日本船主協会

トップページ海運雑学ゼミナール

海運雑学ゼミナール
040 帆船を飾った華麗なファッション―船首像
 帆船から汽船の時代に移って消滅してしまったものの一つに船首像がある。航海の安全を願って舳(へさき)に取り付けた彫刻で、蛇の頭など信仰の対象や魔力をもつものの姿をかたどったものだ。その歴史は古く、古代ギリシャ・ローマの商船やバイキング船にまで遡ることができる。しかし迷信から出発した船首像も、16世紀に入ると、富や威信のシンボルへとその意味も変わり、次第に豪華で手の込んだものになり、18世紀の中頃には、女優や皇太子、政治家など実在の人物まで登場するようになる。
 やがて19世紀半ば、大型で快速のクリッパー型帆船の全盛期になると、こうした“船首像芸術”は最も華麗で洗練された時代を迎える。スマートなクリッパー型帆船には、船首像がじつによく似合った。そこで各船主は、船首像の豪華さや美しさを競い合い、著名な彫刻家による作品も登場する。題材も、カティ・サークの妖精から、女神、男神、騎士、鷲などと幅広い。しかしその後汽船の時代を迎え、舳に突起部をもたない直立型船首が一世を風靡するようになると、船首像は急速に歴史の舞台から消えてゆく。
 スピードや大量輸送能力、経済性を最重視する現代の船には、船首像のような“ファッション”を楽しむ余裕はもはやない。しかし伝統を重んじる練習帆船などには、今も船首像を見ることができる。例えば国土交通省航海訓練所の練習帆船・日本丸の船首には、「藍青」と題された西田由・東京芸大教授制作の女神像が取り付けられている。時代は変わっても、流麗な帆船の姿と船首像は、切っても切れない関係にあるようだ。
前のページへ海運雑学ゼミナールタイトル一覧へ次のページへ