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海運雑学ゼミナール

261 錨のマークは希望と信頼のシンボル

 船は、海上では、潮流や波、風などさまざまな外力を受け続ける。航行中なら、エンジンや帆、櫂、舵の力で、コントロールできても、止まっているときは、まさに波まかせ、風まかせ。どこへ流されるか分からない。そこで海上に停泊している船を、所定の位置に確実に繋留するために考案された装置が錨だ。
 現代の大型船の錨は、5万D/Wクラスのコンテナ船を例にとれば、本体が10数トン、アンカーチェーンが50〜60トン。それを左右1組に、さらにスペアの錨を加え、全重量は150〜160トンにもおよび、それを操作する揚錨機も必要とする巨大な装置だ。しかし海底の土や砂をしっかりととらえ、船を確実につなぎとめる単純なその機能の重要性は今も昔も変わらない。
 その起源は船の歴史と同じくらい古く、最初はロープをくくり付けた石などが使われていたが、英語の Anchor の語源となる古代ギリシャ語が「曲がった腕」を意味することから、すでにギリシャ時代には、現在の錨に通じる形状のものが出現していたと考えられている。またわが国でも、万葉集の中に「大船のたゆたふ海にいかり下ろし」などと歌われ、古代から人々の生活に密接なものだったことがうかがえる。
 マリンルックのデザインなどでお馴染みの錨のマークは、西欧では、古来、「愛」の象徴の心臓(ハート)、「誠実」の象徴の十字架と並ぶ、「希望」の象徴として大切にされてきた。リレーなどの最終走者を「アンカー」と呼ぶのにも、最後の希望と信頼をその選手に託すという意味がある。荒海に漂う船を、押し寄せる波や風に抗して力強く繋ぎ止める錨に、人々は神秘的なエネルギーや神の加護を感じてきたのかもしれない。
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