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海運雑学ゼミナール

275 リバティー船建造の教訓が生んだアーク溶接法の実用化

 現代の鋼船のほとんどは溶接によってつくられている。金属棒と溶接したい鉄板に電極を接続し、鉄板に溶接棒を近づけたときに出る高熱の火花で鉄板を溶解して接合する技術がアーク溶接法。1891年にスラビヤノフによって考案された。しかし鋲打ちに代わって溶接が船舶建造技術の主流になるには、それからさらに半世紀以上の時が必要だった。
 鉄板同士を重ね合わせずに接合できるため、使用する鋼材が節減でき、船体構造も軽くできること、工事の手間が少なくて済むことなど、溶接には鋲打ちと比べて優れた点が多かった。しかし溶接時の熱で鋼材が硬くなり衝撃に対して脆くなることや、熱によって鋼材に歪みが出やすいなど大きな弱点もあった。
 こうした壁を克服する契機となったのが、第二次大戦中の米国によるリバティー型輸送船の大量建造だった。およそ700隻にも上ったこの輸送船の建造はすべて溶接で行われた。
 しかし、当時、船舶用に使われていたリムド鋼は炭素や硫黄、燐などを多く含んでいたため、溶接部分から亀裂が発生しやすく、多くの船が沈没したりダメージを受けた。
 これを教訓に米国政府と鉄鋼メーカーは溶接に適した鋼材の研究を進め、1950年代には熱による強度変化が少ないキルド鋼を開発。さらに溶接器具や工作法も改良した結果、溶接は鋼船建造に最も適した実用的な技術となる。
 戦争という非常時だからこそできた溶接工法の大規模な実験。その成果は、戦後の日本にも導入され、さらに発展して、世界に先駆けた超大型タンカーの建造など、日本の造船業の技術力を示す数々の成果を生み出してゆく。
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