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海運雑学ゼミナール

143 原油タンカー:近代タンカーの原型となった石油輸送の革命児

 19世紀後半、石油が米国から欧州へさかんに輸出されるようになったが、当時はまだタンカーはなく、普通の貨物船を使いたる詰めで運ばれていた。現在でも、石油の量を示す単位としてバレル(たるの意味)が使われるのは当時のなごりだ。しかし欧州での石油消費量が増大し輸送量が増えてくると、これではいかにも効率が悪い。途中でたるが壊れるなど危険も大きかった。
 そこで、より効率的な方法として船倉内のタンクに石油をばら積みする方法が試みられたが、そこには大きな問題があった。液体である石油は、タンクいっぱいに積まないと中で激しく流動し、船は非常に不安定になる。その一方で石油は輸送中の温度の変化で膨張・収縮するため、いっぱいに積み込めば船体そのものが破壊される恐れがあったのだ。
 このジレンマを最初に解決した船が、ドイツの石油輸入業者ハインリッヒ・リーデマンが1886年に建造したグリュックアウフ号だった。
 まず船倉内での石油の流動を防ぐためタンクは縦横16の区画に分けられた。そして輸送中の膨張に備え、それぞれの区画ごとに排出口やガス抜きの弁が設けられた。また火災の危険を避けるため機関は船尾に置かれ、荷役は中央のポンプで行われた。つまり100年余り前に誕生したこのタンカーには、現代のタンカーが持つ特徴や機能がほとんど備わっていたことになる。
 当時、この船の積載量である2,700トンの石油をたる詰めで積み込むとその数は2万個近くになり、荷役作業に1ヵ月以上かかった。ところがこの船はそれをわずか3日で済ませてしまうことができた。
 就航してわずか7年後の1893年、グリュックアウフ号はニューヨーク港外で座礁し短い生涯を終えたが、卓抜なアイデアで近代タンカーの原型を作ったその功績は、現代の石油輸送の現場にも脈々と息づいている。
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