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海運雑学ゼミナール
173 進水式のシャンパン割りはバイキング時代の生けにえの名残り
 船の建造に関係するセレモニーには、着工時に行われる起工式や完成時の竣工式などもあるが、最も華やかなのは何といっても進水式だ。船主をはじめとする関係者にとっては、それまで船台やドックで建造されていた船がその本来の活動場所である海上へ乗り出す、まさに船の誕生の瞬間を祝う重要な節目である。
 進水式の冒頭では、まず船主によって命名が行われる。すると船首両舷を覆っていた幕が取り除かれ、ペンキの色も真新しい船名が現れる。次いでシャンパンによる洗礼が行われる。これはシャンパンの瓶を船体にぶつけて割る儀式だが、その起源はバイキングの時代まで遡るといわれる。
 かつてバイキングたちは進水式に奴隷や囚人を生けにえとしてささげた。その名残は、中世以降、血の色を連想させる赤ワインの瓶を割る習慣として世界に広まり、それがやがて白ワインへ、そしてシャンパンへと変わってきたらしい。日本では日本酒が用いられることもある。
 このあと支綱切断へと移る。船体を支えている細い1本のロープ(もちろん形式的なもの)が船主の振り降ろす銀の斧によって切断され、船は船台上をゆっくり海に向かって滑り出す。ブラスバンドによる勇壮なマーチが流れ、船首に飾られたくす玉が割れて紙吹雪と五色のテープが風に舞う。船の一生の中でも、最も晴れやかな瞬間といえよう。
 ところで最近の大型船の建造はほとんどがドックで行われ、進水もドックへの注水により船を浮上させるドック進水が主流になっている。式次第は船台進水もドック進水もほぼ同様だが、巨大な船体が海に向かって滑り降りてゆくあのクライマックスの感動は船台進水だけのもの。時代の変遷とはいえ、寂しいことの一つではある。
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