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海運雑学ゼミナール

306 森林枯渇で終わりを告げた海の女王ベネチアの覇権

 地中海の覇権を握り、イスラム諸国経由で入ってくる香料その他、様々な東洋の物産の中継貿易で巨利を得ていた15世紀半ばのベネチアは、当時、キリスト教圏最大の海軍国でもあった。
 当時のベネチア海軍の主力はガレー船で、細長い船体に三角帆を装備し、さらに150人ほどの漕ぎ手を乗せ、風があれば帆走し、風がなければ漕ぎ手の力で航海できた。
 ベネチアは、通常の大型の商船も数多く保有していたが、船足が速く、風向きが悪くても自由に港を出入りでき、海賊の襲撃にも武力で対抗できるガレー船は、香辛料のような高価な貨物を運ぶのに最適だった。このためベネチアのガレー船は、軍船として国土や自国商船の防衛に携わるとともに、地中海を定期運航する高速貨物船としても活躍していた。
 このガレー船は、すべて国営の海軍工廠で建造され、その材料となる木材は領土内の豊かな森林から潤沢に供給された。
 しかし交易の拡大やイスラム勢力との度重なる海戦のための大量のガレー船建造により、やがて領土内の森林資源が枯渇し始める。
 15世紀末にはオークやマツ、モミなどの森林の厳重な保護政策がとられたが、時すでに遅かった。イスラム勢力とキリスト教勢力の最後で最大の海戦となったレパントの海戦では、軍船建造のために25万本の成木が伐採されたといわれ、これが領土内の木材資源のほとんどを枯渇させてしまう。
 こうして精強なガレー船団に支えられたベネチアの覇権の時代は終わる。地中海の女王とも呼ばれたベネチアの凋落は、現代人にとっても資源管理の重要性を教える貴重な教訓である。
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