6・6 貨物の積付けおよび安全輸送

6・6・1 危険物の運送

 個品危険物の海上輸送については、国際危険物規程(IMDGコード)に詳細な要件が規定されており、定期的にIMO危険物・固体貨物・コンテナ小委員会(DSC)においてその見直しが行われている。

 20079月のDSC12では概要以下のとおり審議が行われた。

(1) 少量危険物の取り扱いについて

危険物の運送については、国連において国際的な統一規定(国連勧告)が定められているが、少量である危険物については、輸送モードにより、それぞれ特別規定があり、その取扱い方法が異なっている。

そのため、国連勧告に関する審議を行っている国連の危険物輸送専門家委員会(UNSCETDG)では、輸送モード間における危険物運送の調和を図るため、少量危険物に関する規定の見直しを2002年より行ってきた。

200512月のUNSCETDG30において、航空輸送で運用されてきた少量危険物に関する規則「適用除外危険物(Excepted Quantities)規定」を国連勧告に取り入れることが合意され、20067月のUNSCETDG30において、国連勧告の改正が採択された。

同改正に伴い、DSC12では、適用除外危険物規定のIMDGコードへの取り入れについて検討が行われた。

当該規定は、航空輸送における運送要件であったため、現行の海上運送要件と照らし合わせると次の様な問題点が考えられた。

@   規定では、運送書類(危険物明細書)を準備することを要求していないが、海上運送においてはSOLAS条約第VII/4規則およびMARPOL条約附属書III4規則により、運送される量に係わらず運送書類が要求されている。

A   海上運送ではSOLAS条約第II-2/19規則の要件は適用されないこととなっているが、  適用除外危険物は、同規則への適合が要求されている。

B   MARPOL条約附属書III3規則では、海洋汚染物質について、CTUCargo Transport

 Unit)に当該物質標識を表示することとなっているが、適用除外危険物規定では同標識の表示が求められていない。

 

 上記問題点について、各国から様々な意見が出されたが、審議の結果、次のとおりとすることが合意された。

@ 輸送書類

運送書類の作成は危険物を安全に輸送するために非常に重要であり、如何なる量の危険物についても当該書類は必要であることから、適用除外危険物についても運送書類を必要とする

A 危険物運送船要件の適用

少量危険物に対しては、防火に関する要件(SOLAS条約第II-2/19規則)の適用免除が規定されていることから、少量危険物よりも少量である適用除外危険物についても同様に当該要件の適用を免除すること

B コンテナへの海洋汚染物質標識の表示

航空輸送から海上運送に切り替えられる適用除外危険物に海洋汚染物質標識の表示を求めることは、物流業界の混乱を生じる可能性があることから、CTUへの当該標識の表示は免除すること

 

※国連勧告:国際的な危険物の輸送における安全性を確保するために国際連合に設置された国際連合危険物輸送専門家委員会により2年毎に発行されている勧告。IMOによって発効される国際海上輸送に関する国際規則(IMDGコード)や国際航空輸送に関する国際的規則(IATA規則)はこれに準じている。

 

(2)危険物運送に係わる陸上作業者への教育訓練要件の強制化

危険物運送に係わる陸上作業者における危険物規則の認識不足に起因する事故や規則違反が数多く報告されていることから、危険物運送に係わる全ての陸上作業者に対して教育訓練を強制化する必要があるとの提案があり検討が行われた。

同提案については、陸上作業者への教育訓練の強制化を危険物の海上運送に関する規則であるIMDGコードにおいて規定することは問題があるとの指摘があったものの、大多数の国が強制化の必要性を認め、陸上作業員に対する教育訓練の強制要件をIMDGコードに盛り込むことが合意された。

なお、同強制要件については、201011日に発効するIMDGコード第34回改正に取り入れられることとなる。

 

662 固体ばら積み貨物の運送

20045月のMSC78において、固体ばら積み貨物に関する安全実施規則(BCコード)を強制化することが合意され、現在、強制化に向けた同コードの全面的な見直しが行われている。

20079月のDSC12においては、概要以下のとおり審議が行われた。

(1)未査定固体ばら積み貨物の運送

BCコードは2011年より強制化される予定となっているが、強制化以降は、原則、同コードに記載されている物質のみ、ばら積み運送が出来ることとなっており、未記載物質については、次のとおり運送許可が必要となっている。

Ø       化学的危険性を有する物質:荷出し国、荷受国および旗国の3カ国による運送許可に関する合意(3カ国合意)が必要

Ø       化学的危険性を有しない物質:荷出し国の運送許可が必要

しかしながら、未記載物質については、海上運送における危険性等の評価が行われていない。そのため、船舶の安全を確保するため、化学的危険性の有無に拘らず、全ての未記載物質について、3カ国合意が必要であるとの意見があり、その取り扱いについて検討が行われ、次のとおりとすることが合意された。

Ø       液状化物質および化学的危険性を有する物質の運送:3カ国合意

Ø      それ以外の物質:積荷港当局の査定。ただし、査定結果を揚荷港当局、船

          籍国に報告

なお、いずれの未記載物質についても、BCコードへの新規追加のため査定から1年以内にIMOに報告を行うことが必要とされた。

(2)還元鉄の運送要件の見直し

還元鉄(Direct Reduce IronDRI)運送中における爆発事故が多発していることから、その運送要件の見直しが20049月のDSC9より行われている。

DSC12においては、爆発事故の原因となる引火性ガスの発生しやすい「冷間成型された還元鉄(DRI(B))」および「微紛状の還元鉄(DRI FINES)」の運送要件について検討が行われ、特に当該物質積載中の貨物艙内の不活性ガスによる置換(イナーティング)の是非に焦点が当てられた。

審議において、英国、フランス、マーシャル諸島等は、貨物艙内を爆発性雰囲気にしないため、イナーティングが必要であると主張。これに対し、DRI産出国であるベネズエラが独自の物性評価試験結果からDRIはイナートガスと反応し、引火性ガスの発生が促進されるためイナーティングは不要であると主張し、議論は平行線を辿った。

その結果、今次会合では、合意が見られず、次回DSC13において引き続き検討することとなり、また、ベネズエラはイナーティングを不要とする根拠をDSC13に報告することとなった。

(3)今後の検討スケジュール

当初の予定では、今次会合において、BCコードを最終化することとなっていたが、全ての審議が終了しなかったことから、今後のスケジュールについて以下のとおりとすることが合意された。

 

BCコード採択前に、以下の4項目に関する改正が行われることを前提として、同コード改正案に原則合意し、承認のためMSC 84に送付する。

同改正については、次回DSC13において検討を行い、同コード採択予定の200812月のMSC85に改正案を提出。

            DRIの運送要件

            非危険物である硫黄の運送要件

            重力式セルフアンローダー船に関する要件

            石炭及び褐炭ブリケット(Brown Coal Briquettes)の運送要件

 

なお、改正BCコードについては、200911日から各国の判断に基づく任意適用が開始され、強制適用については201111日とすることが確認された。

また、同コードの名称を「国際固体ばら積み貨物規則(International Maritime Solid Bulk CargoesIMSBCCode)とすることが合意された。

 

6・6・3 ケミカル/プロダクトタンカーの爆発防止対策

20,000重量トン(DWT)未満の小型タンカーにおいて、近年、爆発事故が多発していることから、その爆発防止対策について、IMOで検討が行われている。

20072月のIMO51回防火小委員会(FP51)では、今後の検討の進め方について審議が行われ、次のとおりとすることが合意された。

l    イナートガスシステム(IGS)の有効性およびケミカルタンカー運航の複雑さを考慮し、「低引火性物質を運送する油およびケミカルタンカーの爆発を防止するための措置」について、2009年を目処に検討を行うこと

l    上記検討は、まず新造タンカーについて行い、同検討の結果、要すれば、現存船について、適切な措置を検討すること

20081月のFP52では、わが国およびノルウェーから文書が提出されており、これらをもとに概要以下のとおり審議が行われた。

(1)審議概要

FP52には、わが国よりIGS設置と爆発防止効果に関する費用対効果の分析結果が報告され、またノルウェーより、船型、タンクサイズ等に関係なく、貨物の特性に応じた要件を設定する「Property Based Approach」に関する提案文書が提出されていた。

わが国の分析結果によれば、小型タンカーの爆発事故は、機関室など貨物タンク以外での爆発も相当数あり、必ずしもIGSが有効とは限らないこととなっている。また、IGS置には多額の費用が必要となることから、費用対効果の観点から、IGSの設置は「正当化されない」との分析結果となっており、オランダ、International Parcel Tanker AssociationIPTA)がこれを支持し、IGSの設置は不要であるとの意見を述べた。

これに対し、ノルウェー文書では、IGS設置の必要性が主張されており、Property Based Approachに従って、SOLAS条約および危険化学品のばら積運送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則(IBCコード)を見直すことが提案されていた。同提案に対しては、スウェーデン、デンマーク、石油会社国際海事評議会(OCIMF)、国際石油国際タンカー組合(INTERTANKO)等がこれを支持した。

一方、ギリシャ、ICSより、爆発事故は適切なオペレーションの不履行が主原因であり、荷役手順に係る人的要因の問題点を抽出するため事故データの収集が必要であるとの意見があったほか、検討に当たっては更なる事故データの収集が必要であるとの意見が多数の国よりあった。

(2)審議結果

人的要員を含め、爆発防止対策の検討に当たっては、十分な爆発事故データの分析の必要性が確認され、各国に対し、データの提供が要請された。また、次回会合では、作業部会を設置し、当該データに基づき、具体的な爆発防止対策について検討を行うことが合意された。