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海運雑学ゼミナール

287 ヘドロの海底は安全水深のグレーゾーン

 航行する船舶にとって、水深は、極めて重要な要素だ。ある船が、特定の水域や水路を航行できるかどうかは、何よりもまず水深で決まる。また港湾や運河などでは、そこを航行する最大の船舶の喫水をクリアするだけの水深を常に維持しなければならない。
 このとき厄介なのがヘドロの海底だ。背後に大都市をもつ港湾では工業排水や生活廃水の流入で海底に有機物質が泥状に堆積する。これがヘドロで、日本の主要港湾の半数以上がこうしたヘドロ層に覆われているといわれる。
 ヘドロ層の表層部は水を大量に含んで密度が極めて小さい流体、いわゆる浮泥の状態になっている。このため、この部分に船底やプロペラが接触しても航行上はほとんど問題がない。
 ところが現在の水深測定の主流の音響測深では、ヘドロの表層部分までが水深として計測され、実際には航行可能な水路でも、海図上では航行不能となってしまう場合がある。
 実際に錘を吊るして測った場合と、音響測深で得られる値の差はかなり大きく、とくに浚渫したばかりの海底では、その差は5メートル近くに達することもあるといわれる。
 こうしたことからわが国では、航路や泊地で、音響測深と錘測による測定値の差が0.5メートル以上の場合は、より詳細な浮泥層調査を行い、浮泥層の厚さを10センチ単位で示す「浮泥層調査図」を作成している。
 さらにヨーロッパのロッテルダム港などでは、ガンマ線検出器で浮泥層の詳細な密度分布の断面を求め、比重1.2以下の部分については航行可能と判断する基準を設けている。これで比重1.2以下の浮泥層については浚渫不要となり、港湾機能維持コストが大幅に削減できたという。
 工業化・都市化によるヘドロの堆積と音響測深という新しい調査技術が生み出した安全航行のグレーゾーンともいうべき浮泥層。安全性と経済性の両立に向け、さらに調査・研究が必要な分野だが、環境面からみれば、ヘドロのない美しい海の再現が理想であるのはもちろんだ。
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