2・4 バラスト水排出規制
2004年2月に採択されたバラスト水管理条約は、さらに運用のための計14のガイドラインを策定することとなっており、現在、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)およぶばら積液体ガス小委員会(BLG)において作業が進められている。
また、同条約では、排出されるバラスト水中に含まれるプランクトンやバクテリアなどの生存数を制限する排出基準(D-2基準)が規定されており、当該基準を満足するためには、バラスト水処理装置が必要となる。しかしながら、同条約が採択された2004年には、同基準を満足する処理技術が確立されていなかったことから、同基準の最も早期の適用日である2009年1月1日(以下、適用日)から少なくとも3年前までに、バラスト水処理装置の開発状況を検証し、条約要件の見直しを行うこととされており、2006年10月のMEPC55より検討が開始された。
1.MEPC55(2006年10月9日〜13日)
(1) バラスト水管理条約の見直し
本会合には、日本、ドイツ、英国、韓国、ノルウェーから計15の処理装置に関する情報が提供され、各国からの報告によれば、すべての装置が適用日までの実用化は可能とされていた。しかしながら、処理装置を実用化するためには、基本承認(IMO)→型式承認(各国主官庁)→最終承認(IMO)の承認手続きが必要となり、基本承認から最終承認までの最短のスケジュールは下表のとおりとなる。
基本承認(IMO) |
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型式承認(主官庁) |
2006年11月 |
2007年6月 |
2008年4月 |
最終承認(IMO) |
2007年7月(MEPC56) |
2008年3月(MEPC57) |
2008年10月(MEPC58) |
これによれば、適用日までに処理装置を実用化し、船舶への搭載を可能にするためには、遅くとも今次会合までに基本承認を受ける必要があるが、これまでに基本承認を受けている装置は4つのみであり、さらに、今後の承認手続きに遅延が生じる可能性がある。
また、D−2基準適用船舶は既に契約済みの場合があり、これらの船舶に装置を搭載する場合、設計を変更する必要が発生するほか、完工日の遅延などが予想される。
そのため、審議では、適用日の改正やD-2基準適用の一定期間の留保を求める意見が多くの国からあった一方、処理装置開発国は、適用日までの処理装置の実用化は可能と主張し、意見が分かれた。審議の結果、双方の意見を取り入れ「適用日までの処理装置の実用化は恐らく可能」との前提で、適用日の延期およびD-2基準の一定期間の留保について、IMO法務部の見解を求めた上、今後検討することとなった。
(2)バラスト水管理条約に関するガイドライン
2006年4月のBLG10において最終化された下記5つのガイドライン案が採択された。
・G1:沈殿物受入施設に関するガイドライン
・G5:バラスト水受入施設に関するガイドライン
・G11:バラスト水交換のための設計及び建造基準に関するガイドライン
・G12:船上での沈殿物制御施設の設計及び建造に関するガイドライン
・G14:バラスト水交換水域指定に関するガイドライン
2.BLG11(2007年4月16日〜20日)
(1)D-2基準の適用日の取り扱い
MEPC55では、処理装置の2009年までの実用化は「恐らく可能」とされ、排出基準の適用日の延期等について今後検討を行うことが合意された。しかしながら、適用日の延期は条約改正の必要があるが、バラスト水管理条約はいまだ未発効であり、未発効の条約改正の可否についてIMO法務部に見解を求めていた。
BLG11において、同法務部は、未発効の条約改正は法的手続き上不可能であり、適用日を延期する場合は、同条約の議定書を策定することが最善策であるとした。ただし、議定書の策定には条約の策定と同様に時間がかかることから、議定書に代わる解決策として次のオプションが提案された。
・ 排出基準の適用を一定期間留保することを条件にした条約批准を各国に推奨すること
・ バラスト水処理装置が実用化されるまで排出基準を無効とするIMO決議の採択
同法務部の見解に対しては、法的に最も効力のある議定書の策定を支持する国が多数あったものの、2009年もしくは条約発効までに採択することは非常に困難であることから、同法務部から提案されたオプションについて今後検討していくこととなった。
なお、同法務部は、適用日(2009年1月1日)以降に条約が発効した場合、2009年1月1日から条約の発効日までに建造された船舶は、現存船として扱われ、D-2基準はそのバラスト水容量に応じ、2015年もしくは2017年から適用される(不遡及適用)とする見解を示した。
これに対し、既に条約を批准しているノルウェーより、D-2基準は条約の発効日に拘らず、条約に明記されている期日より適用されるとの見解が示された。
審議では、それぞれの見解を支持する国に分かれ、議論が平行線を辿ったため、MEPC56において改めて審議を行うこととされた。
(2)バラスト水管理条約に関するガイドライン
バラスト水管理規制条約で要求される14のガイドラインのうち、これまで11のガイドラインが採択されている。今次会合では、残り3つのガイドラインについて審議が行われた。
・バラスト水サンプリングに関するガイドライン(G2)
・未処理バラスト水排出時のリスク評価に関するガイドライン(G7)
・緊急事態を含む追加方策に関するガイドライン(G13)
審議の結果、G7およびG13が最終化され、MEPC56において採択される見込みとなった。なお、G2については、検討時間がなく、2008年2月のBLG12において引き続き審議されることとなった。
3.MEPC56(2007年7月9日〜13日)
(1)D-2基準の適用日の取り扱い
バラスト水処置装置の開発/承認状況の検証および適用日の取り扱いに関する検討が行われた。
処理装置の開発/承認状況については、今次会合までに最終承認を受けた処理装置は存在しないが、ノルウェーおよび韓国が2008年中に最終承認を取得すべく準備を進めているとの報告があり、適用日までには限られた数の処理装置が実用化される見通しであることが確認された。
また、適用日の取り扱いについては、「もし対象船舶の一部でも適用日までに処理装置を搭載することが出来ないようであれば、適切な検証(review)を行うことを条件に、一定期間、D-2基準を要求しない」とすることが合意された。
ただし、D-2基準を要求しない期間については、1年間(2010年まで)と2年間(2011年まで)とする意見に分かれ、引き続き検討を行っていくこととなった。
(2)バラスト水管理条約の不遡及適用
BLG11におけるIMO法務部見解「バラスト水管理条約の不遡及適用」について審議が行われた。スペイン、ロシア等の数カ国を除く大多数の国が同条約の要件は遡及適用されるとの見解を表明したことから、IMO法務部の見解は却下され、条約の発効日に係わらず、排出基準は遡及適用されることとなった。
(3)バラスト水管理条約に関するガイドライン
BLG11で最終化された「未処理バラスト水排出のリスク評価に関するガイドライン(G7)」および「緊急事態を含む追加方策に関するガイドライン(G13)」が、原案どおり採択された。また、「バラスト水サンプリングに関するガイドライン(G2)」に関しては、BLG12で最終化し、次回MEPC57で採択することが確認された。
4.BLG12(2008年2月4日〜8日)
(1)適用日に関する総会決議
2009年建造のバラスト水容量5,000m3未満の新造船(2009年建造船)に対する排出基準の適用日に関して、2007年12月のIMO第25回総会において、当該船舶への処理装置搭載の義務付けを一定期間留保することを条件にバラスト水管理条約を批准することを各国に推奨する旨の決議が採択された。
<総会決議>
条約未批准の各国に対し、次のことを条件にバラスト水管理条約に批准することを推奨する。
・
2009年建造船は、2011年12月31日を超えない2回目の年次検査までは排出基準に適合することを要求されない
・
2010年の建造船に対する適用日についてはMEPC58までに検討すること
しかしながら、同決議によれば、2009年建造船は、竣工から1〜2年後には処理装置の搭載が必要となり、場合によっては船舶の大幅な改造画必要となることが懸念される。そのため、わが国は2009年および2010年の建造船を現存船と同様の扱い(バラスト水容量に応じ、2015年または2017年から適用)とするよう提案を行った。
同提案に対しては、多数の国から理解を得られたものの、総会決議の見直しを行うことは時期尚早であるとの意見があり、また2010年建造船についてはMEPC58において検討することとなっていることから、今次会合では検討を行わず、MEPC58において改めて検討を行うこととなった。
(2)既存船に対するバラスト水処理装置搭載要件の適用に関する問題
条約の履行を確実なものとするためには、バラスト水処理装置の安定供給が必要不可欠となる。特に現存船については、短期間に搭載時期が集中することが予想されることから、処理装置の供給体制について、事前に情報を収集し、適用時期について予め検証しておくこと必要がある。そのため、わが国は、主管庁が処理装置の型式承認を行う際に入手する情報をIMOへ報告し、その情報に基づき、現存船に対する適用時期について検討を行うことを提案した。
同提案に対しては、条約発効を遅らせる可能性があるとの意見があったものの、多数の国より支持が表明された。しかしながら、審議未了のため、2009年4月の次回BLG13において引き続き検討を行うこととなった。
(3)バラスト水管理条約に関するガイドライン
バラスト水管理条約における「バラスト水サンプリングに関するガイドライン(G2)」案が最終化され、MEPC58において採択される予定となった。ただし、サンプリングについては、国際的に統一された手法が存在しないことから、同案では詳細な手法は規定されていない。これに対し、統一的手法によるPSCの実施のためには、詳細な規定が必要であると強く主張する国々があり、MEPC58では、その内容について改めて検討が行われる可能性がある。