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海運雑学ゼミナール

246 現代の海上保険の原形となった地中海のベンチャーキャピタル

 保険といえば、生命保険や火災保険など、今や暮らしの中でごく身近な存在だが、その起源は、古代ギリシャ・ローマ時代まで遡る。
 原形となったのは、ギリシャ・ローマ時代から中世にかけ地中海地域を中心に盛んだった「冒険貸借」と呼ばれる金銭消費貸借だった。
 これは資本家が冒険的な航海者や貿易業者に資金を貸し、航海が無事だった場合は元金と利息を受け取り、海難などで航海が失敗した場合は返済を免除するというもの。現代のベンチャーキャピタルにも似ているが、リスクが大きい分、利息も通常の金銭貸借より高かった。
 これが海上保険に転化していくきっかけとなったのは、13世紀にローマ法王グレゴリオ9世が布いた徴利禁止令だ。利息を取ることを禁じられた資本家たちが考え出したのは、貸借の関係を冒険貸借と逆にするアイデア。保険者(資本家)が船主や荷主から一定金額の借金をしたように仮装し、契約内容を、航海が成功した場合は返済が免除され、失敗した場合は返済を要するとしたものだ。
 この新しい方式は、資本家側にも大きなメリットをもたらした。航海が成功すると借金や利息を返済せずに雲隠れしてしまう借り逃げの被害から免れるようになったことである。
 その後、こうした契約は商品の売買契約を仮装するようになる。すなわち保険者が一定量の商品を荷主から買い入れたことにし、航海が無事終了すれば、その代金は支払われず、失敗した場合にのみ支払うわけだ。
 この特殊な売買契約は、やがて現在のような海上保険契約へと変化し、15世紀前半には現代の海上保険法の母法ともいわれるバルセロナ法が生まれる。その概念はやがて他の地域にも広まり、17世紀末にロンドンのロイズ・コーヒー店に集まった投資家や海運・貿易業者を中心に誕生したのが有名なロイズ保険市場だ。
 現代の社会・経済システムを円滑に動かすうえで欠くことのできない保険システムもまた、海運の歴史が育んだ重要な社会的財産の一つなのである。
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