日本船主協会
室蘭丸(タンカー/新日本石油タンカー)
原油タンカー アジアの原油を日本に運ぶ
独自のアイデア満載の新鋭タンカー
室蘭丸 主 要 目
室蘭丸 全 長 243.50m
全 幅 44.00m
深 さ 23.20m
満載喫水 14.40m
総トン 67,524G/T
載貨重量トン 104,722D/W
主機出力 14,080kw
航海速力
(満船)
15.50knot

 二重構造化された船側をもつ、ダブルサイドと呼ばれる新設計のタンカーを、東京タンカーが世界に先駆けて就航させたのは1979年のことだった。
 かつてのタンカーは船側も船底も一層構造のいわゆるシングルハルで、空船時には貨物タンクの一部にバラストとして海水を積んだ。
 しかしシングルハルの船体は衝突などによる油流出事故を招きやすく、また貨物タンクをバラストタンクとして兼用すれば、排出するバラスト水に混じった油分が海洋汚染の原因になる。そこでIMO(国際海事機関)が義務づけたのが分離バラストタンク(SBT/Segregated Ballast Tank)とその防護的配置(PL/Protective Location)による安全対策だった。これは海水だけを積む専用のバラストタンクで空船時の必要喫水を満たし、さらにSBTを船側に配置して衝突などに対する安全性確保を狙ったもの。しかしSBTがカバーするのは船側と船底の一部分にすぎないため、その効果にはやはり限界があった。
ダブルハル
▲ダブルハル(二重船殻)
 東京タンカーが10年前に就航させた麻里布丸、高石丸、下松丸の三隻のダブルサイドタンカーは、こうした当時の安全・環境対策の方式をさらに一歩進めたものだった。居住区と機関部を除く船側の全面を二重構造化し、SBTとして利用することで衝突による油流出に対する高い安全性を確保した先進的な船体設計は、当時の海運界で高く評価され、以後、世界のタンカーが多くがこの方式を採用するようになる。。船底部分は一層構造だが、概念としては現在のダブルハル(二重船殻構造)に通じる極めて斬新な設計だった。
 タンカーのスペシャリストとしての同社のこうした先進的な発想は、タンカーの二重船殻化が義務づけられた現在も脈々と受け継がれている。
 1996年11月29日に竣工した「室蘭丸」も、そうした同社のノウハウを結集した新鋭船。東南アジア産の原油を輸送するための10万重量トン級タンカーで、ダブルハルタンカーとして、また低温で凝固する性質をもつ南方原油輸送専門のタンカーとして、数多くの独自ノウハウが投入された。
 「室蘭丸」のユニークな特徴の一つは、二重船殻のスペースが幅3.8メートル、高さ2.7メートルと、MARPOL条約による規制値(幅、高さとも1メートル以上)や通常のタブルハルタンカー(2メートル程度)よりもはるかに大きくとられている点だ。
 これにより衝突や座礁の際の油流出の危険性が一層低くなるのはもちろん、通気性が良好で内部が錆びにくく、また乗組員が内部を点検する際にも作業効率が高まるというメリットが生まれた。
 船側部バラストタンクの内部を上下に四層に区切り、さらに左右方向も複数の区画に分けた構造も独自のものだ。これにより空船航海時のバラスト水の遊動を最小限に抑制でき、高い運航性能の確保に成功している。また四層構造にすることで、足場を組まなくてもタンク内のメンテナンスが可能になった。さらに貨物タンク自体も中央で左右に分離し、これも貨物油の遊動を低減する上で大きな効果を発揮している。
バラストタンク
▲人が楽々歩ける高さの底部
バラストタンク
 流動点が45度と高く、冬場に凝固しやすい南方原油に対応した工夫も「室蘭丸」の大きな特徴だ。貨物タンク内に保温のためのヒーティングコイルを備えているのはもちろん、ポンプルームや甲板上のカーゴラインまで船内の到る所に徹底した凝固防止対策が施されている。
 まずポンプルーム内を通るカーゴラインの屈曲点など残油が溜まりやすい箇所のほとんどにトレーサーライン(蒸気管)が巻かれ、そこに高温の蒸気を通してライン内部での残油の凝固を防ぐ。さらに甲板上のカーゴラインの全てに、船首から船尾方向へ、あるいは中央から左右舷側方向へ傾斜がつけられ、どの場所でも残油が滞留せず自然に流れるように工夫されている。
 船内のおびただしい箇所に施されたこうした独自のアイデアは、同社のタンカー運航における豊富な経験から生まれたもので、本船建造中も同社の工務担当者が造船所に常駐し細部にわたる指示を行った。目的合理性に適合した使い勝手の良い船をつくるうえで、ユーザー側のノウハウがいかに重要かを示す好例といえる。
 輸入量全体の約80%に達するわが国の原油輸入の中東依存を緩和する上で「室蘭丸」が運ぶ南方原油は極めて貴重な存在だ。原油輸送のエキスパートとしての豊富な経験やノウハウを生かして生まれた新時代のタンカー「室蘭丸」は、今日もアジアの南と北を結び、高度な輸送技術を駆使して、日本の暮らしと産業を支えるエネルギーを運び続けている。

▲カーゴラインに巻きつけられた
凝結防止用の蒸気管



▲原油が滞留しないように
傾斜させたカーゴライン