3.1 外航船社間協定に対する独禁法適用除外制度
外航定期船社によって結成されている運賃同盟や協議協定などについては、日米欧をはじめ各国で独占禁止法の適用除外がかねてより認められており、一定条件下での協定の締結と活動が行われてきた。
このような中、2002年4月に公表されたOECD事務局報告書(船社間協定への独禁法適用除外制度廃止を推奨)を一つの契機として、2003年よりEUで同制度の見直しが開始され、その動きは豪州などに拡大する一方、わが国でも2006年3月より公正取引委員会による見直しが開始されている。
当協会は、独禁法適用除外制度の下で認められている外航船社間協定の活動は、良質な定期船サービスを提供し、安定した運賃を維持していく上で通商、貿易そのものに不可欠であり、同制度は海運・貿易両業界全体にとって必要であるとの基本的考え方に基づき、同制度の維持に向け対応している。
最近の主な動向は以下の通りである。
3.1.1. 日本
我が国では、外航船社間協定に対する独占禁止法の適用除外制度(以降「除外制度」)は、海上運送法(28条)に規定されている。同法は最近では1998年〜99年に見直しが実施され、審査手続きの一部を修正(利用者利益の概念を新たに挿入)した上、制度自体は維持されている。(詳細は『船協海運年報1999』参照)
(1) 国土交通省を中心とした動き
2004年2月、国土交通省海事局は、EUなどの除外制度見直しの動きも踏まえ、学識経験者、海事局外航課、日本荷主協会、当協会による委員会(日本海運振興会海運問題研究会海運経済委員会、委員長:杉山武彦一橋大学教授(現学長))を発足させた。06年6月までの間に延べ10回の会合が開催され、除外制度を巡る諸外国の動きや外航船社間協定によるメリット・デメリットなどに関し、率直な意見交換が重ねられている。現在のところ、関係者から制度の枠組みの早急な改変が必要との声は出されていない。
(2) 公正取引委員会による外航海運における競争政策のあり方の検討
EU、豪州等における外航船社間協定に対する独禁法適用除外制度見直しの動きが進む中、公正取引委員会は、2005年7月〜12月にかけて、当協会を含む5団体、8船社、9荷主、有識者、国土交通省等にヒアリング調査を行ったほか、同11月〜12月には日本発着の邦船・外船約50社、関係荷主約2000社に対し、外航海運の実態に関するアンケート調査を実施した。
これらの結果を踏まえ、公取委は2006年3月から、常設の「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長:岩田規久男 学習院大学経済学部教授、会員名簿:資料3-1-1)において外航海運における今後の競争政策のあり方を検討することとし、本稿締切(6月末)までに計4回の会合が開催された。各会合の概要は以下の通り。
<外航海運に関する第1回会合(06年3月6日)>
外航海運市場の現状につき、前述アンケート結果を交えて事務局(公取委経済取引局調整課)より説明が行われた後、流通経済大学山岸教授が海運規制とわが国海運の現状につきプレゼンテーションを行った。これらを踏まえ、会員間で意見交換が行われたが、詳細な検討には至らなかった。
<外航海運に関する第2回会合(06年3月16日)>
当協会布寺国際幹事長・園田企画部長および日本荷主協会河村常務理事・鈴木国際委員長が招かれ、意見聴取と質疑応答が行われた。
当協会は、運賃・サービスの安定供給(投資含む)などによる航路環境の安定、そしてこれを通じたわが国貿易・経済の中長期的安定のためには除外制度が不可欠であり、わが国での検討にあたっては、国際的な整合性や日本の地理的特性等を踏まえた多角的な観点からの検討が必要との主張を行った。
これに対し、荷主協会は、サーチャージの種類の多さやここ数年間の運賃修復に対して強い不満を持つ荷主の声を紹介した上で、サーチャージの賦課などについて引き続き同盟を監視していくことが必要と述べた一方、荷主との対話を含むわが国における現在の船社間協定の行動には一定の理解を示した。
<外航海運に関する第3回会合(06年5月19日)>
事務局から、規制研としての報告書の一次案が示された。同案は、現在の定期コンテナ船カルテルは合理性を欠く運賃修復およびサーチャージ料金の適用等によって荷主の利益を阻害しているとともに、カルテルを認めなければならない特殊性は認められないとして、除外制度は廃止することが適切であると結論付けた。この後、当協会(喜多澤国際幹事長)および日本荷主協会(河村常務理事)から各10分間の意見陳述が行われた。当協会からは、企業間取引を基本とする外航海運業については、より時間をかけた専門的な検証が必要であり、除外制度が廃止されれば寡占化や日本寄港数の減少が引き起こされるとの意見を表明した。(当協会からの主な配布資料は資料3-1-1-2参照)また、荷主協会は報告書案の方向性(除外制度廃止)に基本的な賛意を示したものの、性急な制度廃止によって生じる弊害も指摘した。規制研メンバーからは、除外制度に対して疑問を投げかける意見・質問が出された一方、検討は慎重に取り進めるべきとの見解も示された。
<外航海運に関する第4回会合(06年6月16日:外航海運以外の議題も検討)>
事務局から、第一次案を一部修正した報告書第二次案が示されたものの、除外制度廃止を提言するという骨子は維持された。また、同会合では、会合終了後、「外航海運に関する独禁法適用除外制度の在り方」について9月15日を期限としてパブリックコメントを募集することが了承され、同日、公取委ホームページ(日本語)に要綱が掲載された。
上記第4回会合終了直後、国土交通省はコメントを発表し、現行除外制度は同省の監視の下有効に機能しており、現時点において制度を廃止する合理的理由はないとの考え方を表明した。(資料3-1-1-3参照)
公取委は、パブリックコメントの結果等を踏まえ、今秋以降の規制研会合にて報告書三次案を検討する旨明らかにしている。当協会は引き続き国際幹事会を中心に、現行除外制度維持に向けた対応を継続している。
なお、本稿では当協会提出資料を含む規制研の会合で使用された資料の一部のみを添付しているが、全ての資料は以下公取委ホームページに掲載されている。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/kenkyu.html
(3) 海運特殊指定の廃止
外航船社間協定に対する我が国の独禁法適用除外制度は、海上運送法28条で規定されているが、同条は協定が「不公正な取引方法」を用いるときは、適用除外の対象とはしない旨定めている。
海運業に関する「不公正な取引方法」に関しては、海運特殊指定として、「海運業における特定の不公正な取引方法」(昭和34年11月11日公正取引委員会告示第17号)やいわゆる「公取五原則」(極東運賃同盟に対する審判打切決定書、昭和34年12月23日)が定められており、一手積み契約や二重運賃制度等に関する公取委の判断基準が示されていた。
公正取引委員会は、2006年4月13日、上記海運特殊指定が近年運用実績に乏しく、また、その規制対象となっている行為については盟外船社の市場シェア増大や運賃タリフ形骸化といった近年の外航海運における業界実態や取引実態の変化にかんがみ、もはや特殊指定の条項を実施することが極めて困難になっていると判断し、規制簡素化の観点から同指定を廃止することを決定し、官報に告示の上、即日施行した。
今後、船社の行為が「不公正な取引方法」に該当するかどうかは、全業種に適用される一般的な指針である「不公正な取引方法」(いわゆる「一般指定」、昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)に即して判断されることとなる。
(4) 荷主との対話フォーラム
当協会は04年11月以降、年2回定期的に開催されているコンテナ・シッピング・フォーラム(主催:日本海事新聞社、後援:国土交通省)に日本荷主協会とともに協力している。
05年11月のフォーラムでは、国土交通省海事局より独禁法適用除外制度に関する最近の動きについて基調講演がなされた後、荷主側から荷主企業のサプライチェーン構築例と、海上運賃のあるべき範囲などについて講演が行われた。これに引き続き、船社側からは北米・欧州の各コンテナ航路の需給見通しや、2006年のビジネスプランについて説明が行われ、その後船社・荷主間でパネル・ディスカッションが行われた。
また、06年6月のフォーラムでは、公取委によるわが国除外制度の見直しの動きを背景として、基調講演として、国土交通省海事局外航課永松課長および公正取引委員会経済取引局調整課横田課長が除外制度に関する講演を行った。永松外航課長からはわが国の現行除外制度はうまく機能しており、制度見直しにあたっては関係者の意見を十分聴した上での慎重な検証が必要との見解が示された一方、横田調整課長からは特にサーチャージに関して荷主の不満が高く、制度全体を見直す必要性と、現行制度下で公取委として必要な是正措置を取る可能性が示唆された。フォーラム後半ではアジア域内航路の現状と港湾物流事情に関し、船社、港湾関係者、荷主(総合商社)等の代表による講演がなされた。
3.1.2. EU
欧州連合(EU)における、競争に関する基本的ルール(実体法)はEC条約(ローマ条約)第81条、82条に規定されており、関係する事業者等を直接規律している。81条は事業者/事業者団体による競争制限的な協定、協調行為等を禁止し、82条は市場支配的地位の濫用を禁止している。また、欧州委員会と加盟国の権限や罰金額等前記2条に関する施行手続は欧州理事会規則No.1/2003(以降「1/2003」と略)で定められている。
定期船分野に関しては、81条、82条に関する細則(欧州理事会規則No.4056/ 86、別名同盟規則、以降「4056/86」と略)が制定されており、これにより海運同盟に対する競争法の包括適用除外が認められている。また、定期船社が配船の合理化を図り高品質のサービスを提供する目的で、船腹の共有および船隊の共同運航、ターミナルの共同使用など比較的緩やかな提携を行うコンソーシアムに対しても、市場占有率に応じた条件はあるものの、同じく細則(欧州委員会規則 No.823/2000、別名コンソーシアム規則)により、包括適用除外が認められている。
一方、不定期船部門に関しては、4056/86と同様の規則はないため、同部門には、81・82条が直接に適用されることとなる。ところが、前記2条の手続法である1/2003は、外航不定期船サービスには同規則を適用しないと規定している。(第32条)
このため、不定期船部門に関しては、手続法(EU当局による調査権限や罰金課徴等を定める規則)が存在しないまま、実体法(EC条約81・82条)は適用されることとなる。(この理由については、市場が高度に細分化され、多くのプレイヤー(船社)が存在する不定期船分野は、そもそも競争法で規制する必要がなかったから、と説明されることもある)
このため、不定期船に関する調査・罰金課徴等はEC条約84条(理事会が81条・82条に定める原則適用のため必要な規則・指令を制定するまでの間、加盟国に対し必要な決定を行う権限を付与する規定)に基づき加盟国が権限を持つ、との説が有力である。
1. 4056/86見直し問題
(1) 定期船関係:見直し開始〜2005年6月の動き
2003年3月27日、欧州委員会は4056/86見直し作業を開始し、関係者に対する21項目の質問を含むConsultation Paperを発表した。
その後、関係者のコメントやデータの提出、公聴会などを経て、2004年6月、欧州委は4056/86廃止提案を盛り込んだDiscussion Paperを公表した。
同ペーパーに対し、ELAA*1は2004年8月、除外制度維持というこれまでの立場は不変としつつも、制度の抜本的改正が不可避なのであれば需給状況に関するデータの分析や運賃指標の公表等、共通運賃設定機能を含まない船社間の共同行為を認めるよう求める意見書(ELAA提案)を提出した。
2004年10月、欧州委は4056/86廃止を改めて提案する一方、上記ELAA提案を踏まえ、代替制度について関係者の意見を募るホワイト・ペーパーを公表した。これに対しては、船社側、荷主側、各国政府等からコメントが寄せられ、船社側は現行制度維持を求めるとともに、最低限の代替措置としてELAA提案を支持する旨を表明した一方、荷主側の意見の大多数は同盟制度とその代替案の必要性を否定した。また、EU加盟国政府のコメントは、同盟制度に対して賛否が分かれたが、EU域外の政府としては、唯一、わが国国土交通省がコメントを提出し、非EU国との十分な事前調整を求めた。
2004年12月、欧州委をはじめとするEU諸機関に対する諮問機関であるEESC*2が、性急な同盟制度廃止による競争への悪影響を懸念し、制度廃止のもたらす影響の慎重な検討を求める意見書を公表・欧州委に提出した。
2005年4月には、EESC同様のEUの諮問機関であるCoR*3が、4056/86見直しに関する意見書を採択した。同意見書は、除外制度廃止を支持する一方で、制度変更にあたって移行期間を設けることや、制度廃止が与える影響に関する調査を行うことなどを要求した。
これらの動きを踏まえ、欧州委競争総局と運輸・エネルギー総局は夫々4056/86廃止の影響やELAA提案の分析に関するstudyを行うこととなった。運輸・エネルギー総局がICF Consulting社(米国)に依頼した報告書は、05年6月に公表され、同盟制度廃止は経済的利益をもたらすものと思われる、とされた一方、非基幹航路では、競争に悪影響をもたらす可能性がある点等が指摘された。また、同報告では、同盟の運賃乱高下抑止効果が否定された。
(以上の動きは『船協海運年報 2003』、同『2004』『2005』に詳述。また、EU諸機関の機能等については資料3-1-2-1参照)
*1 ELAA: European Liner Affairs Association
EU競争法適用除外制度見直しを契機に、欧州発着の定航船社24社(現在は21社)が組織した対EUロビイング団体。本部:ブラッセル
*2 EESC: European Economic and Social Committee(経済社会評議会)
欧州委員会、理事会に対する諮問機関。企業経営者団体や労働組合、農業、医療、消費者等に関する団体の代表者(評議員)317名で構成される。
*3 CoR: Committee of the Regions(地域委員会)
欧州委員会、理事会に対する諮問機関。自治体、地域当局を代表する317名の委員によって構成される。
(2) 定期船関係:2005年7月〜欧州委による除外制度廃止最終提案(05年12月)までの動き
2005年7月13日、本件に関し、欧州委/EU加盟国当局が参加する非公開の臨時諮問委員会(Ad Hoc Advisory Committee)が開催され、欧州委からDiscussion Paper(03年3月に発表された同名のPaperのような広範な関係者の意見を求めるものではなく、あくまで同委員会の資料として、欧州委の考え方をまとめたもの)が配布された。10月に公開された同Paperで示された欧州委の考え方は以下の通り。
- 現行4056/86を廃止する方向性は不変。除外制度廃止に関しては、船社を除き幅広い合意が得られている。
- 同盟制度代替案に関するELAA提案(04年8月)に関する評価は以下の通り。
@ 荷動きや需給状況等に関する船社データの民間第三者機関を通じた収集・交換、およびこの公表は、競争法上問題とはならない。但し、データ収集間隔は6ヶ月とすべき。また、これに対する競争法包括適用除外は与えず、情報交換に関するcommission notice(欧州委のみを拘束)発行等の方策を今後検討する。
A 運賃指標(index)の作成に関しては、同指標が各船社の運賃設定にあたってのベンチマークの役割を果たす懸念があり、認められない。
B サーチャージ類の共同設定に関しては、運賃全体に占めるサーチャージの割合が平均して30%程度に上ることから、共同運賃設定に等しく、認めることはできない。
C 船社によって構成されるtrade committee結成はこれを認めない。
前掲の欧州委競争総局が委託する外部機関による同盟制度廃止の影響とELAA提案の評価に関するstudyに関しては、その後、Global Insight社(米国)らが受託者となり、報告書が06年11月7日に公表された。結論は以下の通り。
<同盟制度廃止の影響>
- 運賃:集団で意見交換できなくなることで、幾分下がる。
- サーチャージ:同盟で設定できなくなることで、下がる。
- 各航路への影響:例えば西アフリカ航路では同盟は定航市場に不安定な影響をもたらしており、また、南米東岸航路では同盟がなくなることで安定的な輸送供給に悪影響が及ぼされるとの兆候もない。これらを踏まえれば各航路とも同盟廃止後はサービスの信頼性が向上することはあっても低下するようなことはない。
- 途上国への影響:サービス信頼性向上、運賃値下げによりアフリカ各国の貿易に好影響を与える。
- 小規模船社への影響:競争市場自由化は小規模業者に急成長の機会を与える。
- 船社の投資:(同盟がなくなっても)船社はそれぞれの長期的戦略に基づき船舶投資を続けるので影響なし。
- 市場寡占化:寡占化は適用除外廃止と無関係。
- 寄港数:hub-and-spokeシステムにより地方港湾はフィーダー船でカバーされているので影響なし。航空分野の自由化は地方空港への就航に繋がっている。
- 他の提携協定:アライアンス、コンソーシアの範囲拡大に繋がる。
- 同盟の果たしていた機能:競争法に抵触しない部分は他の機関に移管される。
<ELAA提案について>
- 船社間の情報交換が、投資や配船判断に資するとのELAA主張は原則的に受入れ可能なものである一方、情報交換は共謀行為につながる可能性を持つ点に留意が必要。ELAA提案よりも、低頻度に更改されるより集約された情報によっても、船社の投資・配船判断等に貢献することが可能である。
- trade committeeによる各種情報交換は共謀行為に繋がる。
- 船社による事業者団体設立については、著しく商業的な情報交換や(商業的に)微妙な問題に関する議論を避けるのであれば反競争的なものではなく、大半の産業が事業者団体を有している。
一方、欧州議会運輸・観光委員会(TRAN)は2005年6月15日よりKratsa議員(ギリシャ)が報告者(Rapporteur)となり4056/86見直しに関する検討を行っていたが、10月11日に決議案が委員会採択され、11月30日に開催された欧州議会本会議で408対139の圧倒的多数で可決された。その概要は以下の通りであり、欧州委員会に対して代替案の慎重な検討や、日本などのEUの貿易相手国との制度の整合性の検討を求めたほか、前掲Global Insightによる報告書を批判するなど、船社側の主張に近いものであったと言える。ELAAは、12月7日付で同決議を評価する声明を発表している。但し、本決議に法的な拘束力はなく、欧州委員会にこれに従う義務は発生しない。
欧州議会決議概要:
<全般事項>
- 欧州委および関係者に対し、4056/86見直しの目的はEU海運業界の競争力促進にあることを理解するよう求める。
- 欧州委に、同盟に代わる制度が、海運界・荷主・最終消費者に与える影響を慎重に検討することを求める。
- Global Insight社の報告書は、これまで公表された各種報告書と同様に内容不十分であり、同盟に対する独禁法適用除外制度廃止にあたっての確固たる根拠を示していない。
- 4056/86改正にあたっては、欧州委は米国、豪州、日本、カナダ等の貿易相手国の既存の法体系を念頭に置くべきである。貿易相手国とEUの制度の不整合は、社会経済の不安定要因となり、保護主義的措置を誘発する。
- 制度の大幅見直しは、中小船社により大きな悪影響を与える点と、同盟廃止が運賃低下をもたらす証拠は何ひとつない点を強調したい。
<定期船同盟関係>
- 欧州委の4056/86見直しの意図は以下諸点であり、これを支持する。
@直接的な共通運賃設定を排除すること
A同盟による参考運賃設定(reference price fixing)若しくは代替制度下での運賃指標(index)取り決めを認めること
Bサーチャージ類は荷主との協議を経た上で透明性ある計算方法のもとに算出されるものであること
また、この見直しは、運賃の安定や高品質サービス、規模にかかわらず全ての事業者の健全な競争 を保証するものでなくてはならない。
- ELAAの代替案は、運賃指標の導入/船社・荷主・関係者との協議体の構築といった興味深い内容を 含んでいると考えており、欧州委は新規則作成において同案を考慮すべき。
- 欧州委は、ELAAの提案がローマ条約第81条3項の条件を満たしているかどうかを精査すべき。
- 新規則は5年限定の実施とし、その後評価を行うべき。
- 如何なる代替案が実施されるにせよ、全関係者が適応できるよう移行期間の設定を検討すべき。
- 欧州委員会に対し、4056/86改廃前に国連同盟憲章条約の締約国と協議を行うことを求める。
<技術協定>
- 欧州委は4056/86第2条(スロット交換や配船スケジュール調整等を行う「技術協定」への適用除外を認める条項)廃止を提案しているが、この取り下げを求める。
<法制の衝突>
- 欧州委は、自らが海運に関する競争規則を改正しようとしている中、4056/86第9条(非EU諸国の法制とEU法制が衝突した際の非EU国との交渉を規定するもの)の廃止を提案しているが、この取り下げを求める。
(3) 不定期船関係:見直し開始〜欧州委による除外制度廃止最終提案(05年12月)までの動き
前述(1)の欧州委Consultation Paper(03年3月)には、4056/86の対象を不定期船部門に拡大するべきかという質問が含まれており、4056/86見直しに伴い、不定期船部門に関してもEU競争法の適用のあり方が見直されることとなった。
同じく前述の欧州委ホワイト・ペーパー(04年10月)では、欧州委は、外航不定期船部門に与えられてきたEU競争法手続法(1/2003)からの適用除外(32条)を廃止し、他産業分野と同様に、1/2003に基づき欧州委に調査や罰金課徴の権限を与えるべきとの考え方を示した。
不定期船分野に関しては、欧州ではプール運航*4の形態が多く見られるが、これまで1/2003の適用が除外されていたため、プール運航をはじめとする不定期船社間の共同行為がEU競争法に抵触するか否かについての欧州委の決定や欧州裁判所の判例はない。このため、船社側はECSA*5が中心となり、32条が廃止される前に、プール運航等不定期船分野での共同行為へのEU競争法適用に関する欧州委のガイドラインが必要との立場のもと、欧州委との間で非公式な対話を重ねることとなった。
その後、05年7月に作成された欧州委Discussion Paper(前述(2))では、不定期船に関しては、1/2003改訂後にガイダンスを発行することは可能であり、ガイダンス発行までの間、不定期船に関する共同行為が競争法に抵触するかどうかに関しては、船社が自己判断すべきとの欧州委の考え方が示された。
また、05年11月に採択された欧州議会の決議(前述(2))のうち、不定期船に関する部分の要旨は以下の通りである。
- 不定期船分野は徹底的に自由化されており、公正な競争条件下で事業が行われているので、規則1/2003(一般競争法)を適用するとの欧州委提案を支持する。
- 法的安定性・明確性の観点からバルクプールやspecialised trades*6と競争法との整合性に関するガイドラインが策定されるべきである。但し、欧州委の提案が公表され、関係者との協議が行われるまではその策定はなされるべきでない。
*4 プール運航:バルク船やタンカーなどの不定期船の船主やオペレーターが、自社の船隊の全体または一部を他社との船隊プールに投入することにより、荷主の要請に応じた幅広いサービス提供を図るとともに、船舶の稼働率の向上、運航費用の削減などを目指すもの。欧州船社の主導によるものが多いとされる。
*5 ECSA:European Community Shipowners’ Associations
EU加盟国中の18ヶ国およびノルウェーの19ヶ国の船協で構成する船主協会で、欧州委員会に対する欧州船主の意見反映を主な目的としている。本部:ブラッセル
*6 specialised trades:海運サービスの分類に関し、1994年に欧州委員会が定期船、不定期船とともに示した(TAA決定)第3のカテゴリー。同決定では、鉄鋼・金属、肥料、化学品、林産品、自動車等の輸送(主に専用船輸送)による輸送がspecialised transport(trade)に該当するとされたが、その後、これらに冷凍貨物輸送やLNG等のガス輸送を含めるべきとの意見もあり、判例も存在しないことから、厳格な定義は明らかでは無い。
(4) 欧州委員会最終提案とそれ以降の動き(定期船・不定期船双方)
2003年3月のConsultation Paper発行以降の欧州委としての種々の検討および、EU関係機関の意見を踏まえ、欧州委員会は05年12月14日、現行除外制度を廃止すべきとの最終結論をまとめ、同日付にて4056/86廃止提案を欧州連合理事会(閣僚理事会)に提出した。
EUにおいて、競争法に関する規則は、欧州委員会が提案を行い、閣僚理事会が審議・採択を行う。(EU各機関の関係は資料3-1-2-1参照)この過程で欧州議会の権限は、諮問意見を表明することに留まる。(但し、この後、閣僚理事会では欧州議会の権限拡大につながる”Legal Basis”問題について検討が行われるので、後述。)
欧州委の最終提案の要旨は以下の通り。
<定期船同盟関係>
- 欧州委は、除外制度(4056/86)廃止を欧州連合理事会(閣僚理事会)に提案する。閣僚理事会の採択までは1年間程度を要するものと予想する。
- 現在の同盟はEU競争法の定める適用除外を与える要件(EC条約第81条第3項)を満たしておらず、同盟廃止は運賃低下やサービス向上等につながる。
- 船社・EUメンバー国に十分な対応期間を与えるため、同盟制度の廃止は閣僚理事会が廃止を採択してから2年経過後に実施する。
- 欧州委は、上記2年間の猶予期間中に、海運分野における情報交換を含む共同行為に対するEU競争法の適用を定めるガイドラインを発行する予定。
- ガイドラインでは、trade associationもしくは対話フォーラムの設置、運賃指標やサーチャージに係る共通フォーミュラの発表等の問題を扱う。
- 4056/86廃止提案採択前に(ガイドラインとは別に)非公式なガイダンスを発行するように努める。
- 上記ガイダンス/ガイドライン策定にあたり、06年9月に関係者の意見を求めるIssues Paperを公表し、ガイドラインは07年末を目途に最終化したい。
- 欧州委は、同盟制度に関する国際的側面を十分認識しており、これまでも米、加、豪、日本等主要貿易相手国と緊密に連絡をとってきた。今後も二国間の連絡を継続したい。但し、EUの貿易相手国が船社の同盟結成を強いる制度を採らない限り、法制の衝突は発生しない。太平洋航路等EU外の航路で同盟の継続に関しては、欧州委がそれを妨げるものではない。
- 本提案は、コンソーシアムへの競争法包括適用除外制度(欧州委員会規則823/2000)には影響を与えない。
<不定期船・カボタージュ関係>
- 上述4056/86廃止提案には、不定期船・カボタージュに関する競争法手続法からの適用除外措置(規則1/2003 第32条)の廃止を含めることとする。(但し、定期船に与えられる2年間の猶予期間は、不定期船に関しては認められていない。)
- これにより、欧州委は不定期船分野において他業種と同じく、競争上の手続権限(調査・罰金課徴等)を持つこととなる。
- 第32条廃止前に、不定期船分野への競争法適用に関する非公式ガイダンスを発行する方向で検討する。
- 第32条廃止後には、定期船同様に競争法適用に関する公式ガイドラインを作成する。
上記欧州委提案を受けた欧州連合理事会は、06年1月23日、競争閣僚理事会WG(加盟国の競争当局、欧州委が出席。加盟国の運輸担当官も同席)を開催し、同提案に関する第1回目の検討を行った。
会合では、4056/86のLegal basis*問題につき、理事会法務担当に調査をさせることが決定された。また、会合席上、欧州委は、定期船・不定期船の双方に関し、4056/86廃止採択前に非公式なガイダンスを、廃止後には公式なガイドラインを作成することを目指すと発言した。
* 4056/86のLegal basis
4056/86の前文では、「4056/86はEC条約第80条2項(海運に関する規則の制定権限)と第83条(競争に関する規則の制定手続)に基づいて策定される」(=Legal basisは第80条2項および第83条)と明文で規定しているが、欧州委提案は、「過去の欧州裁判所判決に照らせば(どの判決を指すかは不明)、4056/86のLegal basisとしての第80条2項は空文化しているため、4056/86廃止提案は第83条のみに基づき行う」としている。
EC条約の「競争規則」の章に属する第83条では、規則は理事会(この場合、競争閣僚理事会を指すものと考えられる)が欧州議会と「協議」の上制定するとされており、理事会が議会意見を受け入れずに規則制定・改廃を行うことも可能である。
一方で、同条約の「輸送」の編に属する第80条2項および同項の手続を定める第71条によると、規則は理事会(運輸閣僚理事会)は欧州議会との共同決定手続(第251条=議会が提案否決権を持つ)に則り、経済社会評議会(ESC)および地域評議会(CoR)と協議の上定めるとされており、第83条と比べ、運輸当局・欧州議会が関与する法的余地が生じる。
06年1月の競争閣僚理事会WGでは、4056/86のLegal basisがEC条約第80条2項と第83条にまたがるのであれば、理事会と欧州議会の共同決定手続がとられることが確認されている。
<参考>EC条約(ローマ条約:条文中の括弧内は当協会による補足)
第80条2 理事会は、航海および航空に関し適当な規定を定めることができるかどうか、また、できるときはその範囲及び手続について、特定多数決により決定を行うことができる。
第71条の手続規定を適用する。
第71条1 第70条を実施するため、かつ、輸送の特殊な面を考慮して、理事会は、第251条に定める手続(欧州議会との共同決定手続)に従い、経済社会評議会及び地域評議会と協議の上、次の事を定める。
(a) いずれかの構成国の領域を起点若しくは終点とし、又は1若しくは2以上の構成国の領域を通過する国際輸送に適用される共通の規則
(b) 非居住者の運送業者が構成国内の輸送業務を行うことを認める条件
<(c)以下省略>
第83条1 第81条及び第82条(いわゆるEU競争法)に規定される原則に法的効力を付与する関連の規則又は命令は、理事会により、委員会の提案に基づき、かつ欧州議会と協議した後、特定多数決で制定される。
06年2月23日に開催された競争閣僚理事会WGでは、上記Legal basis問題に関する理事会法務担当の検討結果が報告され、欧州理事会として、4056/86のLegal basisはローマ条約83条のみであり、同80条2項はこれに含まれないとの見解が示された。(欧州委員会と同一見解。よって、本件に関し、運輸当局や欧州議会が関与できる余地は極めて限定された)その後、本件に関してはWG傘下のサブグループで検討が進められている。
また、閣僚理事会と並行して欧州議会も欧州委提案に関する審議を開始した。上述Legal basisに関する確認を受けて、議会経済・通貨金融問題委員会(ECON)が主管として審議を行うこととなっているが、同運輸・観光委員会(TRAN:前述05年11月の議会決議の起草にあたった委員会)も別途検討を行い、ECONに意見具申を行うこととなった。
欧州議会TRANの報告書は06年6月1日に委員会採択され、同ECONに送付された。TRAN報告書の要点は以下の通り。
- 輸送に係るEC条約第80条2項を、競争に関する83条とともに見直しのLegal basisとすべき。(前述の通り、Legal basisが83条単独の場合、欧州議会に欧州委員会提案の否決権はない。一方、これにEC条約80条2項が含まれる場合は、議会に否決権が生じる)
- 競争環境や投資のリスク等を踏まえ、少なくとも海運業界関係者間の情報交換は必要。
- 現行4056/86第2条(技術協定に競争法適用除外を認める規定)、第9条(前掲)は維持されるべき。
- 欧州委は議会・関係業界と十分協議の後、現行規則廃止後の経過措置期間終了の少なくとも2年前にガイドラインを出すこと。
- ガイドライン採択〜経過措置期間終了の間が2年間を切るようであれば、経過措置期間は相応の時間延長されるべき。
- 欧州委は議会に対し本件に関する第三国(日、米含む)のポジションの(例:4056廃止を支持/不支持等)分析結果を提出すること。
- 欧州委は新制度施行5年後に経過分析レポートを発表すること。
以上のTRAN報告書を受け、06年6月20日、ECONで最終審議が行われ、以下委員会報告書が採択された。
- 不定期船分野に対するガイダンスは、競争法手続法からの適用除外措置(1/2003 32条)の廃止前に採択すべき。
- 定航分野に対するガイドラインは(新制度への)移行期間終了前に採択されるべき。同ガイドラインには現行4056/86第2条の技術協定に関連するガイダンスが含まれるべきであり、更には中小船主に特別に配慮したものでなければならない。
- 欧州委は議会に対し、以下の2点についての第三国(中/米/日/星/印)の見解に関する透明性のある要約を提出しなければならない。
a) 定航分野に係る欧州の新しい政策
b) 自国制度を同欧州政策に適合させることに意欲的か
- 包括適用除外制度の廃止は、理事会が4056/86廃止を決めてから始まる(新制度への)経過期間2年が終了した後に実施。
- 国際法との衝突があった場合の明確な対処法が導入されなければならない。
- 欧州委は本見直しに関連して変更や廃止を検討の必要がある他のEU規則がないか調査すべき。
この結果、TRANが求めていたLegal basisにEC条約80条2項(輸送)を加える条項や、ガイドライン策定から規則廃止まで最低2年間の期間を設ける点などは、ECONで否定されたことになる。今後、ECON報告書は議会本会議に諮られることとなるが、本会議への上程時期は本稿執筆時点(06年6月)では未定である。また、議会本会議での議決のあと、閣僚理事会での最終的な審議が行われるものと見られる。
2. 市場支配的地位の濫用禁止に関する欧州委の見直し
EUにおいては、海運同盟は4056/86によりEC条約81条1項(競争制限的目的または効果を有する事業者間の協定、事業者団体の決定、協調行為の規制)から、包括適用除外が認められている。
この一方、EC条約82条(市場支配的地位の濫用行為の禁止)については、従前より、海運に関する特別規則は存在せず、同盟あるいは船社に対しては、他産業同様、EC条約そのものが適用されている。(参考:わが国海上運送法も、外航船社間協定に対する独禁法適用除外を認めているものの、「不公正な取引方法」(=EC条約82条の規制を受ける行為と類似)を用いるとき等は独禁法そのものが適用されると規定(法28条)としており、EUと略同様の法体系が採られている)
欧州委員会は、05年12月19日、EC条約82条の適用に関するDiscussion Paperを発表、06年3月末を期限として一般にコメントを求めた。
同Paperは、市場競争力を弱体化の危険にさらす有力企業による排他的行為から、EU市場を如何に守るか、という議論を促進すべく作成され、事例分析を元に、略奪的価格設定、リベート、抱き合わせ商法といった代表的な支配力濫用行為の審査方法を立案し、82条の厳格な執行を維持するための枠組みを提案している。
これに対し、ECSAは06年3月29日、概要以下のコメントを提出している。
- 競争法に係る明確な指針やガイドラインを設定しようという考えを支持。また、欧州委の提案する排他的な(支配的地位の)濫用の分析手法も支持。
- 企業の統合・集約は効率性向上やコスト抑制等のプラス面もあるが、競争低下を招き、市場で支配的地位を有する少数の企業を作るおそれもあることに注意すべき。
- 潜在的な反競争的行為を回避するには、明確な指針やガイドラインが必要。
3. 欧州定期船社のM&A
2005年5月11日、世界の定期船市場で約12%の船腹シェアを持つ世界最大のコンテナ船社A.P. Moller-Maersk(デンマーク)は、約23億ユーロ(3,000億円)でRoyal P&O Nedlloyd(オランダ)を買収する旨発表した。これにより、新会社のコンテナ船腹世界シェアは19%程度となる。
この買収につき、EU合併規則に基づいて審査を行った欧州委員会は、06年7月29日、以下を条件として買収を認める旨発表した。
- P&O Nedlloydが運営している欧州/南アフリカ航路から撤退すること。
- P&O Nedlloydは、所属する同盟・アライアンスから脱退すること。
突出した市場シェアを持つ巨大船社出現は、海運・貿易業界に大きな反響を呼んだところであるが、上記欧州委の認可から1ヶ月も経過しない8月21日、ドイツ船社Hapag-Lloydの親会社であるTUI(ドイツの旅行会社)は、CP Ships(英国・カナダ)を約17億ユーロ(2,300億円)で買収する旨を公表、再び大型合併が行われることとなった。審査を行った欧州委は、06年10月12日、Hapag-Lloydが、欧州/北米間の2同盟(大西洋同盟協定、米国/南欧州同盟)から脱退することを条件として買収を認めた。新Hapag-Lloydのコンテナ船腹シェアは約5%、Maersk、MSC(スイス)、Evergreen(台湾)、CMA CGM(フランス)に次ぐ規模(06年1月1日現在)となった。
一方アライアンスについては、Grand Alliance(P&O Nedlloyd脱退後は日本郵船他3社で構成)とThe New World Alliance(商船三井他2社が加盟)が05年10月、業務提携を行うことを発表したが、アライアンスそのものの再編にまでは発展していない。
3.1.3. 米国
1. 米国反トラスト法見直しの動きと、適用除外制度を巡る動向
米国においては、1999年5月に施行されたOSRA(Ocean Shipping Reform Act:1998年改正海事法、正確には1998年外航海運改革法によって修正された1984年海事法)によって定期船社間協定に対する反トラスト法適用除外制度が確認されている。
2002年、米国議会は反トラスト法(全体)の見直し作業を行う独禁改革委員会(AMC)設置法案を可決し、2003年に同委員会が発足し、その検討対象には定期船社間協定に対する適用除外措置も含まれることとなった。
05年5月に同委員会から関係者に、3倍賠償制度や合併に関する手続き、各種適用除外措置等反トラスト法に関わる広範な論点に関するコメントが求められ、OSRAに関しては、この提出期限が7月15日と定められた。(詳細な経緯は『船協海運年報2005』参照)
本件に関しては、船社はWSC*1が中心となって対応しており、7月15日には以下要旨のコメントが提出された。
- 海事法による独禁法適用除外制度は、議会が外航定期海運業の特性を十分に検討した上、外航海運に対する規制のあり方全般の一部分として策定されたもの。
- 議会は海事法を定期的に見直しており、1998年には、荷主を含む全ての関係者を交えた数年の検討の上、立法的な妥協を経て大幅に改正された。
- 海運業界の特殊性等のため、除外制度による便益とコストを一律的な分析法で査定する方式は受入れがたい。
- 現行制度はうまく機能しており、議会も制度が目的と合致していると認めているため、この変更を提案するのであれば、提案者が制度変更の挙証責任を負うべき。
この後、AMC内部で検討が行われているものと見られるが、06年6月現在、検討の模様等は明らかではない。AMCが議会に提出する最終報告書は07年春頃までに作成されることとなっている。
*1 WSC: World Shipping Council(世界海運評議会)
米国ワシントンに本部を置き、米国海運政策問題への対応を主な目的とする世界主要船社約30社の団体。
2. OSRA改訂(非公開SC権の拡大等)を求める動き
OSRAの下では、NVOCC(複合運送事業者)には荷主との非公開サービスコントラクト(SC)締結が認められていなかったところ、2003年7月以降、NVO業者や団体が、非公開SC締結権付与やFMCへのタリフ提出義務の免除を求めてFMCに相次いで要請を提出した。これに対し、FMCでは検討の結果、NVOへの非公開SC締結権を認めることを決定し、05年1月19日、新たな規則(NSA(Non-Vessel Operating Common Carrier Service Arrangements)規則)が発効した。これにより、NVOCCとNSA荷主(Beneficial Cargo Owner若しくはNVOCCをメンバーとしない荷主団体)間で、船社同様のSC(NSA Service Arrangements)を締結することが認められた。但し、同規則では、NVOCC同士のNSA締結や、NVOCCとNVOCCをメンバーとする荷主団体と間のNSA締結は禁止*2するとされた。
*2 NVOCC間のNSA締結を禁止した理由(FMCによる説明)
NSA規則が非公開NSA締結(=タリフ公開義務の免除)を認めているため、もし、NVOCC同士のNSA締結を是 認した場合、OSRA第7条(a)2(B)(=タリフの届出または公開義務を免除されているとの合理的根拠をもって着手あるいは締結された協定には反トラスト法適用除外を認める規定)により、NVOCC間の協定に反トラスト法適用除外を認める結果につながる。しかしながら、FMCはNVOCCに反トラスト法適用除外を認める意図はなく、NVOCCへの十分な監視権も有さないため、NVOCC同士のNSA締結は禁止する。
同規則に対しては、UPS*3、NITL*4は歓迎の意向を示したものの、中小荷主などで構成されるISA*5とAISA*6は、NVOCC同士のNSA締結の禁止は中小NVOCCの競争力低下につながり、行政手続法にも違反しているとして、規則発効日である1月19日、FMCに再考を求める請願書を提出するとともに、ワシントンDC地区連邦控訴裁判所にFMCを提訴した。
*3 UPS(United Parcel Service)
米国に拠点を置く、世界有数の小口貨物輸送・物流企業。米国議会に対する影響力も大きいと言われる。
*4 NITL(National Industrial Transportation League)
規制官庁に対して荷主の利益を代表する目的で1907年に設立された米国最大の荷主団体の一つ。会員は約1,300社。
*5 ISA(International Shippers’ Association)
米国の家庭用品輸入荷主・フォワーダーなどで構成する団体。
*6 AISA(American Import Shippers Association)
繊維、玩具、靴、ハンドバックなどを扱う米国中小輸入荷主の団体。会員数約500社
このようなISAの動きに対し、大手NVOCC・荷主ら7社(UPS、NITLを含む)は、1月24日、ISAの訴状はNSA規則により被害を受ける具体的事実根拠を提示していないとして、NSA規則を現行通り維持することを求める意見書をFMCに提出した。
この後、2月2日、ISA/AISAは、1月19日付請願書に対するFMCの最終判断が示されていないとして、連邦控訴審への提訴を一時取り下げた。
2月8日、FMCは、ISA/AISAの請願書はFMC規則で定める再考条件を充足しないとしてこれを否認する決定を行った。これを受けてISA/AISAは2月10日、ワシントンDC地区連邦控訴裁判所に再度提訴を行った。
こうした状況下、05年6月14日、米国巡回控訴裁判所で、OSRA7条(前掲*2脚注ご参照)に解釈に関わる判決が出された。(United States v. Gosselin World Wide Moving, N.V., 411 F.3d 502(4th Cir. 2005)同判決によると、タリフ届出/公表義務からの免除が直ちに反トラスト法からの適用除外を意味しないとされ、業界紙などは一斉にこの判決はNSA規則見直しに道を開くものと報じた。
同判決を受け、7月6日、NITLやUPS等の大手荷主は連名で、NVOCC同士のNSA締結を認めるようFMCに意見書を提出(1月24日付意見書の方向転換)、これを受け取ったFMCは8月3日、公開会議を開催し、以下を決定した。
@ NVOCC同士のNSA締結を認めるよう、NSA規則の見直しに着手する。
A 系列関係に無い複数のNVOCCが荷主とNSAを共同締結することを容認すべきか否かについて、利害関係者に意見募集(期限:8月末)を行う。
意見募集の結果、9月23日、FMCはこれまで禁止されてきたNVOCC同士のNSA締結およびNVOCCとNVOCCをメンバーに持つ荷主団体のNSA締結を認めるNSA規則改訂案を公表し、10月20日を期限として同案に対する意見募集を行った。
これに対しては、米国運輸省(DOT)、AISA、ISA、WSCなど8者が意見を提出、NVOCCにNSA締結権を認める法的権限がないと主張するファッション荷主協会(FATA)を除く7者は改定案を支持した。
これら意見書を受け、検討を行った結果、FMCは原案通り規則改訂を行うことを決定し、規則は05年10月28日に発効した。これを受けて、NSA規則改訂を求めてワシントンDC地区連邦控訴裁に提訴を行っていたISA/AISAは提訴を取り下げた。
これにより、上述ファッション荷主協会は規則に反対の立場を続けているものの、2003年以来、NVO業者・船社・FMC等関係者の間で議論が行われてきた本問題は一応の決着をみたこととなる。
改訂NSA規則により、NSA締結を認められるケースは以下の通りである。
NVOCC(as 運送人) vs NSA Shipper
Beneficial Cargo Owner
NVOCC
荷主団体(NVOCCをメンバーとするものを含む)
3.1.4 豪州
1. 豪州競争法適用除外制度(TPA Part X)見直しについて
豪州における競争法は、1974年取引慣行法(TPA :Trade Practices Act 1974)で定めており、外航定期船社間協定については、TPAのPart X(第10章)により、TPA本体からの適用除外が定められている。
豪州政府は、2004年6月、前回見直し(1999年)の際に定めた次回見直し期限を1年繰り上げる形でTPA Part Xの見直しを開始し、作業を受託した豪州生産性委員会(Productivity Commission)は04年10月、Part Xの全廃が望ましいとした上で、今後の選択肢を示したDraft Reportを公表した。これに対し、当協会、我が国国土交通省をはじめとする計30の団体・個人からコメントが出されたほか、同年12月には公聴会も開催された。(詳細は『船協海運年報 2005』参照)
これらを踏まえ、生産性委員会は、05年2月に豪州政府に最終報告書を提出、その内容が05年10月に公表された。同報告書では、今後の選択肢として、Part X廃止を勧奨しつつ、その他3つの案を同時に提示している。(概要下掲)以下の選択肢(1)および(2)のオプション1〜2は、上記Draft Report記載のオプションとほぼ同様の内容となった。(最終報告書全文は生産性委員会Websiteに掲載<http://www.pc.gov.au/inquiry/partx/finalreport/partx.pdf>)
(1) Part X廃止→生産性委員会が望ましい措置と強く推奨する選択肢
・ 現行包括適用除外制度(Part X)は廃止。全ての船社間協定は、個別適用除外制度(Part VII of the Trade Practices Act 1974)の対象とする。
・ 制度変更に伴う移行期間は4年間とする。
(2) Part X改正
<オプション1:船社間協定の特質により、扱いを分ける>
・運賃を共同設定もしくは協議したり、船腹制限を行ったり協議する協定にはPart Xの適用を認めない。
・船腹の共同利用やスケジュール調整によりコスト節減を目指す協定は、引き続きPart Xの対象とする。
⇒ Part Xの対象はコンソーシアムのみ。同盟、協議協定はPart VIIの対象となる。
<オプション2:協議協定をPart Xの対象から除外>
・協議協定をPart Xの対象から除外する。
・協定が加盟船社に対し、対外秘個別サービスコントラクト(Confidential Individual SC、以下「CSC」)締結を制限することを禁止する等、CSC保護を明文化する。
⇒ Part Xの対象は同盟、コンソーシアム。協議協定はPart VIIの対象となる。
<オプション3:CSCを導入>
・協定が加盟船社に対し、CSC締結を制限することを禁止する等、CSC保護義務を明文化する。
⇒ 同盟、協議協定、コンソーシャムとも、引き続きPart Xの対象となる。
生産性委員会報告書を受け、豪州政府が内部検討を行っているが、06年6月現在、この結果は公表されておらず、EUなどの動向をにらみつつ、検討が継続されているものと見られる。
3.1.5 シンガポール
シンガポールでは、2004年10月、日本の独占禁止法にあたる「2004年競争法(The Competition Act 2004)」が国会で成立し、2006年1月1日より大半の規定が施行されることとなった。
同法に基づき新たに設置されたシンガポール競争法委員会(Competition Commission of Singapore: CCS)は、同法に関するガイドライン策定を行うことになり、これに対する関係者のコメントが05年5月を期限として求められた。
同法34条では、価格協定をはじめとする競争制限的な事業者間協定の禁止が定められている一方、同法、同法適用免除規定および上記ガイドライン案には、船社間協定に対する適用除外制度に関する具体的規定が盛り込まれていない。
このため、当協会は日米欧同様の船社間協定に対する適用除外措置を求めるコメントを提出したほかSSA(シンガポール船主協会)、ICS(国際海運会議所)、NOL/APLも当協会と同様に適用除外措置を求めるコメントを提出した。
その後も、SSAなどによるシンガポール政府への働きかけが行われていたところ、CCSは、05年12月6日、外航船社間協定(同盟、協議協定、コンソーシアム)に対し、当面の間、競争法適用除外を与えることを公表した。プレスリリースの概要は以下の通り。
- CCSは、貿易産業大臣に対し、外航定期船社間協定を競争法の適用から除外することを提言する。
- 包括適用制度に関する規則は、06年7月までに最終化し、06年1月(=競争法施行時)に遡及して適用することを目指す。
- 包括適用除外制度は、定期船社の同盟、協議協定、コンソーシアムを対象とする。
- コンソーシアムに対する包括適用除外は、2010年(=EUのコンソーシアム規則の定期見直し期限)を期限として認める。
- 同盟と協議協定に関する包括適用除外は、当面の間認めるものの、海運業を取り巻く内外の状況に応じて適宜見直しを行う。
- 包括適用除外制度の内容は06年3月後半に公表し、関係者の意見聴取を行う。
上記の方針に沿った適用除外規則案は06年4月6日に規則案が公表され、4月27日を期限として関係者からのコメントが求められた。当協会はSSAなどとも意見交換の上、【資料3-1-5】の通り、これを支持するコメントを提出した。
今後、各コメント等を踏まえ、06年7月までに規則案が最終化され、競争法施行の06年1月に遡及して適用されることとなっている。
3.1.6 その他諸国
1. 中国
中国では、独占禁止に関する法令として「不正競争防止法」「価格法」「入札募集及び入札法」「地域間封鎖の打破に関する規定」があり、価格カルテルに関しては、「価格法」で規定されている。また、地方政府レベルでは、更に細かい規定が存在する。
一方で、包括的な独占禁止法は未制定であり、独禁当局も設置されていない。このため、1994年に独占禁止法の起草が開始され、04年9月には商務省による草案が完成、06年6月7日には国務院(内閣)常務会議で草案が承認され、6月24日には国務院全人代常務委員会で審議が開始されている。現在のところ、全国人民代表大会(国会)での法案成立は2006年末〜2007年初になるものと見られている。
同草案では、外航海運業に関する適用除外措置は触れられていないものの、中国当局は欧米の海運適用除外制度を研究しているともいわれており、当協会は動向を注視している。
2. 香港
香港では、日米欧のような包括的な独禁法/競争法は存在しない。このような中、1997年12月に競争政策諮問委員会(Competition Policy Advisory Group: COMPAG)が設置され、2006年6月にはCOMPAGの下に設置された競争政策検討委員会(Competition Policy Review Committee:CPRC)が、分野横断的な競争法策定と、競争当局(Competition Commission)新設等を推奨する報告書を公表した。
同報告書は、外航海運業に対する適用除外等については触れておらず、当協会は動向を注視している。