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海運雑学ゼミナール
180 「船魂様」は、航海の危険を音で知らせる超自然のナビゲーター
 江戸時代から明治時代初期の和船には必ず船魂(ふなだま)様と呼ばれる神様が祭られていた。神様の居場所は帆柱を支える土台の筒(つつ)という部分。ここに縦1寸5分(約5.7cm)、横1寸2分(約3.6cm)の穴を2つ開け、夫婦雛、かもじ(髪結用のヘアピース)、麻、五穀、さいころ2個、銅銭12文を、紙に包んで水引をかけて納めたものがご神体だ。
 この不思議な品目の組み合わせの意味は不明だが、霊験はあらたかだったようだ。そのご利益は、海象や気象の変化、海難の危険などを予知してくれること。船魂様はこうした予知情報を、船上でかすかに聞える「リンリン」という鈴虫の鳴くような音で知らせてくれる。
 これを「船魂様がいさむ」あるいは「船魂様がしげる」といい、激しく鳴れば凶兆、優しく鳴れば吉兆、つまり船魂様のご機嫌がいいと解釈された。また船魂様は清潔好きで、ご神体を納めた部分に汚水などが掛かると、とたんに機嫌を損ねて激しく鳴りだしたという。
 この船魂様がいさむ音は誰にでも聞えるわけではなく、また常に聞えるわけでもないが、船頭には必ず聞え、その鳴り方の解釈も船頭だけができたといわれる。
 迷信と言ってしまえば簡単だが、廻船乗りから漁船乗りまで、かつて日本の船乗りに広く受入れられてきたこの超自然のナビゲーターが、危険の多い航海に向かう人々に大きな安心感を与えていたことも事実だろう。
 しかし明治期に入り、廻船や漁船が徐々に動力船に変わるにつれて、この船魂信仰も衰退していった。動力船の騒々しい機関音の中ではもはや船魂様のいさむ音も聞えるはずがなく、その役割は気象通報や海図、灯台などの近代的なシステムに受け継がれていったのである。
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