2・2 大気汚染防止関連
2・2・1 IMOの動向
船舶からの大気汚染防止に関するMARPOL条約付属書Yは2005年5月に発効したばかりであるが、2005年7月の第53回海洋環境保護委員会(MEPC53)において、同附属書の窒素酸化物(NOx)および硫黄酸化物(SOx)の排出基準では十分な環境保護が確保されないこと、粒子状物質(PM:particulate matter)や揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds)に関する排出基準が規定されていないことなどの理由から同附属書の改正について検討することが合意された。
通常であればMEPCで設置される作業部会(WG)においてMARPOL条約関連規則の改正が行なわれるが、同会合における大気汚染防止に関するWGは、すでに検討事項が多数あり、これ以上検討事項を増やすことが困難なことから、ばら積み液体・ガス小委員会(BLG)において検討することとなり、BLG10(2006年4月3日〜7日)より検討が開始された。
同会合における主な審議は以下のとおりである。
(1)NOx排出基準について
ディーゼル機関から排出されるNOxの新排出基準を検討するため、2サイクルエンジンおよび4サイクルエンジンにおいてA重油とC重油を使用した場合について、それぞれのNOx排出低減技術とその効果等について検討が行われた。
低減技術としては、燃焼改善(エンジンの改良)、水エマルジョン※1、水噴射※2、選択接触還元脱硝装置(SCR)※3などの技術が提案されており、それぞれの技術を導入した場合の現行基準からのNOx削減目標値は概ね以下のとおりとされた。
燃焼改善 :10〜30%程度
水エマルジョン :10〜25%程度
水噴射 :40%程度
SCR :80〜85%程度
新排出基準の導入方法については、1段階で導入する案と2段階に分けて導入する案があったが、多数の国が2段階案を支持したことから、新基準の導入については2010年および2014年(もしくは2015年)を目途に2段階に分けて導入されることとなった。
また、規制の適用海域については、殆どの国が海域ごとの規制ではなく包括的な規制の適用を支持し、今後、包括的な規制を念頭に検討が行われることとなった。
なお、既存船については、何らかの規制の必要性が認められたものの、現行規則のようなエンジン自体の型式承認を前提とした規制の導入は困難であることが確認され、今後の検討課題となった。
※1水エマルジョン:燃料油中に微細な水滴を混入させた燃料(エマルジョン燃料)を使用する手法
※2水噴射:燃料油と水を別々のノズルにより燃焼室に噴射し、燃焼させる手法
※3 SCR:排ガス中にアンモニアを注入し、触媒の作用により化学反応を促進させ、NOxを還元してN2とH2Oに分解する装置
(2)SOx排出規制について
現行規則では環境に対する影響が改善されず、また舶用燃料油中に含まれる硫黄分は粒子状物質(PM)の発生量に直接影響することから、硫黄含有率低減の必要性が認められた。しかしながら、現状においては、硫黄分の低い低硫黄燃料油の供給体制が、石油業界に整っていないことから、今次会合において、具体的な数値に関する審議は行われなかった。
なお、欧州委員会(EC)より2008年には欧州海域全域をSOx排出規制海域(SECA)に指定して、硫黄含有率を0.5%に制限するとの表明があった。
(3)PMについて
PMに関する調査研究は十分に行われていないため、不明な点が多いものの、議場において次のような意見が出された。
@ 海水スクラバー(脱硫装置)で大きい粒子の大部分が除去できるが、ナノスケールの微粒子は除去が困難であること
A 舶用燃料油中の硫黄含有率に、PM濃度が大きく影響されるため、使用燃料油の含有硫黄規制が重要であること
B PMの計測方法は標準化されておらず、また船上での計測は困難かつ高額の費用が
かかること
C PMの粒径により人体への影響が異なること
D PMの粒径により大気中の拡散距離が異なることからシミュレーションなどによる評価が必要であること
審議の結果、これら意見を踏まえ、シミュレーションモデルによる評価をもとにPM規制の必要性を今後、検討することが合意された。
(4)VOC規制について
現行MARPOL条約ANNEX VIには、VOCに関する規定はあるが、具体的な規制値等は定められていない。
そのため、VOCに関する具体的な要件について審議が行われた。
審議において、積荷流量調整やタンク圧の調整などVOC排出低減のための「VOC管理計画」を作成することが提案されたが、時間的な制約もあり、議論の進展はなかった。
(5)今後の審議スケジュール
書面審議グループを設置し、既存船への規制の適用を含め、NOx、SOx、PMおよびVOCの排出規制について引き続き検討されることとなり、また、2006年11月にはノルウェーにおいて中間会合が開催されることとなった。
なお、同付属書Yの改正は、2007年のBLG11を目途に検討を完了することが合意された。