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海運雑学ゼミナール

192 大自然をフル活用した帆船時代のトイレ事情

 船のトイレといえば、最近は、客船でも貨物船でも、造水器でつくられた水がふんだんに使える水洗トイレが常識だ。しかし、かつての帆船時代には、もちろん造水器はなく、さらにいえばちゃんとしたトイレもない時代が長かった。
 それでも用が足りたのは、海そのものを、巨大な水洗トイレとして活用できたから。
 当時のトイレ(といってもせいぜい「トイレ」と呼ばれた場所でしかないが)は、船の舳先の部分、船首像の下のあたりにあった。
 帆船の場合、船の進行方向が風下になることが多く、落下物は風の力で前方に飛ばされ、船体を汚すことがない。よしんば汚れても波が洗い流してくれるため、非常に好都合な場所だったのだ。
 コロンブスの時代には、マストと舳先をつなぐロープにぶら下がって用を足すというアクロバット的なことも行われていたが、後の時代には船首部に腰掛式の便器がしつらえられるようになった。もちろん、その下は海面である。
 こうしたことから、英国海軍などでは、軍艦に限らず、兵員用のトイレ全般を「ヘッド(船首)」と呼んだ時代もあった。
 船の威信をしめす神聖な船首像の下につくられた大自然利用の水洗トイレ。まさに聖なるものと俗なるものの類まれなる同居といえるが、そこには、このように非常に合理的な理由があった。帆船は、こんなところでも大自然の力をフルに活用していたのである。
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