日本船主協会
神王丸(RORO船/栗林商船)
RORO船 モーダルシフトの時代を切り開く
地球に優しい大型・高速RORO船
神王丸 主 要 目
神王丸 全 長 160.52m
全 幅 24.00m
深 さ 15.80m
満載喫水 7.015m
総トン数 10,980G/T
載貨重量 6,918D/W
積載台数
(ヘッドレスシャーシ)
128台
主機出力
(最大)
21,600ps
航海速力 21.00knot

 地球温暖化対策としてのCO2排出量削減が世界的気運として盛り上がるなか、我が国では、トラックによる陸上輸送の一部を、より環境負荷の低い輸送機関である海運や鉄道にシフトする、いわゆるモーダルシフトが、その切り札の一つとして注目されている。
「神王丸」は、国が推進するモーダルシフトの受け皿として1999年11月18日に竣工した最新鋭船。栗林商船がパイオニアとしてのノウハウを結集した1万980総トン、航海速力21ノットの大型・高速RORO船だ。21ノットという速力は、従来の内航RORO船の常識を覆すものといえる。
 東京・苫小牧航路に就航するこの船は、当初、王子製紙苫小牧工場の物流合理化の要請を受けて計画された。それまでのばら積みとシャーシ輸送併用の物流形態をオール・シャーシ輸送に切り替えるプランだ。
 工場でシャーシ積みされた製品は、トラクターで牽引されて直接船内に運ばれ、船内でトラクター・ヘッドから切り離される。目的地では再びトラクター・ヘッドと連結され、そのままユーザーの元へ搬入できる。
 従来のばら積み輸送では、港頭倉庫を中継点としたトラックからトラック、トラックから船への積み替えを要していたが、これによって全てワンステップ輸送が可能となり、流通コストの削減が期待できる。

▲トラクターに牽引されて
積み込まれる
トレーラー・シャーシ
 「神王丸」は、こうした要請に応えるために、12メートルのヘッドレス・シャーシ128台積みの大型・高速RORO船として計画された。同時に検討されたのが、取得コストの面で有利な条件のつくモーダルシフトA仕様として建造するプランだった。
 モーダルシフトAが適用される条件は、見做しトン数(内航海運の船腹調整に用いられた特殊な算出法によるトン数)1万トン以上、トラック、シャーシ、コンテナを輸送する船で、航路が500キロ以上、さらに貨物の50%以上が従来陸上輸送されていたものであることだ。神王丸のプランはその条件に適合した。
 物流合理化計画の前提は、近海郵船、川崎近海汽船のほぼ同タイプのRORO船と合わせた3隻によるデイリー運航だ。東京・苫小牧間を3隻でデイリー運航するには21ノットの速力が要求される。同航路ではすでに30ノットの高速貨物フェリー2隻によるデイリーサービスを行っている会社があった。同様のプランも検討されたが、詳細に検討した結果、CO2削減を目的とするモーダルシフトを意識するなら、やはり三隻によるデイリー運航が有利と言う結論に達した。理由は次のようなものだった。
 21ノットの船を3隻合わせた建造費は30ノットの船2隻の場合とほぼ同額。輸送量にも差はなく、異なるのは航行距離だ。3隻を合計した年間総航行距離は約4万キロ。これが2隻によるデイリーだと約9万キロとなる。年間5万キロの航行距離の差は、CO2排出量では15万トンの差に相当する。
 省エネルギーをはじめ様々な工夫も積極的に取り入れられた。主機関には第三世代の中速エンジンとして注目されるNKK—SEMT—ピールスティックの2万1600馬力型を搭載し、航行中の発電も主機関で行うことによって燃料消費量は大きく低減した。
 フィンスタビライザー(横揺れ防止装置)を装備したことで、航海中の貨物の安全性も高まった。積載されたシャーシは確実に固縛されるが、積み荷自体の荷崩れは本来は荷主の責任とされる。その危険を低減するこの装備は、荷主にとっては大きなサービス向上となる。
 着岸サイドの左舷ブリッジウィングを船体最大幅よりさらに1メートル張り出させ、そこに舵・プロペラ・スラスターを一元制御するジョイスティックコントロール装置を搭載し、離着岸時の安全性も大幅に高めた。

▲操船性を高める
コントローラブルピッチプロペラと
スターンラスター
 機関室のモニタリングや、倉内照明や通風機、バラストのコントロールも、すべてブリッジ・コンソールのCRT画面を見ながら行えるようにした。こうした省人化の努力も、より高効率・低コストの運航を追求することで、モーダルシフト適合船としてのインセンティブを高めようという意気込みの現れだ。
 別の面でのユニークな工夫が、船員の居室をすべてシティホテル並みのバス・トイレ付き個室としたこと。船員不足に悩む内航海運業界にあって、今後想定される女性船員の乗船にも即時対応可能だ。
 20世紀を、産業革命に端を発した工業化の時代と位置づけるなら、21世紀は、それによって疲弊した地球環境を回復するための環境の時代ということができよう。輸送分野における環境貢献を使命として担うモーダルシフトの尖兵として、神王丸は、地球に優しい新時代の国内物流の可能性を切り開こうとしている。

▲輸送中の貨物の安全性を
高めたフィンスタビライザー