6・1海賊問題への対応
6・1・1 海賊事件の発生状況
(1)世界における発生件数
国際商業会議所(International Chamber of Commerce = ICC)の下部組織である国際海事局(International Maritime Bureau = IMB)の海賊情報センター(クアラルンプール)の年次報告によれば、全世界における2005年の海賊事件(未遂事件も含む)の報告件数は276件で、2004年より49件、約15.0%減少し、2003年より2年連続で減少となっている。
地域別発生件数を見ると、東南アジアが102件(37%)で、依然として世界で最も海賊事件の多い地域となっており、これにアフリカ(80件)、インドおよび周辺国(36件)が続いている。東南アジアの海賊事件の多くはインドネシア(79件)で発生している。マラッカ海峡は、2003年28件、2004年38件と増加傾向であったが、2005年12件と大幅に減少した。
また、全体の傷害等発生件数は2004年401件から2005年509件と108件の増加となった。内訳を見ると、身代金要求目的の誘拐が86件から13件に、傷害が59件から24件に、乗組員が海賊に殺害される件数が32人から0人とそれぞれ減少したのに対し、人質となった件数が148人から440人と大幅に増加した。(資料6-1-1参照)
(2)日本関係船の発生件数
国土交通省海事局は、2005年におけるわが国関係船舶(邦船社が所有、運航、用船している外航船舶)に対する海賊事件について発表した。その概要は以下のとおりである。
@被害件数
2005年において、わが国関係船舶が海賊に襲われた発生件数は9件で、2004年の7件から増加した。
A発生海域
地域別に見ると、従来と同様、インドネシア周辺海域を中心に東南アジア海域で9件発生した。
6・1・2 我が国および当協会の対応
(1)海賊・海上武装強盗対策推進会議
2005年4月に海賊・海上武装強盗に対する取組みを全省的に強力に推進するため、国土交通省および海上保安庁により設置された「海賊・海上武装強盗対策推進会議(座長:国土交通審議官)」は、2005年7月に中間取りまとめとして、これまで官民で取組んできた海賊対策の検証を踏まえたうえで、次の3項目を骨子とする海賊対策を推進することを発表した。
@ 便宜置籍船等を含む日本関係船舶の自主警備対策の強化のための環境整備
A 沿岸国の海上取締能力向上のための一層の支援
B 海賊行為抑止のための国際的強力体制の拡充
さらに、2006年1月には、マラッカ・シンガポール海峡に限らず国際的に発生する海賊等への対策に関し、情勢の変化に適確に対応したより効果的な対策を関係者の一層の連携の下で継続的に進めていく必要があるとして、同対策推進会議を常設的な体制に改め、新たに「海賊等対策会議」を設置し、上記中間取りまとめの再検討に併せて、各種の施策をより一層強力に推進していくことが発表された。
なお、同対策推進会議の開催状況は以下のとおりであった。(括弧内は国土交通省により発表された議題。※印は同対策推進会議と連携して開催された当協会との意見交換会)
第1回:2005年4月7日(海賊・海上武装強盗対策の現状と課題について)
※2005年4月26日
第2回:2005年6月1日(海賊・海上武装強盗対策の検討)
第3回:2005年7月27日(海賊・海上武装強盗対策の中間とりまとめ)
※2005年8月18日
※2006年1月24日
第4回:2006年1月31日(海賊・海上武装強盗対策の中間とりまとめ後の現状と取組み状況)
(2)アジア海賊対策地域協力協定
深刻化するアジア地域の海賊問題に有効に対処するため、海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じて海上保安機関間の協力強化を図ることを目的とした本協定は、2004年11月に、我が国のほか東南アジア関係諸国15ヶ国の参加により採択された。
同協定は、2006年6月に締約国が発効要件である10か国に達したため、その90日後である同年9月に発効予定となっている。
(3)ソマリア沖における海賊被害
紅海・アデン湾、ソマリア沖を中心にアフリカ海域は、全体として2003年から海賊事件発生事件件数は減少しているものの、人質、身代金目的で誘拐された乗客・乗員は合わせて169人に急増している。また2005年殺害された乗客・乗員は0人であったが、2006年1月-6月で6人が殺害されており、事件の凶悪化、人的被害の拡大化傾向にあるといえる。
(4)海賊情報伝達訓練実施への協力
2000年4月、アジア地域における海上保安機関内での連携・協力強化の指針として、情報交換、相互連携協力、技術協力および専門家会合の開催を内容とした「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択された。この指針に基づき、巡視船等のアジア各国への派遣による公海上の哨戒、寄港国における各国海上保安機関との連携訓練および意見交換、並びに哨戒中における日本関係船との海賊情報伝達訓練を実施している。この訓練は、公海上で実施され、当協会会員会社が運航する船舶が参加している。
訓練実績は次のとおりである。
2005年7月 :巡視船「やしま」とVLCC(共栄タンカー運航)
2005年8月 :巡視船「しきしま」とLNG船(日本郵船運航)