7・2 船員関係法規
7・2・1 STCW条約への対応
2007年1月、ロンドンにおいてIMO第38回訓練当直基準小委員会(STW38)が開催され、STCW条約・コードの包括的見直し等以下要点を中心に審議が行なわれた。
1.
STCW条約・コードの包括的見直し
STW37(2006年1月)において、現行のSTCW条約が発効して約10年が経過していることから、条約の包括的見直しを行うべきとのIMO事務局長の提案を受け、IMO第81回海上安全委員会(MSC81:2006年5月)に承認を求めた結果、条約の包括的見直しの作業を二段階に分けて以下のとおり行うことで、本議題をSTW小委員会の作業プログラムに組み込むことが承認された。
・ 第一段階:見直すべき事項を特定する。
・ 第二段階:具体的な見直し事項について関連規定の改正の要否について検討する。
本会議において見直すべき事項を特定する際、「現行条約の構成と目的を維持し、その基準を引き下げない」等の原則に従い作業部会で審議した結果、見直しを検討する項目は全章にわたる広範囲なものとなった。そのため、本議題の作業完了の目標年次は、当初予定されていた2008年から2010年に延期されることとなった。
2.
海上保安を高めるための措置
船舶保安管理者(SSO)に対する訓練要件および証書発給要件に関するSTCW条約の改正案がMSC81で採択されたことを受け、STW38ではSSO以外の乗組員に対する訓練内容について審議した結果、“船員が、その職務に就く前に、SSOまたは同等の能力を有する者が当該船員に対する習熟訓練を実施する”ことで概ね合意された。本議題は今後、『STCW条約の包括的見直し』の議題の中で議論していくこととなった。
3.
有能海員の能力要件
2006年2月に採択されたILO海事労働条約(MLC 2006)を策定するにあたり、有能海員の能力等について定めているILO第74号条約(わが国は未批准)をIMO/STCW条約に移管することがILO/IMOにおいて決定された。これを受けてSTW36(2005年1月)以降、STW小委員会および英国をリーダーとするコレスポンデンス・グループ(CG:E-mailによる検討会)において有能海員の能力要件等について検討されてきた。
作業部会での審議の結果、必要とされる乗船履歴は、当直部員(STCW条約U/4またはV/4の要件を備えた者)としての乗船履歴とすることで合意された。
有能海員の要件(案)
名 称 |
甲板部 (able seafarer deck) |
機関部 (able seafarer engine) |
定 義 |
STCW条約U/5を満たす者 |
STCW条約V/5を満たす者 |
年 齢 |
18歳以上 |
18歳以上 |
当直部員 としての 乗船履歴 |
18ヶ月以上の乗船履歴または 12ヶ月の乗船履歴+承認された訓練 |
12ヶ月以上の乗船履歴または 6ヶ月の乗船履歴+承認された訓練 |
4.
船舶の安全配員原則の見直し
欧州諸国は海難事故が疲労および配員基準と密接に関連しているとの調査機関の報告に基づき、船舶の安全配員の原則である総会決議A.890(21)の見直しを提案している。
今次会合において、わが国を含む複数の代表団から、単純に疲労と海難事故を直結させるのではなく、様々な角度から包括的に見直すべきであるとした結果、各国の意見を踏まえ、今後コレスポンデンス・グループ(CG)において検討されることとなり、わが国政府はCGへの参加を表明した。
<総会決議 A.890(21)の概要>
・
各国主管庁が、最小配員を定める際には、STCW条約第8-2規則に従った当直要員を維持できる等の原則を維持すべきである。
・
各国主管庁は、当直、勤務/休息時間等について定めたIMO、ILOの条約等を適切に考慮すべきである。
・
最少配員の決定の際には、船舶の大きさ、船種、輸送される貨物、寄港回数、航海の長さや性質等の要素を考慮すべきである。
7.2.2 船員法等の改正
(1) 平成18年10月1日 海上運送法及び内航海運事業法の一部改正された。
公共交通機関においてヒューマンエラーが原因とされる事故やトラブルが数多く発生したことから、「公共機関に係るヒューマンエラー事故防止対策検討会」が設置され、その結果、運輸事業者の経営トップから現場までが一丸となり安全マネジメント態勢を構築し、その実施状況を国が確認するとの方向性が示された。
これを受け海事部門においても海上運送法及び内航海運事業法の一部が改正され、「安全管理規定」の作成及び届出、「安全統括管理者」及び「運航管理者」の選任及び届出が義務づけられた。
(2) 平成19年4月1日 船員に関する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則の一部改正
働く人が性別により差別されることなく、また働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮することができる雇用環境を整備するため、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(改正男女雇用機会均等法)」の改正に伴い、船員の分野における以下の法令が改正され、指針が定められた。
@ 「船員に関する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則」
A 「船員に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(「性差別指針」)
B 「船員に関し事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(「セクハラ指針」)
C 「妊娠中及び出産後の女子船員が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」
これにより性別による差別禁止の範囲拡大、妊娠出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクハラ対策拡大、母性健康管理措置、ポジティブアクション推進が図られることとなった。
7.2.3 ILO条約への対応
2006年2月のILO第94回総会において採択された「2006年海事労働条約」は、これまでに「リベリア」、「マーシャル諸島」及び「バハマ」の3カ国が批准した。わが国政府をはじめ、その他の各国政府においても批准に向けた作業が行われ、ILOでは各国に3者構成により代表団を派遣して、条約の批准を促進するための活動を行っている。
わが国では国土交通省により、同条約の批准に向けた国内法制化の方向性を検討するため、政労使の3者により構成される「ILO海事労働条約勉強会」を立ち上げ、当協会も同勉強会に委員として参画した。
同勉強会では国内法制化に向けた論点の方向性を整理した中間とりまとめが2007年2月27日の第6回の同勉強会においてなされ、条約の要件の相当部分は現行制度で担保されているとしつつ、条約の要件を踏まえて新たに整備すべき事項について具体的に整理がなされた。今後は個々の整理された論点についての具体的な施策について検討がなされる予定である。主な制度改正事項は以下の通り。
· 船員の最低年齢を15歳から16歳に引き上げ。
· 2分割まで可能、うち片方は6時間とする1日10時間の休息を全ての船員に要求。
· 船長及び航海当直をしない機関長等を原則として労働時間規制の適用対象した上で、船長について労使の合意により労働時間の包括適用除外が可能な手続を導入
· 給与明細書及び労働時間の記録の写しを船員に交付することを義務化
· 業務予定及び最長労働時間を記載した船内配置表の船内掲示を義務化 など
条約第3章の居住設備及び娯楽設備(規則3.1)に係る要件については現行法と比較して要件の厳しい要件や対象船舶の拡大や、総トン数増加、載貨重量トンの減少等の影響があり得ることから、別途多面的に検討を進めることとなった。
また、条約第5章の遵守及び執行に基づく、国内における旗国検査及びPSCの制度については、ILOにて検討されている旗国検査及びPSCガイドラインの内容を踏まえて検討する必要があるとして、引き続き状況に応じて検討が行われることとなった。