海賊による主なハイジャック事件
Tenyu号事件(1998年発生)
同号(パナマ籍、4,240DW)は、アルミインゴット3,006MTを積載しスマトラ北部のTanjung港を韓国向け、1998年9月27日に出港し、その後、乗組員とともに消息を絶った。
1998年12月21日、IMBはSenei 1号と称するTenyu号に似た船が中国 Zhangjiagang港にいるとの情報を得た。同船は偽造書類により船名を変えホンジュラス籍船としてインドネシア人乗組員16名により運航され、アルミインゴットではなく、やし油の揚げ荷役を行っていた。 Tenyu号の15名の乗組員(韓国人2名、中国人13名)の消息は不明であるが殺害されたものと見られている。
同号のハイジャックに係わったと見られる16人のインドネシア人乗組員の内の一人が、4年前に起きたAnna Sierra号ハイジャック事件に係わっていたことが判明した。中国当局は、十分な捜査を行ったが同号の16名がハイジャックに係わったとする証拠は何もなかったとし、彼らを釈放し1999年6月22日インドネシアに帰国させた。この中国の対応は海運業界から激しく非難された。
Cheung son号事件(1998年発生)
23人の乗組員を殺害し死体を海に投げ捨てたことで、もっとも残酷な海賊事件の一つとされる同号事件が最近、犯人である13人(インドネシア人1名中国人12名)に死刑判決が下されたことにより決着した。(同号は、1998年11月16日乗組員とともに行方不明になっていた)
死刑判決を受けた犯人達は、海上強盗、殺人、麻薬の密輸、銃および弾薬の不法所持の罪を問われていた38名のギャングの仲間であり、他の船舶のハイジャック事件にも関与していた。残る19名には懲役および罰金刑、6名には無罪が言い渡された。
Marine Master号事件
同号(パナマ籍5,590GT)はソーダ灰およそ6,000トンを中国Nantong港で1999年3月1日積載し、補油と補水のため、シンガポールに立ち寄り、3月14日、カルカッタ向け出港した。3月17日9-10N/97-10E(アンダマン海)において二隻の漁船と一隻の高速ボートが接近し、顔をマスクで隠しマシンガンやピストルで重武装した20名の海賊(その内の何人かは軍服を着ていた)に乗り込まれた。急いで居住区のドアを閉めようとした一等航海士が海賊の一人からピストルで腕を撃たれ、乗組員は目隠しをされ、両手を縛られた。乗組員はその後二隻の漁船にそれぞれ5名の海賊とともに分乗し、3月21日、乗組員16名全員が、海というよりはプールで使うような小さな膨張筏に移乗させられた。乗組員は、3月27日通り掛かりの漁船に救助されている。
事件発生後、 IMBは周辺当局に特別警報を発し、6月7日、船名をNuovo Tierra船籍をホンジュラスに書き換えた同船が中国南部Fangcheng港で発見された。14名のミャンマー人乗組員は逮捕され、同船は台湾の船主に返還された。
Siam Xanxai号事件
同号(2,060MT)は、ガスオイルを積載しシンガポールを出港し、1999年6月8日2350LT頃、マレーシア、Tiomon諸島沖にて、銃とナイフで武装した海賊によりハイジャックされ、タイのSongkhlaに向かった。タイ人乗組員17名の内、運航要員として人質に取られた一人以外は小船に移乗させられた。その後乗組員はSibuの漁民に救助されている。
IMBは周辺当局に警報を発し、7月中旬、Auo Me 2号という船が中国南部Guangdong県のとある港で、揚げ荷書類の不備により拘束された。取り調べにより、この船は、Auo Me 2号ではなく、Siam Xanxai号であることが判明した。
インドネシア人のリーダーは、自分たちはシンガポール人から頼まれた麻薬密輸の人間であると主張しているが、現在は中国当局による裁判を待つ身となっている。中国当局は船舶と積荷の売り上げを船主に返還した。
Alondra Rainbow号事件
アルミインゴット7,000トンをインドネシアKuala Tanjung港で積載した同号は三池港に向け1999年10月22日出港した。出港後すぐに、銃とナイフで武装した海賊にハイジャックされ、乗組員は他の老船に移乗させられた。その後乗組員は11月8日タイ沖合いを救命筏で漂流しているところを漁船に救助されている。
同号が行方不明になってまもなく、IMBの海賊情報センターは関係機関に通知し、周辺海域航行中の船舶には同号に似た船舶についての情報提供が求められた。11月14日同号に似た船舶を発見したとの通報を受けたIMB海賊情報センターは同号の写真をインド沿岸警備隊に送り当該船の位置の確認と拘束を求めた。インドの迅速な対応により捜索機が不審船を発見したが、船名がMega Rama、船籍がBelizeとなっていたため、IMBが確認したところ、そのような船はBelizeに登録されていなことが判明。 捜索機は同船と通信を試みるも、返答は無かった。その後巡視船がPonnani沖70マイル航行中の同船を捕捉すべく差し向けられ、船首前方へ警告射撃を行ったが、同船は停止することなく航行を続けた。ついには、ミサイル搭載のコルベット鑑が投入され、公海での追跡劇は、11月16日Goaの沖およそ170マイルで幕を閉じた。
国連海洋法条約105条に基づき、海軍の艦船は拘束するために段階的に武力行使を行った。15名の海賊は証拠隠滅のため船の破壊工作を試みたが、インド海軍が乗り込み食い止められ、同船はMumbaiまで曳航された。
約3,000トン、450万ドル相当のアルミインゴットが、すでにどこかの港で陸揚げされていた。生産工場の刻印のある大量のアルミインゴットが通常の業者に引き渡されたとは考えられない。クレジットカードや数ヶ国の紙幣数千ドル相当が発見されたこと、犯人のうちの二人が過去ハイジャック事件に係わっていたという事実は、彼らが大きなシンジケートの一員であることを示すものである。
インド警察は彼らを拘束し、裁判にかけると言明している。もし、彼らが言うとおり成功裏に事が運べば、当該事件は、産業界と法執行当局が協力して為し得た完璧なお手本となるかもしれない。産業界がこの種の事件に対して有効な法的強制力を必要としていることは疑いの無いところである。また、これは海賊に対して、アジア特にインド周辺海域は海賊が暗躍できる場所でないとの明確な信号ともなる。
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