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海運雑学ゼミナール
172 近代気象学の成立に貢献した船乗りたちの経験と知識
 毎日の天気予報からエルニーニョ現象のような地球規模の気候変動の予測まで、気象学は私たちの暮らしや社会活動に最も重要な関わりをもつ学問分野の一つ。しかしその発展は、古来から多くの船乗りによって支えられてきたともいえる。
 ローマ時代の船乗りヒッパロスは、インド洋の季節風(モンスーン、当時は「ヒッパロスの風」と呼ばれた)を発見し、これを利用して紅海からインドまでの大洋横断航路を開いた。コロンブスが北東貿易風を巧みに利用して新大陸に至ったというのも、当時の船乗りの気象に関する知識が相当深いものだったことを示す事実だ。
 西オーストラリア屈指の鉄鉱石積出港、ダンピアにその名を残す英国の測量艦艦長ダンピア(1651〜1715)は、航海中に遭遇した台風や貿易風、季節風について詳細な記述を行い、その著書は近代気象学の基礎となった。また風力を判定する基準として現在も使われている「ビューフォート風力階級表」を作成したビューフォート(1774〜1857)は英国海軍の提督だった。
 日本の気象学の黎明期にも、やはり船乗りが重要な役割を果たしている。日本最初の暴風雨警報発令と天気予報を行い、天気図作成をはじめとする気象業務の基礎をつくったドイツ人クニッピング(1844〜1922)は、来日前は商船の一等航海士だった。さらに中央気象台初代台長の荒井郁之助(1835〜1909)は海軍伝習所出身で、軍艦「順動」の艦長、二代台長の小林一知(1835〜1906)も「咸臨丸」艦長を務めた軍人だ。
 長い帆船時代を通じて航海と気象は切っても切れない関係にあった。風の力を巧みに利用し、荒天を避けながら世界の海を行き来した船乗りたちの気象に関する経験や知識は、いわば地球規模の膨大な観測データベース。近代科学としての気象学は、このような船乗りたちの豊かな経験と知識なしには生まれなかったわけである。
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