2・4 バラスト水排出規制問題への対応

 

船舶から排出されるバラスト水に含まれるプランクトンなどの水生生物の移動を防止し、生態系を保護することを目的に、IMOにおいてバラスト水管理条約が20042月に採択された。

同条約では、具体的な指針となる14のガイドラインを作成することとなっており、IMOにおいて検討が行われている。

また、同条約では200911日より、バラスト水タンクの全容量に基づき、段階的にバラスト水処理装置の搭載が要求されている。しかしながら、当該処理装置の実用化が遅れていることから、その開発状況等に関し検証が行われることとなっている。

 

(1)MEPC53の審議概要(2005718日〜722日)

 @ ガイドラインの審議

 MEPC53では、バラスト水管理条約の具体的な指針となる14のガイドラインのうち、先ず同条約の根幹となる「バラスト水処理装置型式承認に関するガイドライン:G8」および「活性物質1の承認に関するガイドライン:G9」を優先的に検討し、順次、その他のガイドラインについて検討することとなった。

 同会合での審議の結果、次のガイドラインが採択された。(各ガイドラインの概要については資料2-4-1ご参照)

    バラスト水管理同等物ガイドライン(G3

    バラスト水管理に関するガイドライン(G4

    バラスト水交換に関するガイドライン(G6

    バラスト水処理装置型式承認に関するガイドライン(G8

    活性物質の承認に関するガイドライン(G9

     1活性物質:水生生物あるいは病原菌を特定の作用によって殺滅する、ウィルスまたは菌類を含む物質     

  および生物

 

  各ガイドラインの主な審議状況は以下のとおり。

  (a)バラスト水処理装置型式承認に関するガイドライン(G8)

    船舶に設置するバラスト水処理装置は、主管庁の型式承認が必要となり、G8に型式承認の試験方法が規定されることとなっている。G8案では、型式承認試験として、装置の作動試験に加え、生物学的効果試験1を行うことが規定されており、前回のMEPCにおいて、船上試験の信頼性および実効性に懸念を表明する国があり、今次会合において、引き続き審議が行われた。

    審議において、船上で当該試験を行うことは、試験装置の設置や試験のための労力等を考慮した場合、あまりにも非現実的であり、船上試験は削除すべきとの意見があったものの、初めて運用される装置であることから、その効果を船上で検証すべきとの意見が大勢を占めた。その結果、型式承認試験に、船上試験も含めることで合意され、その他若干の修正が加えられ採択された。

2 生物学的効果試験:処理装置により処理された海()水中に含まれる水生生物の生存数を計測し、その結果から水生物に対する装置の殺滅効果を検証する試験

 

  (b)活性物質の承認に関するガイドライン(G9)

    バラスト水処理装置に使用される活性物質は、その毒性等について、IMOにおいて、G9に従い評価/承認されることとなっている。

G9については、前回MEPC52において最終化されており、特段の変更もなく採択された。

今次会合においては、実際に当該物質を評価するテクニカルグループ(TG)について検討が行われた。

審議において、GESAMP3の下にTGを設置する意見とMEPCの中にTGを設置する意見が出されたが、科学的な根拠による適正な評価を行うためには、GESAMPの下にTGを設置することが最も適切であるとの意見が大勢を占め、これが合意された。

これにより、活性物質はGESAMPで毒性等の有害性が評価され、同結果に基づき、MEPCで承認が行われることとなった。

なお、IMO事務局より、GESAMPの通常予算では、TGの活動はまかなえないとの説明があり、審議の結果、TGの活動のための資金については、当該物質の申請者が負担することとなった。

3 GESAMP:国連が組織する合同専門家会合の名称。正式名は「海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合」。IMOFAO(国連食糧農業機関)UNEP(国連環境計画)UNESCO-IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)8つの国連機関の支援をもとに活動している科学者の集まり。人類の活動が海洋に与える影響を、国や国際機関から独立した立場から科学的に評価するため設立された。

 

  (c)バラスト水管理に関するガイドライン(G4

     前回MEPC52において、ガイドラインの審議を速めるため、IMOばら積液体・ガス小委員会(BLG)においても検討することが合意されており、20054月のBLG9より検討が行われている。

今次会合では、BLG9で合意できなかった、バラストタンク内に堆積した沈殿物を、海水で洗い流す(Flushing)場合の海域について審議された。

審議において、沈殿物には数多くの水生生物が含まれている可能性があり、沿岸域への影響を最小限にするため、洗浄海域を陸岸から200海里以上離すべきとの意見があった。しかしながら、航路によっては、洗浄できる海域が非常に限られることとなるため、バラスト水交換海域と同様の海域(離岸距離200海里以遠。ただし、やむを得ない場合は離岸距離50海里以遠)とすることが合意され、G4が採択された。

 

  (d)バラスト水管理同等物ガイドライン(G3)およびバラスト水交換に関するガイドライン(G6)

    G3およびG6については、若干の修正が加えられたうえ、採択された。

 

  (e)その他のガイドライン

    バラスト水のサンプリングに関するガイドライン(G2)、リスク評価に関するガイドライン(G7)およびバラスト水交換海域指定に関するガイドライン(G14)については、今次会合において十分な検討を行うことができなかったため、正面審議グループ(CG)で、引き続き検討することが合意され、検討結果が20064月のBLG10に報告されることとなった。

    また、沈殿物受け入れ施設(G1)、バラスト水受け入れ施設(G5)、バラスト水交換の船体構造(G11)、船上での沈殿物管理(G12)および緊急時を含む追加方策(G13)については、設計設備小委員会および旗国小委員会で検討の後、200610月のMEPC55において採択される見込みとなった。

  

A バラスト水管理条約要件の見直し

   バラスト水管理条約では、200911日以降建造のバラスト水タンク容量5,000m3未満の新造船より、段階的にバラスト水処理(D-2基準)※4が要求されることとなっている。

   しかしながら、同条約が採択された20042月においては、D-2基準を満足するバラスト水処理技術がまだ開発されていなかったことから、2009年の少なくとも3年前に、適切な処理技術が利用可能か検証し、条約要件の見直しを行うことが規定されている。

  今次会合では、各国よりバラスト水処理技術に関する情報が報告され、当該技術に関する評価および今後の見直しスケジュールについて検討が行われた。

  処理技術の評価については、既に船上試験を実施している処理装置もあり、2009年までの実用化の可能性は十分にあるとの意見が多数の国からあり、現段階において、条約要件を改正する必要性はないことが確認された。

  また、今後の見直しスケジュールについては、処理装置の承認に関連するG8およびG9が今次会合において採択されたばかりであり、承認手続きに必要な時間が不明であることから、200610月のMEPC55で再度処理技術の評価および条約要件の見直しを行うこととなった。

4 D-2基準:バラスト水の排出基準、バラスト水に含まれるプランクトンおよび病原菌の個数を制限している。

 

(2)BLG10の審議概要(200643日〜7日)

BLG10では、まだ最終化されていない次のガイドラインについて検討が行われた。

  ・サンプリングに関するガイドライン(G2

  ・リスクアセスメントに関するガイドライン(G7

  ・バラスト水交換の設計構造に関するガイドライン(G11

  ・船上における沈殿物管理に関するガイドライン(G12

  ・緊急事態を含む追加方策に関するガイドライン(G13

  ・バラスト水交換海域の指定に関するガイドライン(G14)

 

@ サンプリングに関するガイドライン(G2

aG2とポート・ステート・コントロール(PSC)の関係について

G2案には条約の遵守を確認するためのサンプリング手順など法的な要素を含んだ規定が盛り込まれていた。しかしながら、条約遵守を確認するためのPSCに関するガイドラインは別途策定することが合意され、G2から当該規定を削除することとなった。

b)サンプルの計数方法について

バラスト水中に含まれる水生生物の計数方法として、採取された各サンプル分析において、一つのサンプルでもD-2基準を超える生物量が認められた場合に、不適合とする「instantaneous standard」を採用すべきとする意見と複数回のサンプル分析結果の平均値を使用する「average standard」を採用すべきとする2つの意見があり、過去の審議において議論が紛糾していた。

今次会合では、サンプリング場所、方法等の詳細を確定した後、同判定基準の検討を行うこととなっていたが、G2に関する詳細な審議を行う時間がなく、20074月のBLG11において引続き検討が行われることとなった。

 

A リスクアセスメントに関するガイドライン(G7)について

   G7は未処理のバラスト水を排出した場合の、当該排出海域における環境への影響評価に関するガイドラインとなっている。同評価において、特定の生物分布データ(生物地理学スキーム)を利用するか否か、また利用する場合は、どのスキームを推奨するかが大きな争点となっていた。

日本は、生物地理学スキームを用いることは、古い情報による誤った評価が行われる可能性があることから、特定の生物地理学スキームの利用には反対の立場をとっていた。しかしながら、日本以外に同スキームの利用に反対を表明する国はなく、今次会合においても、大多数の国が当該スキームの利用を支持した。

審議において、現時点で最も信頼できるとして、「米国海洋大気庁(NOAANational Oceanic and Atmospheric Administration)」とロードアイランド大学によるスキーム「LMELarge Marine Ecosystems of the World: http://www.edc.uri.edu/lme/」が提案され、これが推奨スキームとして採用されることとなった。ただし、個別海域の特性に応じ、推奨スキーム以外を使用することも可能とされた。

今次会合において、G7は最終化できなかったことから、BLG11において引続き検討されることとなった。

 

B 緊急事態を含む追加方策に関するガイドライン(G13)について

条約では、同条約の規定だけでは、有害水生生物あるいは病原菌の侵入を防止できないと締約国が判断した場合、当該締約国はバラスト水管理に関する追加措置を導入することができることとなっている。G13は各締約国が追加方策を導入する際の手順および評価に関するガイドラインとなっている。

今次会合において、G13は最終化され、200610月のMEPC55において採択される見込みとなった。なお、G13に関するおもな審議は次のとおりである。

a)追加措置を導入するにあたって国がとるべき手続きについて

審議において、追加方策は主権国家の権利であるとして、詳細な手続き規定は不要とする意見と、条約の上乗せ規制を行うにあたっては、追加方策導入国はその必要性を明確にする責任があり、明詳細な手続き規定が必要であるとする意見が述べられた。審議の結果、前者の意見に支持が集まり、詳細な手続規定は盛りこまれないこととなった。

b)追加方策導入にあたっての評価について

    G13案には、緊急時対応計画の策定、リスク評価、予防的行動等について詳細に規定されているが、当該規定は条約上不要な要件であることから本ガイドラインから削除されることとなった。しかしながら、発展途上国が緊急時対応を行うにあたって参考となる情報が含まれているとの意見があり、当該規定に基づく「緊急時におけるガイダンス」を作成することをMEPCに推奨することとなった。

 

C バラスト水交換海域の指定に関するガイドライン(G14)について

条約では、バラスト水交換を行うことのできる海域が規定されているが、地理的条件(航路上に広大な海域がない)により、交換海域を確保できない場合が考えられる。この場合、寄港国は同規定によらずバラスト水交換海域を指定できることとなっている。

G14は寄港国によるバラスト水交換海域の指定に関するガイドラインとなっており、今次会合において最終化され、MEPC55において採択される見込みとなった。なお、G14に関するおもな審議は次のとおりである。

a)関係国および近隣国との協議・合意に関する規定について

他国(例えば、隣接沿岸国)の管轄海域をバラスト水交換水域として設定できるか否かについては、関係国との協議・合意を得ずしては、設定できないとする規定を設けることで合意した。

b)環境脆弱海域をバラスト水交換水域として設定できるか否かについて

特別海域等の環境脆弱海域におけるバラスト水交換については、禁止すべきとの意見があったが、当該水域における他の重要資源等に被害をもたらさないよう、できる限り避けることとする規定となった。

 

(5)バラスト水交換の設計構造に関するガイドライン(G11)および洗浄における沈殿物管理に関するガイドライン(G12)について

G11およびG12については、BLG9において既に十分な審議が行われていることから、特段の修正もなく、そのまま最終化とされ、MEPC55において採択される見込みとなった。