外航海運は、我が国経済、国民生活を支えるライフラインとして極めて重要である。また、本邦外航海運事業者は、我が国の国際海上輸送の約60%、特に輸入については約65%を分担する主たる輸送の担い手であり、安定的な輸送を確保し、我が国産業界の国際活動、国民生活の維持向上を図る上で不可欠の存在である。この輸送の基盤である外航日本船舶及び外航日本人船員は、我が国の管轄権・保護の対象であり、経済安全保障の観点から平時より一定規模確保することが必要であるとともに、海上輸送の安全の確保及び環境保全、海技の世代間の安定的伝承等の観点から重要である。

    しかしながら、世界単一市場たる外航海運分野における国際競争が激化する中、我が国外航海運においては、円高等によるコスト競争力の喪失から、安定的な国際海上輸送の核となるべき外航日本船舶は、最も多かった昭和47年の1,580隻から平成18年には95隻へ、外航日本人船員は昭和49年の約57000人から平成18年には約2600人へと極端に減少しており、極めて憂慮すべき事態となっている。

このため、国際競争条件の均衡化に加え、外航日本船舶及び外航日本人船員の計画的増加について外航海運事業者の自発的な取組みを促すための環境を整備し、外航日本船舶の確保並びに外航日本人船員の育成及び確保を図ることにより、安定的な国際海上輸送を確保することは、大きな意義がある。

A内航船員の育成及び確保の意義

内航海運は国内貨物輸送の約4割、産業基礎物資の約8割の輸送を担うとともに、国内海上旅客輸送は年間約1億人が利用しており、極めて重要な輸送機関である。また、地球温暖化対策に対する取り組みが求められる中、中・長距離フェリーや貨物船は、環境に優しい物流を目指す陸上から海上へのモーダルシフトの担い手として、極めて高い公共性を有している。これら貨物・旅客双方の内航海運の重要性を考慮すると、その人的基盤である内航船員の意義・必要性は論をまたない。

しかしながら、内航船員については、船舶の大型化による運航効率の向上と運航技術の進歩に伴い漸減傾向にあり、現在雇用の需給は概ね均衡しているが、一部地域等においては内航船員不足の状況が顕在化しており、また、45歳以上の内航船員の占める割合が64%に上る等高齢化の著しい進展、後継者不足等により、近い将来、内航船員不足の深刻化が強く懸念されている。

このため、内航船員の計画的な育成及び確保について内航海運事業者の自発的な取組みを促すための環境を整備し、内航船員の育成及び確保を図ることにより、安定的な国内海上輸送を確保することは、大きな意義がある。

 

 (2)日本船舶及び船員の確保の目標

  @ 安定的な国際海上輸送を確保するためには、平成1912月の交通政策審議会答申において、外航日本船舶及び外航日本人船員の必要規模を試算したところ、外航日本船舶は約450隻、外航日本人船員は約5,500人とされた。一方、外航日本船舶及び外航日本人船員の現状規模を踏まえれば、これらの必要規模を短期間で達成することは困難であることから、当面の取組みとして、外航日本船舶の隻数を平成20年度からの5年間で2倍に、外航日本人船員の人数を10年間で1.5倍に増加させることを目標とする。

A 安定的な国内海上輸送を確保するためには、平成1912月の交通政策審議会答申において、内航船員の将来見通しを試算したところ、5年後に約1,900人、10年後には約4,500人程度の船員不足が生じる可能性があるとされた。このため、5年後、10年後にこれらの船員不足が生ずることのないよう内航船員の育成及び確保を図ることを目標とする。

 

2.日本船舶及び船員の確保のために政府が実施すべき施策に関する基本的な方針

  我が国の海運の置かれた状況にかんがみると、海洋基本法の施行も受け、外航海運においては外航日本船舶の確保並びに外航日本人船員の育成及び確保が、内航海運においては内航船員の育成及び確保が必要であり、以下のとおり、これらに対処するための施策を実施する必要がある。

 

 (1)日本船舶・船員確保計画認定制度の適切な実施

今般、法において、船舶運航事業者等が基本方針に即して日本船舶・船員確保計画(以下、「計画」という。)を作成し、国土交通大臣の認定を申請することができることとし、当該認定を受けた対外船舶運航事業者に対するトン数標準税制の適用等の支援措置を設けたが、同認定制度の適切な実施を確保することにより、日本船舶及び船員の確保を図ることが必要である。

  このため、計画の認定に当たっては、本基本方針に従って日本船舶及び船員の確保が図られる計画である旨を審査するとともに、認定計画に従った措置の実施状況について的確に把握し、必要な措置を講じていない場合には勧告や認定の取消しを行うこと等により、認定制度の適切な実施を確保する。

 

 (2)トン数標準税制の導入

  本邦対外船舶運航事業者と外国の対外船舶運航事業者との間の国際的な競争条件の均衡化を図ることに加え、外航日本船舶及び外航日本人船員の計画的増加を図るため、外航海運市場において世界標準とも言うべきトン数標準税制を導入することにより、安定的な国際海上輸送を確保する。

  トン数標準税制の適用対象を外航日本船舶とすることにより、対外船舶運航事業者による外航日本船舶の増加のインセンティブを高めるとともに、計画認定の申請時期を平成22131日までに限定することにより、計画への早期着手を促進する。

  

 (3)内航船員の育成及び確保に関する予算措置の導入

   内航船員の高齢化の進展により著しい船員不足が見込まれるなど、内航船員の育成及び確保が喫緊の課題となっていることから、船員を集め、育て、キャリアアップを図り、陸上海技者への転身を支援するとともに、海事地域の振興を図るための予算措置を講じ、船員の育成及び確保に積極的な船舶運航事業者等を支援する。

   具体的には、@内航海運業界のグループ化を通じた船員の計画的な育成及び確保や、A資格取得を通じた採用ニーズに即した人材の育成、B退職自衛官、女性などの新たな船員供給源からの船員の育成及び確保等、船員の育成及び確保策に計画的に取り組む事業者にインセンティブを付与する観点から、支援措置を講じる。

 

 (4)非常時における輸送体制の確保

  国内で事故、災害等が発生した際に国内の他の地域や外国から緊急物資を輸送する場合や、外国で災害、治安悪化等が発生した際に邦人を安全な地域に輸送する場合等、非常時においても安定的な海上輸送の確保を図ることが必要である。

このように、航海が公共の安全の維持のために必要である場合において、自発的に当該航海を行う者がない場合又は著しく不足する場合に限り、船舶運航事業者に対し、航海命令を行う。国際輸送においては、トン数標準税制の適用を受けている対外船舶運航事業者の外航日本船舶について優先的に適用する。なお、いわゆる有事及び周辺事態における海上輸送は、有事法制及び周辺事態法制に基づく措置により対応することが適当であり、海上運送法の航海命令は有事等の輸送を対象とするものではない。

  航海命令を発動する場合には、当該航海に従事する船舶及び船員の安全の確保に配慮するものとする。

 

 (5)多様な養成課程による船員の育成及び確保

  今後、船員不足が予想される中、船員の育成及び確保を円滑に進めるためには、現時点では想定されていないような新たな養成課程を含め、船舶運航事業者等の自主的な取り組みによる計画的で多様な養成課程を柔軟に認めていくことが必要である。このため、多様な養成課程による海技資格取得を柔軟に認めていくことにより、積極的に船員の育成及び確保を行う事業者を支援する。

 

(6)その他

  我が国においては、安定的な国際海上輸送の確保を図るため、これまで、本邦外航海運事業者の国際競争力の確保や日本船舶の確保並びに日本人船員の育成及び確保を図るための諸施策を講じてきている。これらについて、今後も諸外国の動向等も踏まえ、更なる制度改善について検討する。

 

3.船舶運航事業者等が講ずべき措置に関する基本的な事項

(1)外航海運事業者が講ずべき措置

本邦外航海運事業者は、単一の国際市場で激しい競争を繰り広げているが、自ら国際競争力を維持・強化し、今後とも質の高いサービスを安定供給することが求められている。また、本邦外航海運事業者は、外航日本船舶及び外航日本人船員を確保する主体として、計画認定制度を活用し、外航日本船舶の増加や外航日本人船員の採用増(中途採用、退職者等の積極活用を含む。)、訓練の充実等に努力すべきである。外航海運業界は、業界の総意として、外航日本船舶を今後5年間で2倍程度となるよう全力で対応するとともに、外航日本人船員(海技者)を今後10年間で1.5倍程度という目標を掲げ、全力で努力する旨を表明しており、その実現に向けた取り組みが期待される。また、外航海運事業者は、業界の目標を踏まえつつ、具体的な計画を作成することが必要である。さらに、外航日本人船員(海技者)確保・育成スキームの活用による積極的採用、外航海運事業者自らの船舶を用いた乗船実習(社船実習)の推進等外航日本人船員の育成及び確保のための体制整備を行うことが必要である。

 

 (2)内航海運事業者が講ずべき措置

内航船員の高齢化が著しく進展し、今後は外航海運や漁業分野からの経験豊富な即戦力となる船員の参入に多くは期待できないことも踏まえ、内航海運事業者は、船員未経験者等の採用を促進し、自ら積極的にキャリアアップのための教育訓練を実施することが求められている。また、内航海運事業者は、内航船員を育成及び確保する主体として、計画認定制度を活用し、@内航海運業界のグループ化を通じた内航船員の計画的な育成及び確保や、A資格取得を通じた採用ニーズに即した人材の育成、B退職自衛官、女性などの新たな船員供給源からの内航船員の育成及び確保等に努力するべきである。

本制度の活用を含め、個々の内航海運事業者において、船員を育成し、確保を図る具体的な取組みをこれまで以上に積極的に実施することが期待される。

 

4.計画の認定に関する基本的な事項

 (1)認定の申請に当たっての基本的事項

  @申請者

(1) トン数標準税制の適用を受けようとする場合にあっては、対外船舶運航事業者であること。

   (2) (1)の場合以外の場合にあっては、船舶運航事業者等(日本船舶及び船員の確保を行おうとする船舶運航事業者、船舶貸渡業者、船舶管理会社その他の者をいう。)であること。

  A計画期間

(1)トン数標準税制の適用を受けようとする場合にあっては、認定申請日を含む事業年度の翌事業年度の開始の日から5年であること。

(2)(1)の場合以外の場合にあっては、認定申請日を含む年度の翌年度の開始の日から3年以上5年以下であること。

B申請時期

  (1) トン数標準税制の適用を受けようとする場合にあっては、計画期間の開始の2ヶ月前まで。

(2) (1)の場合以外の場合にあっては、計画期間の開始の1ヶ月前まで。

ただし、法第36条に規定する船員職業安定法の特例の適用を受けようとするときは、計画期間の開始の4ヶ月程度前に申請すること。

 

 (2)計画の認定基準に関する基本的な事項

@基本方針への適合性(第1号基準)

   (1) トン数標準税制の適用を受けようとする場合にあっては、事業内容に応じて外航日本船舶及び外航日本人船員を計画的に増加し、外航日本人船員の計画的な養成を図る計画であるかどうかを1)及び2)に基づき判断する。

  1)外航日本船舶の計画的な確保に関する基準

    外航日本船舶の隻数について、5年間の計画期間内に2倍以上に増加させる計画であること。

  2)外航日本人船員の計画的な育成及び確保に関する基準

イ 外航船舶を運航する上で必要となる資格である3級海技士免許の取得に必要な乗船履歴を取得させるための養成を申請者自ら行う(費用を支弁して第三者に委託して行う場合を含む。)計画であること。

ロ 外航日本人船員について、外航日本船舶の隻数に応じた人数を計画的に養成する計画であること。

ハ 外航日本人船員について、外航日本船舶の隻数に応じた人数を確保する計画であること。

ニ 外航日本人船員が減少しない計画であること。

 ホ 外航日本人船員の採用増(中途採用、退職者等の積極活用を含む。)、訓練の充実等に資する具体的な措置を行う計画であること。

    (2) (1)の場合以外の場合にあっては、船員(内航又は外航船員に限る。以下(2)において同じ。)を計画的に採用し、計画的に訓練し、キャリアアップを図る計画であるかどうかを1)及び2)に基づき判断する。

1)船員教育機関を卒業した者のうち船員としての経験がない者、船員教育機関を卒業した者以外の者のうち新たに船員になろうとする者、女性であって船員(運航要員に限る。)になろうとする者又は退職自衛官のいずれかについて、採用及び訓練(退職自衛官等の船員経験者を計画的に採用する場合であって、採用後にキャリアアップのための訓練を実施する必要がない場合を除く。)を行う計画であること。

2)次のいずれかに該当する計画であること。

イ グループ化の促進に係る事業

  グループ化を通じて、船員教育機関を卒業した者のうち船員としての経験がない者、船員教育機関を卒業した者以外の者のうち新たに船員になろうとする者のいずれかを計画的に採用し、かつ、採用後に訓練を計画的に実施する計画であること。

   ロ 船員の資格取得促進に係る事業

    船員教育機関を卒業した者のうち船員としての経験がない者、船員教育機関を卒業した者以外の者のうち新たに船員になろうとする者のいずれかを計画的に採用し、これらの者が業務に従事する上で必要となる資格の取得のための訓練を計画的に実施する計画であること。

ハ 新規供給源からの採用促進に係る事業

新規供給源から船員を計画的に採用し、かつ、採用後に事業内容に応じて必要な訓練(退職自衛官等の船員経験者を計画的に採用する場合であって、採用後にキャリアアップのための訓練を実施する必要がない場合を除く。)を計画的に実施する計画であること。

ニ 船員の計画雇用促進に係る事業

    退職予定船員数や予備船員数の状況等を踏まえ、事業を円滑に実施するため、船員教育機関を卒業した者のうち船員としての経験がない者を計画的に採用し、かつ、採用後に上級資格の取得その他の訓練を計画的に実施する計画であること。

 A確実かつ効果的な実施可能性(第2号基準)

申請者の事業規模等を勘案して、計画に記載された資金の額及び調達方法が適切であるかどうかを判断する。また、当該資金の額、計画の実施体制等にかんがみ、トン数標準税制の適用を受けようとする場合にあっては、外航日本船舶の確保並びに外航日本人船員の育成及び確保が、その他の場合にあっては、船員の採用及び訓練が、確実かつ効果的に実施される見込みがあるかどうか等を判断する。

   B計画期間号基準

(1)Aに同じ。

 C船員職業安定法の特例(第4号基準)

ところによるとする。おりりるいるかれた状況に鑑みると会及び法第35条第3項第4号に定めるとおりとする。

 

らしまほうしょりきかん輸送の確保を図るため、船舶については、船Dトン数標準税制の適用 (第5号基準)

    法第35条第3項第5号に定めるとおりとする。

  Eその他

    更なる詳細については、本基本方針を踏まえ、計画の認定に関する基準として別に定めるところによる。

 

(3)計画の記載事項

   計画の記載事項は、法第35条第2項に定めるとおりとする。

 

 (4)計画の再認定

   計画の認定を受けた者は、計画期間が終了する場合において、再度計画を作成し、その認定を申請することができる。トン数標準税制の適用を再度受けようとする場合は、認定計画の最終年度であって、計画期間の終了の2ヶ月前までにその認定の申請を行うものとする。国土交通大臣は、認定計画に従って外航日本船舶の確保並びに外航日本人船員の育成及び確保を実施しているか否かを評価した上で、認定を行うこととする。

 

 (5)計画の勧告及び取消しに関する基本的な事項

   認定事業者が正当な理由がなく認定計画に従って日本船舶及び船員の確保を行っておらず、又は行わないおそれがあると認められるときは、国土交通大臣は、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。さらに、当該認定事業者が当該勧告に従い必要な措置を講じなかったときは、その認定を取り消すことができる。

   この場合において、トン数標準税制の適用を受けている認定事業者については、租税特別措置法に基づき、減税額相当分の取り戻しが行われる。

 

5.関係者の協力

  近い将来、高齢化の進展等による船員不足の深刻化が確実視される中、今後、若年船員を安定的かつ計画的に確保し、円滑に海技の伝承を行って世代交代を進める必要性は高い。

このためには、青少年の海への関心を高めるための広報活動も含め、海事産業全体として人材の育成及び確保に向けた取組みについて関係者間の連携強化を図る必要がある。例えば、平成1910月に設置された「海事産業の次世代人材育成推進会議」を活用し、官民が一体となって海事広報活動に戦略的に取り組むことが必要である。また、平成20年に開始される海洋に関わる幅広い分野での功績を挙げた者を内閣総理大臣が表彰する「海洋立国推進功労者表彰」を活用し、国民の海への関心を高めることが必要である。さらに、海事産業が集積する地域において、地域における様々な関係者が連携して海事関係の人材確保・育成に取り組む場合に、国も共同事業実施主体として参画し、地域の特性を活かした「海のまちづくり」を推進する。

 

 

6.日本船舶及び船員の確保に関する施策の評価の実施

安定的な海上輸送を継続的に確保していくためには、国際的な競争条件の均衡化を図ることに加え、日本船舶及び船員の確保を図ることが重要であることにかんがみ、2.に掲げる諸施策の効果を検証するとともに、今後も諸外国の動向等を踏まえ、我が国における施策の充実・強化の是非を不断に検討する必要がある。

このため、毎年度、施策の実施状況について交通政策審議会海事分科会に報告することとする。また、日本船舶及び船員の確保の施策の効果について適当な時期において評価することとし、必要があると認めるときは、今後、新たな制度的枠組みについて検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。