41 国際条約関連

 

411 SUA条約およびプラットフォーム議定書の改正

海洋航行の不法行為防止SUA条約)及び大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書(プラットフォーム議定書)の改正に関する外交会議20051010日から14日までロンドンのIMO本部で開催された。

SUA条約は、1985年に地中海でイタリア客船がパレスチナ・ゲリラに乗っ取られ、人質が殺害された事件を受け、シージャックに関する国際条約の整備のためプラットフォーム議定書とともに1988年に採択されている。

その後2001年の米国同時多発テロ事件を受け、従来の航行の安全に加えて船舶または大陸棚に所在する固定プラットフォームを利用したテロ行為を抑止すべく2002年からIMO法律委員会で条約改正が検討されてきた。

今回の外交会議は、これまで検討されてきた条約改正に係る議定書案を最終化・採択するもので、97カ国が参加した。

 

SUA条約については、これまでのIMO法律委員会での議論同様、外交会議においてもインド・パキスタンといった核拡散防止条約(NPT)未加盟国がNPTの原則をSUA条約に盛り込むことは(条約改正に関する)そもそもの委託事項の枠を超えており、また、大量破壊兵器に関する議論はIMOの管掌範囲を超えているとの主張を繰り返した。更に両国は、「核関連物質等の輸送」及び「汎用品(BCN兵器−生物(Biological)/化学(Chemical)/(Nuclear)兵器−の設計・生産に繋がる設備等)の輸送」に係る改正案は、NPT加盟国と非加盟国を差別するものであり、ひいては非加盟国の核物質平和利用権に支障を及ぼすものであるとして改めて異論を唱えた。一方、ロシアは犯罪化の対象となる汎用品の範囲が各国総意に基づく明確なものとされていないとして、再三にわたり強い異議を唱えた。

しかしながら、現案はこれまで十分時間をかけて議論し尽くされた結果により纏められたものであるとの見方が大勢だったため、議定書は大きな変更点もなく採択され、今回の決定事項を纏めたFinal Act(最終文書)の各国署名により外交会議が締め括られた。

 

採択された議定書は、IMO事務局により公用語である6国語に翻訳された後、2006214日から1年間が各国の署名期間として設定され、12カ国が批准してから90日後に発効する。これにより、シージャック犯罪を主な対象としていた従来のSUA条約(200510月現在締約国126カ国/世界商船船腹量の約8割をカバー)の範囲がテロ行為にも拡大されることになる。

本議定書による主な条約改正点は以下の通り。

(1) 対象犯罪の拡大

 テロの意図を持って爆発性物質・有害物質等を船舶に対して使用、もしくはそれらを船上で使用・排出することによる死傷行為、または、テロ行為に使用されることを知った上で爆発性・放射性物質/BCN兵器/それらの原料/設計・生産に繋がる設備を輸送することがSUA条約による犯罪化の対象に含まれた。

(2) 公海上での臨検に係る制度

 締約国は、当該船舶のテロ犯罪行為関与を疑うに足りる合理的な理由がある場合には、旗国の承諾の下に臨検を行うことができることとなった。臨検には旗国承諾が前提となっているが、当該旗国が条約批准の際(もしくは批准後)に、臨検要望国の照会から4時間以内に回答しなければ自動的に臨検を承諾する条件を受け入れることをIMOに通知していた場合は、旗国承諾がなくとも他国の臨検が可能となる。

 また、締約国は臨検実施においては以下を遵守するよう規定されている。

−海上における人命の安全を脅かさない必要について配慮すること

−本船乗組員が基本的な人間の尊厳を尊重した方法で、かつ国際人権法を含む国際法の規定に従って取り扱われること

−船長は臨検の意図を通知され、最も早い時期に船主及び旗国と接触する機会を与えられること

−船舶の不当な拘留または遅延を回避するための合理的な努力をすること

 また、臨検の結果、臨検行為を正当化する根拠が見つからなかった場合、締約国は臨検に伴う損害・損失を補償することが義務付けられている。

 

一方、大陸棚の固定プラットフォームを利用したテロ行為の抑止を目的としたプラットフォーム議定書については、特段の大きな議論なく採択され、改正SUA条約に係る議定書同様、2006214日から署名期間が始まるものの、発効要件は3カ国批准かつ改正SUA条約議定書の発効後に発効することとされた。

 

SUA条約見直しに際し、ICS及びISFはテロ抑止を目的とした条約改正を強く支持する一方で、船主の合法的な商業利益及び船員の人権保護の確保を訴えてきたが、最終的な条文は海運業界の懸念にある程度配慮した内容となった。

 

 

412 IMO法律委員会における条約案等の検討

IMO法律委員会では、海事法務に関する条約の策定および改正等について審議が行われている。近年の同委員会における主要議題としては、SUA条約改正、海難残骸物除去条約案、2002年アテネ条約改定議定書のフォローアップ、および船員の公平な取扱いのガイドラインなどがあげられる。

 

1IMO91回法律委員会の模様

IMO91回法律委員会が2006424日から28日までの間、ロンドンのIMO本部で開催された。主要議題の結果は以下のとおり。

 

(1) 海難残骸物の除去に関する条約案(Wreck Removal

本条約案は、海難残骸物の除去に係る船主の義務および金銭的保証の義務付け、沿岸国による除去の権利などを目的とするもので、今次会合ではこれまでの議論を踏まえオランダより修正ドラフトが提出され、それを基に逐条ごとに議論が行われた。

 今次会合における審議の主要点は以下の通り。

@テロ被害に対する責任

テロ行為による海難残骸物の発生に係る船主責任の免責問題については、引き続き検討を要する問題であることが確認されたが、現在テロ問題が審議されているアテネ条約のケースが必ずしも本条約案にも当てはまるとは限らないとする見解が大勢であった。また、国際P&Iグループ(以下、IG)からはアテネ条約でテロ問題の解決が図れない場合は本条約案で解決する必要性が主張され、またP&Iクラブはテロ被害をカバーしないことを改めて発言した。

本件については、議長よりオランダに対し、現実的な提案を次回法律委員会へ提出するよう依頼した。

A強制保険/金銭的保証

船主の責任制限額について、ドラフトでは“少なくともLLMC同額の責任をカバーする(at least equal to)”としていたが、デンマーク、ノルウェー等から船主にLLMC以上の責任を負わせる可能性があるとして“少なくとも(at least)”を削除する提案があり、これが了承され次回委員会で代替案を検討することとなった。

また、適用の対象(“〔 〕メートル以上の船舶の登録船主”)については、議長よりIMO事務局に対し、他のIMO条約を勘案して適切な例示を提供するよう要請があった。

B条約の領海内への適用

本条約案は排他的経済水域(EEZ)を適用範囲としているが、ドラフトでは強制保険/金銭的保証の規定については領海内にも適用できる(所謂Opt-in条項)としている。 本件に関連しノルウェー等より他の規定もOpt-inについて検討すべきとする意見があり、今後関心国で次回委員会に向け検討を行うこととなった。

C発効要件

議長からオランダに対し、関心国およびIMO事務局と相談の上、提案を行うより要請があった。

Dその他

今後のスケジュールとして、200610月の次回法律委員会で実質的な作業を終え、2007年春に条約採択の外交会議を開催することで合意された。

 

(2) 2002年アテネ条約改定議定書

1974年アテネ条約を改定する2002年議定書は未だ発効に至っていないが、その原因とされる改定議定書が定める金銭的保障の実効性(テロ問題および保険総額の問題)について、ノルウェーのRøsæg教授を中心に非公式な協議が行われてきた。

今次会合では、ノルウェーより決議案を踏まえたガイドライン案およびテロ問題の妥協的解決を諮るための提案文書について説明があった。

上記提案文書は、本件審議に先立ち非公式会合で協議された戦争保険カバーに係る新たなスキームに関するもので、ロンドンの保険ブローカー(MARSH)により提供されたものであった。

具体的には、テロ被害で船主の寄与過失が全くなかったことを証明できなかった場合に有責となる可能性もあり、P&I保険がテロ被害をカバーしていないことから、船主は保険付保のない損害についての責任を追求される恐れがある。こうした事態を打開するため、テロ関係の責任については96LLMCの責任限度額(175,000SDR×乗客数)を適用することで、1事故1船あたり5USドルまで手配可能としている。この条件下で、保険証書は非戦争危険に関しP&Iクラブから発給され、戦争危険(テロ危険)についてはMARSHスキーム(又は同様のスキームを提供する競合相手)から発給されるというものであった。

一方、ICSおよびICCL(国際クルーズ評議会)は、船主はテロ責任から完全に免責されるべきこと、テロ被害者への救済は政府によって行われるべきであること、戦争保険はショートノーティスで一方的に解除されることもあることから船主責任は保険付保のある場合に限るべきであることなどを主張し、これに対して一定の理解を示す国もあったが、テロに対する船主責任を完全に免責とするのは本条約の趣旨にも反するという意見もあり広く支持を得ることまでには至らなかった。

ノルウェー提案については、原則支持を表明する国もあったが、会合当日に提出されたものであり、政府および業界関係者ともに更に検討の時間が必要ということで意見が一致し次回委員会へ持ち越しとなった。また、MARSHに対してはスキームの詳細について情報提供するよう要請があった。なお、IGからはスキームの持続性の問題および戦争保険市場のキャパシティへ与える影響について懸念が表明された。

また、高額な補償限度額に対し引受が困難であるという保険総額の問題については、IGよりクラブのボードによる了承を得られることを期待しているとの発言があったが、但し、あくまでテロ問題がP&Iクラブおよび船主にとって納得のいく解決が図れた場合に限ることを付け加えた。

 

(3) 船員の公平な取り扱い(Fair Treatment of Seafares

近年海難事故に伴い、船長/船員が長期間沿岸国に長期間に渡り拘留されるケースが起きていることに端を発し、20044月の第88回法律委員会での合意に基づき、「船員の公平な取り扱い」に関するガイドライン策定のためのIMO/ILO合同作業部会が設置された。今次会合では、20063月に開催された作業部会で纏められたガイドライン案について法律委員会の承認を得るべく審議が行われた。

当該ガイドライン案では寄港国/沿岸国に対し、捜査の公正化と迅速化、不当な拘留の防止、関係者との連絡手段の確保、人件の保護、給料や生活の保証、差別的待遇の防止などが示されているほか、旗国、船員国、船主、船員の夫々に対して、海難事故発生時に船員が公正な取扱いを受けられることを確保することを推奨している。

同案に対して米国からは、海難事故の定義の改正、犯罪の意図を有した船員には適用しないこと、各国の国内法に干渉しないこと(序文には触れられているが)を本文でも言及するとした改正提案があったほか、ノルウェー、デンマーク等からも、黙秘権の強調が事故捜査の妨げになること、拘留時の賃金提供者の問題などいつくかの懸念が上げられた。一方、ISFやフィリピン等は、ガイドライン案は作業部会で十分に議論され関係者間の慎重な歩みよりの基に合意されたものであり、改正により採択が遅れると船員の保護に対する否定的なメッセージを与えるとして、早期に採択する必要性を訴えた。

これに対し、日本をはじめ多くの国より現案での採択に支持が集まり、各国の懸念については引き続き検討していくことで同ガイドラインが採択されることとなった。これに伴い、200610月の次回委員会会期中にIMOでアドホック作業部会を設置しガイドライン改正について再度検討を行うこととなった。

 

(4) 避難場所(Place of Refugee

本件は、援助を求めている船舶に避難場所を提供した沿岸国で出費や事故が生じた際の責任と補償について、既存の条約ではカバーできない範囲があるとして新たな条約の制定の必要性がCMI等から主張されていたものであるが、前回委員会(20054月)で審議の結果、未発効又は審議中の条約が発効してその効果を検証するに十分な時間を経た上で、それでも本件の条約化が必要と判断されたならば改めて検討を行うとの結論となっていた。

今次会合ではCMIより自らの作業部会で検討したドラフト草案が提出されたが、多数の国は依然として新たな条約の必要性には懐疑的であり、更には非難場所に関する補償についても現行条約でカバーできることから本件は委員会の議題から削除すべきとの意見も出された。しかし一方で議題として残しておくべきとの意見も少数ながらあったことから次回委員会(200610月)で再度検討を行うこととなった。

 

(5) 船上における犯罪から船員および乗客を守る手段

本件は、TAJIMA号事件を受け、日本から外国籍船での犯罪事件の被疑者を速やかに引き渡す方策の必要性を訴えていたものであり、第89回法律委員会(200410月)でCMIが本件の解決策としてモデル国内法案を策定することが決定されていた。

今次会合では、CMIより現在も検討が継続中であり、2007年には法律委員会と海上安全委員会へモデル国内法案の提出を予定としているとの報告があった。これに対し、日本からCMIの作業への感謝および可能な限り協力を行うことを表明したほか、オランダ、デンマーク、インドからも本件の重要性について発言があった。

 

 

413 国際油濁補償問題

タンカー事故等で油濁による海洋汚染が発生した場合、その損害や清掃費用については、海運業界と荷主である石油業界が協力して補償する体制が国際条約によって整備されている。すなわち、一定の責任限度額を設けて、はじめに船主による補償を行い、不足する部分を荷主が補償するもので、いわゆる油濁二条約と呼ばれる国際条約によって補償体制が確立している。(油濁二条約:「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(CLCInternational Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage)」および「油による汚染損害の補償のための国際基金設立に関する国際条約(FCInternational Convention on the Establishment of an International Fund for Oil Pollution Damage)」)

この油濁二条約のうち、CLCは船舶(タンカー)の貨物である重油等の流出によって生じた油濁損害について船主の無過失責任、責任限度額、強制保険の付保を定めた条約である。一方、FCは荷主の責任負担についての条約で、タンカーから油を受け取った荷主の拠出金を基に設立された国際油濁補償基金(IOPCFInternational Oil Pollution Fund)による被害者に対する補償を行うことを定めたもので、1969CLC1975年に、また1971FC1978年にそれぞれ発効し、1992年には、両条約の限度額引上げを主な内容とする改定議定書(1992CLCおよび1992FC)が採択され、19965月にそれぞれ発効した。

199912月には、マルタ籍タンカー「エリカ号」がフランスのブルターニュ沖で重大な油濁損害事故を引き起こしことを契機として200010月開催のIMO法律委員会において、油濁二条約の補償限度額を約50%引上げることが合意され、200311月から船主の責任限度額は8,977SDR(約140億円)、92FCの補償限度額は2300SDR(約316億円)となることとなった。

更に、二条約の50%引上げでは将来起こり得る巨大油濁事故の補償には不十分であるとしてFC条約の限度額を超える補償に対する第三層としての追加基金が作業部会、および20024月のIMO84回法律委員会での検討を経て、荷主負担という形で20035月の追加基金設立外交会議で採択された。また、この追加基金設立に当たっては、現行の92CLCFC体制の見直しについて優先的に作業を進めるとの決議が併せて採択された。

これにより、被害者救済という点では充分な補償が可能となった一方、欧州諸国および石油業界を中心に、これまでバランスが取れてきたとされる船主/荷主間の負担割合について見直しを求める声が高まる結果となった。

上記決議に基づき、国際油濁補償制度の見直しが基金作業部会で検討されることとなり、船主負担見直しに関する条約改正の是非についての議論が行われてきた。

 

1.国際油濁補償基金第10回総会等の模様

国際油濁補償基金第10回総会等が20051017日から21日の間ロンドンのIMO本部で開催された。主要議題の結果は以下のとおり。

 

(1) 1992年基金総会

国際油濁補償基金では2000年より基金作業部会で現行油濁補償制度の見直しについて審議が行われており、20053月開催の同作業部会には条約改正の是非、及び改正するならどの案件を改正するかといったことについて最終勧告(Final Recommendation)を取り纏めることとなっていたが、船主責任については条約見直しを支持する側と条約改正によらず業界の自主的負担(IGVolunteer Scheme)による解決に委ねるべきとする側で意見はほぼ互角に分かれたため最終勧告を取り纏めることが出来ず、作業部会からの勧告なしに総会で最終的な結論を出すこととなっていた。

 

@ 条約改正について(船主責任限度額の見直し)

 船主責任に関する条約改正については、これまでの作業部会で意見が大きく二分されていたことから数回に渡り結論の先延ばしを繰り返していた。

今次会合では、作業部会を継続(新たな委託事項で立ち上げる)して条約改正を審議することを主張する11カ国(日、英、仏等)の共同提案、条約改正に反対し現行条約の維持とともに作業部会の活動終了を主張するギリシャ提案、および条約改正を行わないことを条件に業界の自主負担を拡大するとしたIG提案を中心に議論が行われた。

最大の焦点である船主責任の見直しに関する条約改正を行うことの是非については、改正賛成の立場からは限定的な改正(Limited Revision)を支持するもの、また改正反対の立場からは良好に機能している現行制度を変更する必要はないとして加盟国のコンセンサスが無いなか改正を行うことに抵抗を示すなど、これまでの作業部会と同様に夫々の見解が繰り返され賛否は大きく分かれたままお互いの溝が埋まることはなかった。最終的には、条約改正に対する支持が加盟国のマジョリティー(議長のカウントによると、11カ国提案支持が23カ国、ギリシャ提案支持が28カ国)を得ることが出来なかったため、条約改正の議論はこれ以上進めないこととし、総会の議題から削除することが決定された。

一方、IGより提案のあった自主負担の拡大(STOPIA92CLC全加盟国への適用およびTOPIA)については、業界間の負担割合の問題を解決する現実的な提案として、条約改正反対派を中心に支持を得るところとなった。上記の通り、条約改正議論に決着が着いたことから、今後はIG提案の実施を原則進めていくこととなったが、提案の文言や前提条件について改善を求める国もあったことから、基金事務局長と業界で検討の上、20062月に開催予定の次期総会で具体的な審議が行われることとなった。

 

A 油のサブスタンダード輸送に関する作業部会の設置

20053月開催の同基金作業部会でIGより提案のあった油のサブスタンダード輸送に関する新たな作業部会の設置について、その是非を今次総会で結論を出すこととなっていた。

本件に関し議長からは、同作業部会の焦点はIMOの領域である技術的側面に踏み込むものではなく、あくまで経済的側面からクオリティシッピングへのインセンティヴやサブスタンダード船へのディスインセンティヴを検討することである旨説明があったが、依然としてサブスタンダード船はIMOで取り扱うべき問題であり当基金での検討には反対する国もいくつかみられた。しかしながら、日本をはじめマジョリティーは作業部会設置を支持したことから、今後は、作業部会の委任事項に関するドラフトを関心国等で検討することとし、それを20062月開催予定の次期総会において審議することとなった。また、IMOとの関係を懸念する見解に対して豪州から提案のあったIMOIOPC基金との合同作業部会設置の可能性についても検討を行うこととした。

 

(2) 1992年基金理事会および1971年基金運営評議会

1992年基金の運営問題について詳細な検討が行われたほか、エリカ、プレスティージを始めとする事故処理案件について審議、情報提供が行われた。特筆すべき事項としては、プレスティージ号事故に関する被害国への支払い率について新たな暫定補償手続きが提案された。具体的には、基金に対して認められる最終の推定値に基づき支払割合を決定し、現在までの査定額に基づき西、仏、葡の3各国間で仮配分するもので、基金は過払いを防止するため各国からの保証を受けるとしたものである。このような補償手続きは本来条約が想定しているものではなかったが、これを前例としないこと、今後もモニターしていくことで原則支持を受け、仮払い率が15%から30%とすることで了承された。一方でスペインが行った同船舶の船骸からの油抜き取り作業を補償の対象とするか否かについては議論が分かれ今後更なる検討が必要とされた。

 また、1971年基金に関する事故の最新情報について報告があった。

 

(3) 追加基金総会

 追加基金に達する事故も起こっていないことから、基金の運営問題についてのみ審議された。なお、新たな条約批准についてイタリアが10月に批准(20061月より発効)、またベルギーが10月乃至11月に批准を予定しているとの報告があった。

 

2国際油濁補償基金第10回臨時総会等の模様

国際油濁補償基金第10回総会等が2006227日から32日の間ロンドンのIMO本部で開催された。主要議題の結果は以下のとおり。

 

(1) 1992年基金臨時総会

@ STOPIA及びTOPIAについて

 両協定の状況について事務局長及びIGから説明。これに対し、加・英・豪は両協定発効を歓迎しつつも、自主的協定の性質に強い懸念を示すとともに、協定が負担公平化の問題を解消できないようであれば、条約改正による負担見直しに再び着手したいとの考えを表明。更に両協定の見直し時期が発効から10年後とされたことについても強い懸念を示し、基金は適宜関連情報の提出をIGに求めるとともに、協定発効後5年の段階で予備的な有効性分析を行うべきと主張した。

 これに対し、IGからは見直し時期を10年後としたのは5年では状況分析に十分なデータが集まらず、適切な分析には最低限10年は必要と考えたことが説明され、また、クレーム状況等の関連情報については定期的に92年基金に情報提供したいとの提案があった。(これを受け議長から総会への関連情報提供がIGに要請された。なお見直し時期については変更されず)

 また、STOPIAを(92年基金条約加盟国だけでなく)92年民事責任条約のみの加盟国(92年基金条約は未加盟の国)にも拡大することに関するIGからの意見照会については、基金加盟国のdisincentiveになるものとして各国が反対、支持は全くなかった。

 TOPIAについては、追加基金で対応されるべき事故が発生した際に船主側から予め50%の負担を拠出してもらうこととなったため、基金側の過大な立替えとそれに伴う事後の清算処理を避けられる点が特に有効であることに留意された。

 

A クオリティシッピング促進のための作業部会設立について

 200510月の総会で設置が合意された作業部会(以下WG)の委任事項について、デンマーク等が作成した案をもとに審議され、バハマ・ベネズエラ・ロシア・ブラジル・マルタ・ギリシャ・キプロス・メキシコ・南アフリカ等から、委任事項案について以下の問題提起があった。

・そもそもWG設置の必要性に疑問あり。

economic measureという漠然とした広い範囲の文言を用いることが適当か。

・具体的な委任事項案に旗国やIMOが扱うべき項目が含まれている。

・限定的な国で構成されるOECDで取り上げられ、なおかつOECD内でも十分審議されていない船舶保険レポートを基礎文書として取り上げることが適当か。

・総会からWGに与えられる権限(現状では総会への報告と審議のみ)無しにどこまで作業を進めることが許されるのか。また、そもそもWGの作業は単なるstudyに止めるべきではないのか。

・検討期限を明確に設定するべきではないのか。

IMOとの共同WGとして、IMOの参画を確保すべきではないのか。

WG作業は条約改正に再び着手することを視野に入れたものではないのか。

 日本から、WG設置は200510月の総会で既に合意されていることで、この段階で検討されるべきは委任事項である旨発言、独・仏等各国から支持された。

 バハマ等から提起された問題点を勘案し委任事項案を修正、以下の点が明記された。

WGは非技術的な要素について検討を行う。

WGは決定権は持たず、総会に対して報告・提案を行うのみの役割に止める。

・検討期限について、200610月の総会に提案を行う。

IMOによるWG参画の重要性。

OECDの船舶保険レポートは1つの参考文書に止める。

WGは条約改正を伴う問題は検討しない。

 20065月の次回会合(92年基金理事会)の際に、WGを開催することとされた。

 

(2) 1992年基金理事会

@ プレスティージ号事故に伴う船骸からの油抜取り作業に係るクレーム

 スペイン政府は、プレスティージ号事故に伴う船骸からの油抜き取り作業費用として109.2百万ユーロを請求していたが、200510月の理事会は同請求に関する決定を延期していた。

 一方、同政府は基金に対するクレーム提出と併行し、EUに対しても油抜き取り作業費用の支援を要請(基金請求額とは異なる約98.7百万ユーロの支援要請)をしていたが、同要請の85%が認められたことを受け、今次理事会に対して請求額を引き下げ(約24.2百万ユーロに修正)、改定請求額を容認するよう求める文書を提出した。

 これに対し、事務局長は現行の基金クレームマニュアルに基づき、クレームは請求されていないものも含め、作業に要した総コスト対効果の観点から査定・容認されるべきで、その観点からスペインの請求をそのまま容認することは困難であるとの見解を示し、これをノルウェー・ドイツ・日本・ロシア・デンマーク・カナダ・フィンランド等10カ国が支持した。一方フランス・ポルトガル・メキシコ・ベネズエラの4カ国はスペイン政府への支持を表明した。

 議長はコンセンサスによる結論を導くことが難しい状況に鑑み、関係国の調整時間を設けた結果、フランスから「クレーム容認基準は一律・安定的に適用される必要があり、現状の容認基準を適用した場合、スペイン政府の請求は容認できないことになる。しかしながら、今後同様のクレームが発生した場合に備え、基金は柔軟に対応できるよう準備しておく必要がある。そのため、現行容認基準の見直しも視野に入れた議論ができるよう、事務局長に対して同基準を検証し、文書を提出するよう要請する」との提案が為され、大勢がこれを支持した。スペインもクレーム容認基準の適用には十分な柔軟性が必要としてフランス提案を支持した。

 これにより、今次理事会はスペインの油抜き取り作業に係るクレームは容認しなかったものの、今後現行の容認基準について議論することとし、事務局長に対して200610月の基金総会に同基準の検証結果に関する提案文書を提出するよう要請した。

 

A エリカ号事故に伴う清掃費クレームの査定

 フランス政府からの清掃費クレームは250頁にわたる資料で178.8百万ユーロを請求するという規模の大きなものとなった。このため、事務局長は基金として支払える上限額(65百万ユーロ)及び査定の効率化を念頭に置き、同政府クレームの3つの主要要素(海岸清掃費用・海岸清掃に従事した軍隊関連費用・海上作業費用)を大まかに査定し、最低限必要な査定額をはじき出すという手法を提案した。

 効率的に査定処理を進める観点から、事務局長の提案は当事国であるフランスをはじめ各国から支持された。

 

(3) 追加基金臨時総会

 ブルガリアでは200633日に、クロアチアでは同年517日に同議定書が発効予定、英国では現在議会で議定書批准を審議中で20064月の批准を目指していること、またギリシャは20066月の批准を目指し作業中との報告があった。

 

3.国際油濁補償基金第11回臨時総会等の模様

国際油濁補償基金第11回臨時総会等が2006522日から25日の間ロンドンのIMO本部で開催された。主要議題の結果は以下のとおり。

 

(1) 92年基金臨時総会、理事会および追加基金総会

92年基金臨時総会では、IACS(国際船級協会連合)にオブザーバー資格を与えることが合意された。IACSからは、クオリティシッピング促進のための作業部会に貢献したい旨発言があった。

続いて行われた92年基金理事会では、Erika号事故、Prestige号事故等に係るクレーム処理状況に関する報告等が為された。

一方、追加基金総会臨時総会では、各議案について特段の議論はなかった。

 

(2) 71年基金運営評議会

本評議会でも関連事故のクレーム処理状況等について報告された。ベネズエラで1997年に発生したPlate Princess号事故については、基金に対するクレーム手続が71年基金条約に基づく訴訟請求期限内(3年以内)に行われなかったとして、本事故に係るクレームは既に時効により無効との事務局長見解が大勢の支持を得た。

 

(3) クオリティシッピング促進のための作業部会(WG

初会合となった今回は、まずWGの議長にデンマーク政府のBirgit Olsen女史を選任。議長が提案文書を踏まえ今次会合の論点を5つに整理して審議が進められた。

@ 保険業界の対応状況について

 IGからクオリティシッピング促進のために業界として着手済の対策、今後の対策等について概要以下説明があった。

IG全メンバーが既に保険加入船舶に対する品質管理策(船級規則/旗国要件/ISMISPS Code等の遵守状況や船舶状態検査要件等に関する共通PIクラブ規則等)を適用しており、また、IGとしては船舶検査に係るデータベースの構築等を実施している。

IGメンバークラブへの保険加入に相応しくない船舶のデータベース化を検討中であるが、競争法上の問題が生じる恐れがある。また、保険加入の基準を満たさない船舶を受け入れたメンバーに対して保険額の2倍まで補償させるdouble retention mechanismも検討中。

・差別的な保険料率の導入については、請求記録の実績でサブスタンダード船か否かを判断することは難しい(良質な運航者の船舶でも請求実績が良くない場合もある)ため、実行性に疑問がある。また、保険費用は運航費全体で見ればごく小額であることから効果も乏しいのではないかと思われる。

 

これらIGの取り組みが各国に評価される一方、英国等から現在世界で運航されているタンカーの95%以上がIGメンバー保険に加入していることに鑑み、今後のクオリティシッピング促進策構築にあたっては、IGの枠外となる非IGメンバー船舶に対しどのように対策を徹底させていくかが問題ではないかとの指摘があった。

この点に関連し、独は事故クレームの中で非IGメンバーが関わっている案件の比率を参考までに調べることを提案し各国に支持された。本調査は基金事務局がITOPF(国際タンカー船主汚染防止連盟)等にも協力を仰ぎ実施することとなった。

 

A 各国のCLC証書発給におけるPI保険有効性確認のための手法

今次会合では、各国がCLC証書発給前に当該船舶の保険有効性を確保する際に利用できる共通基準を構築するための第一段階として、CLC証書発給の最優良事例となる手法を特定すべく、各国の状況を調査することが合意された。

また、CLC証書の発給時には、当該船舶の船主がCLC条約をカバーできる保険を付保していることを各PIクラブが証明する“ブルーカード”の提出が船主に課されている点に鑑み、ブルーカードが非IGメンバーのPIクラブによって発行されたものである場合、各国が同カード発行者の財務能力を如何に適切に査定できるかが問題点の1つとして認識された。

会合では、本件に関連して、海事債権に係る船主責任についてのIMOガイドライン見直しの必要性、更には同ガイドラインの強制化を提案する意見も出された。しかしながら同ガイドラインについては、強制化によりサブスタンダード船問題が解決できるというわけではないとの反論もあり、それ以上の議論は為されなかった。

 

B 保険者間の情報共有化と関係者間の透明な連携に係る問題

本件に関連し、IGは保険者間情報共有の障害の一例として、ノルウェーの法令を例示、保険者間の情報共有や関係者(保険者・船主・荷主)間の自由な情報交換を妨げる障害を取り除くよう各国に改めて要請した。ノルウェー代表はこれに対し、同国で情報交換の障壁となっている守秘義務法の20071月改正を目指している旨説明した。

今次会合では、カナダ・フランス・日本・オランダ・ナイジェリア・ポルトガル・英国・ウルグアイの共同文書による「まず保険者間の情報共有の妨げとなる要因を特定すべき」との提案が大勢により支持された。これを受け、保険業者間の情報共有に加え、関係者間の連携の障壁となるような各国法令の調査することで合意され、CMI(万国海法会)に同調査を委託要請することとなった。

また、今後の検討に関し、日本は「クオリティシッピングの促進のために自由な情報共有を可能にさせることが、一部業者の保険市場独占に繋がることのないよう注意すべき」と指摘。ギリシャ等からは共有化の必要がある情報を特定しておくべきとの意見が出された。

 

C その他の問題(港湾使用料・PSCの差別化によるクオリティシッピング促進)

INTERTANKOは、IMOの所掌分野ではあろうが、高品質な運航者はPSCや港湾料金等の点でインセンティブが与えられるような仕組みを作るべきと主張した。一方でOCIMFは、既存のグリーンアワードを更に振興させることを提案した。これらに対し、そうした制度の推進には高品質船主の明確な定義が必要になるのではないかとの指摘があるとともに、IMOの所掌範囲に踏み込むことへの懸念を示す国もあった。

本論点については、各国に対して高品質船主を優遇するような制度を導入していれば、基金に対して情報提供するよう要請された。

 

D WGの作業期限

議長は、検討に必要な調査と調査結果に基づく審議には12年を要するとの推測を示したところ、ギリシャは最短のスケジュールで検討を進めることを重視し、仮に200710月(の基金総会前)をWGの作業完了時期(総会に対する勧告の取り纏め期限)として設定しておくべきと強く主張した。一方、キプロスはたとえWGが頻繁に開催されても、遠方の国が毎回参加することには支障があるのではないかとの懸念を示した。

議長はギリシャ・キプロスの意見とそれに対する各国の反応を勘案して以下を提案し了承された。

WGで総会宛の勧告事項を纏めるには45回のWG開催が必要。

・各国の出席を促進するために、WGは理事会等と同時期に開催する。

・必要なWGの開催回数を勘案し、WGの作業期限(総会宛勧告事項の取り纏め期限)は仮に2008年中としておき、検討状況によっては変更する。

 

 

413 新国際海上物品運送条約

国際海上物品運送法の分野においては、ヘーグ・ルール、ヘーグ・ウィスビー・ルール、ハンブルグ・ルールなどが併存するとともに、各国が国内法として国際海上物品運送法を定めるなど、国際的な統一ルールが無かったことから、19966月のUNCITRAL(国連国際商取引法委員会)第29回総会において、統一的なルールの作成について検討を開始するとともに、本件について専門機関の助力を仰ぐことが決定された。これを受けてCMI(万国海法会)が新国際海上物品運送条約の草案作成にあたってきたが、200112月、最終草案が完成し、UNCITRALに送付された。UNCITRALでは、運送法を扱う第3作業部会(Working Group V)で本草案の検討が行われることとなり、20024月以降本件に関する作業部会が開催されているほか、非公式ラウンドテーブルでも検討が行われている。

これらUNCITRALWG等における審議に対応するため、わが国では、学識経験者、法務省、国土交通省、および船社・フォワーダ−・保険会社等産業界をメンバーとして、日本海法会に設置された運送法小委員会(委員長:谷川久 成蹊大学名誉教授)で検討が行われている。当協会もオブザーバーとして参加するとともに、各会合への対処方針について国交省を通じて船主意見の反映に努めている。

ここでの議論はわが国の対処方針に反映され、藤田友敬 東京大学助教授を中心とする代表団がUNCITRALWG等に出席し対応している。

同作業部会については以下の通りである。

 

1.第16UNCITRAL運送法作業部会

UNCITRAL作業部会が20051128日から129日の間にウィーンにおいて開催され、裁判管轄と仲裁(jurisdiction and arbitration)、荷送人の義務(shippers’ obligation)の二つを中心に審議された。

各項目の概要については以下のとおり。

@裁判管轄権(jurisdiction

 米国は国内事情を反映して、数量契約の類いにおける裁判地の決定は専属的管轄合意(exclusive jurisdiction clauseに委ね、それ以外については貨物側の請求者にある程度の選択を与えるとの見解に固執し続けた。

 これに対し複数の国から裁判管轄を草案に挿入する必要性に疑問が寄せられたが、頑なな米国へ配慮するかたちで妥協が受け入れられた。

A仲裁(arbitration

 仲裁に関するオランダ提案に基づき議論が進められた。これはlinerサービスについては裁判管轄条項の脱法を防ぐ限りにおいて規制をかけ、non-linerサービスに関しては規制しないとするもので、反対の意見もあったが基本的な方向性については大方の支持を得るところとなったが、次回以降更に検討が行われる。

B荷送人の義務(shippers’ obligation

 一部に反対意見があったものの、荷送人の義務に関する規定を置くことには大方の支持があった。また、海運業界の意見に反し、本規定の適用範囲を運送人と荷送人との契約当事者間に限定し、荷受人、処分権者および履行当事者などの第三者には言及しないとすることが多くの支持を得た。

C引渡(delivery

 運送人の責任期間に関する規定は大方の支持を得たが、FIOS条項については問題があるとして次回以降更に検討が行われることとなった。また、荷受人が物品を受け取ることを無条件の義務とすべきとの海運業界の意見には支持もあったが、当座は現行ドラフトを維持することとされたほか、譲渡性のある運送書類又は電子的記録が発行されている場合の引渡についても意見が分かれたため、次回以降更に検討を行うため現行ドラフトが維持された。

 

2.第17UNCITRAL運送法作業部会

国際海上物品運送法の改訂草案を審議するUNCITRAL作業部会が200643日から13日の間にニューヨークにおいて開催され、運送品処分権(right of control)、権利の譲渡(transfer of rights)、引渡(delivery)、適用範囲と契約の自由(scope of application and freedom of contract)、荷送人の義務(shippers’ obligation)を中心に審議された。

なお、複雑かつ難解な問題については、本ドラフトから除外した上で将来的な課題として別の機会に作業を行うことが合意されたが、具体的にどの問題を除外するかについては未定。

各項目の概要については以下のとおり。

@運送品処分権(right of control

 本条項は契約変更について荷主側に一方的な権利を与えるものとして、海運業界より懸念が繰り返されたものの本条項はそのまま維持された。しかしながら、新たにセーフガードが設けられるとともに、非強制的なものとして当事者間の契約により変更可能であることが確認された。

A権利の譲渡(transfer of right

 本章を削除するか否かを今後検討することとなった。

B引渡(delivery

 譲渡性のある運送書類・電子的記録が発行されている場合の引渡しに係る問題点について、運送人が不安を覚えないような解決策を探求することとなった。なお、詳細については引き続き検討される。

C適用範囲と契約の自由(scope of application and freedom of contract

 傭船契約、数量契約及び同様の契約については本ドラフトの強制条項から除外することで原則的に受け入れられていた。第三者への適用については、第三者と運送書類・電子的記録の所持人とを結びつけるアプローチを取り止めることが決定された。

D荷送人の義務(shippers’ obligation

 物品の引渡義務を遂行するための情報と指示について、運送人と荷送人がお互いに責任を果たすとした相互義務をテキストに採用することが合意されたほか、遅延に対する荷送人の責任問題については結論がでなかった。

 

 

414 信用状統一規則(UCP500)の改正

信用状統一規則は、信用状取引に関する当事者の権利、義務、解釈などを国際的に統一した規則(以下、UCP)で、現在発行されている信用状の大半がUCPに準拠している。UCP1933年に国際商業会議所(ICC)により制定され、その後幾度かの改定が行われ、現在は1993年改定規則(UCP500)が用いられている。

ICC日本委員会では次期改定(ICC本部の銀行委員会で実質的な改正作業を行う)に対応するため、銀行技術実務委員会のなかに「UCP改定拡大委員会」を設置し、海運、商社、保険、製造業等の関係業界も交えた検討体制を整えることととした。

当協会も同委員会へ参画するとともに、運送書類に関する条文(海上船荷証券、流通性のない海上運送状、傭船契約船荷証券、複合運送書類)について、海運業界としての意見反映に努めた。

なお、これまでのICC本部での作業ペースから勘案すると、次期UCP改正は2007年以降になるものとみられている。

 

 

415 戦争保険

 ロンドン保険市場の保険者で構成されるJoint War CommitteeJWC)が2005620日に戦争危険区域に関するガイドラインの見直しを行い、新たにマラッカ海峡が船舶戦争保険の除外水域として指定された。

 これに伴い同水域に入域する船舶に対しては割増保険料率(A/P)が適用されることになるため、ICSINTERTANKOをはじめとする国際海運団体は、今回の決定が業界に及ぼす影響が大きいこと、および決定のプロセス等が不明確であるといった問題点をJWCに訴え、また、ASF船舶法務・保険委員会(SILC)でも同様の反論ペーパーをJWCに提出するなどマラッカ海峡の指定見直しを求める動きが世界的に高まった。

 こうしたなか、日本の主要損害保険会社は同水域に入域する船舶に対して200591日午前0時(日本時間)よりA/Pの適用を開始すると船社へ通航してきた。これに対し当協会は、同海峡が原油タンカーをはじめ日本関係船舶が多数通航する大物流ルートのため、追加保険料が船社経営や関係荷主など日本経済全体に与える影響が大きいとしてA/Pの適用については慎重な対応を行うよう訴えるプレスリリース(資料参照)を発表した。

 その後、一旦は予告通り損保会社によるA/Pの適用が開始されたものの徐々に適用を見送るような動きが大勢となり中長期に渡り多大な影響を被ることにはならなかった。しかしながら、そうした状況下でもJWCが依然として同海峡を危険区域リストから除外していないことを問題視し、2006529日に軽井沢で開催されたASF総会において、JWCに対し同海峡のリスト除外を求めるレターを第15ASF総会議長名(当協会鈴木会長)で出状することが合意された(69日付で出状)。

 最終的に本件は、同海峡のセキュリティ向上等を理由に、87日をもってリストから除外されることで決着をみた(但し、スマトラ島北西の港への寄港は依然として対象)。

 

 

[資料]

 

2005823

海事記者会 御中

(社)日本船主協会

 

船舶戦争保険におけるマラッカ海峡等の除外水域指定について

 

2005823日、わが国主要損害保険会社は、当協会会員会社に対しマラッカ海峡等を船舶戦争保険の除外水域として指定し、同水域に入域する船舶に対しては9月  1日午前0時(日本時間)より割増保険料率(A/P)を適用すると通告した。

 今回の通告は、ロンドン保険市場の保険者で構成されるJoint War CommitteeJWC)が戦争危険区域に関するガイドラインの見直しを行ったことに端を発するものとされているが、当協会は、同海峡における海賊行為や武装強盗等への対策が、わが国政府をはじめ関係アジア諸国の努力によって強化されつつある中で危険区域に指定されたことに困惑している。

 同海峡は、日本の輸入原油の8割超が通過するなど、わが国関係船舶が多数通航する極めて重要な海峡であり、今回の指定によって、追加保険料が課徴されることとなれば、わが国海運企業の経営に大きな影響を与えるだけでなく、関係荷主業界を含む日本経済全体に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

 当協会は、損害保険各社による割増保険料率の適用にあたっては、わが国経済全般に与える影響を充分考慮し慎重に対応するよう強く求めるものである。