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海運雑学ゼミナール

217 16世紀のマスメディアがつくったアメリゴ・ベスプッチの虚像

 アメリカ大陸の名称は、フィレンツェ生れの航海者で天文地理学者でもあったアメリゴ・ベスプッチの名に由来する。しかし新大陸の発見者はもちろんコロンブス。アメリゴがあたかも真の発見者であるかのように喧伝されたのは、いわばマスコミの力によるものだった。
 彼の本来の業績はコロンブスが発見した大陸がアジアではなく全く別の新大陸であることを明らかにしたこと。北米東岸から南緯50度まで、緯度にして90度余りの長距離を大陸に沿って航海し、地理や原住民の風俗習慣を観察し、合理的な推論から導き出した結論だった。
 ところが彼のこうした観察結果を報告する書簡が、当時普及し始めていた活版印刷によってヨーロッパの主要な言語に翻訳・印刷され、ベストセラーとなってしまったのである。
 さらに1507年、ロレーヌ地方の修道院が当時の最新知識を取り入れた世界地理の本を出版。この本に掲載された世界地図で、新大陸の呼称に「アメリゴ」の名からとった「アメリカ」が用いられていた。
 これはあくまで編集者のアイデアによるもので、彼自身は全く関与していない。しかしこの本もまたベストセラーとなり、アメリカという名称は一気にヨーロッパに普及。おかげで彼は、後日、新大陸発見の栄誉の横領者という濡れ衣を着せられる羽目に陥る。
 そもそも当時の常識からすれば、航海中の新たな発見の栄誉はその船団の指揮者に属し、学者として乗船したアメリゴにその権利はない。彼自身そのことをよく知っており、自らそれを主張したことは一度もない。またコロンブスにとってアメリゴは晩年に至るまで親しい友人で支援者だった。ここからも彼に栄誉を横取りする意図がなかったことは容易に想像できる。
 アメリゴの濡れ衣は、当時最新のマスメディアだった活版印刷が生み出した虚像の一人歩きによるものだったわけである。
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