2・6 米国等におけるアジア型マイマイガ規制
(1) AGM検疫規制の概要
2007年6月1日より導入された、アジア型マイマイガ(Asian Gypsy Moth:AGM)規制は、わが国を出港し、米国またはカナダに入港する船舶のうち、次の@、Aの両方に当てはまる船舶については、入港前に、米国またはカナダ当局(米国はCustoms Border Protection(CBP)、カナダはCanadian Food Inspection Agency(CFIA))による沖合検査を受検することが求められる。
@ 米国またはカナダにおけるハイリスク期間(AGMの卵が孵化可能な時期:表−@参照)に入港する船舶
A 当年および前年において、わが国のハイリスク港にハイリスク期間(AGM成虫の活動時期:表−A参照)中に入港した実績のある船舶
ただし、わが国の検査機関(表−B参照)によるAGM不在証明書をあらかじめ取得している船舶については、沖合検査を受けずに入港することが認められ、着岸後に検査が実施される。
なお、AGM不在証明書は、本邦最終港出港前に取得すればよく、必ずしもハイリスク港において取得する必要はない。ただし、同証明書取得後にハイリスク期間中のハイリスク港に入港した場合は、再度証明を取得しなければ沖合検査の対象となる。また、前年度のハイリスク期間中にハイリスク港に寄港した場合も同様の対応が求められる。
表−@ 米国、カナダにおけるハイリスク期間
<米国> |
地域 |
ハイリスク期間 |
五大湖、 プエルトリコ、 西海岸 |
カリフォルニア州 |
周年 |
五大湖 |
3月1日〜9月30日 |
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オレゴン州 |
3月1日〜9月30日 |
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ワシントン州 |
3月1日〜9月30日 |
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アラスカ州 |
4月1日〜8月31日 |
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ハワイおよびプエルトリコ |
なし |
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大西洋沿岸 |
バージニア州ノーフォーク以北 |
3月1日〜10月31日 |
バージニア州ノーフォークの南〜 フロリダ州ジャクソンビルまで |
3月1日〜11月30日 |
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フロリダ州ジャクソンビル以南 |
周年 |
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メキシコ湾沿岸 |
アラバマ州、フロリダ州、ルイジアナ州、 ミシシッピ州、テキサス州 |
周年 |
<カナダ> |
地域 |
ハイリスク期間 |
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カナダ全土 |
3月1日〜10月15日 |
表−A わが国のハイリスク港およびハイリスク期間
大分 広島 阪南 |
6月1日〜8月15日 |
酒田 |
7月1日〜9月15日 |
八戸 函館 |
7月15日〜10月1日 |
表−B AGM不在証明を発給する検査機関
日本海事検定協会 |
新日本検定協会 |
全日本検数協会 |
日本貨物検数協会 |
日本輸出自動車検査センター |
日本穀物検定協会 |
(2) 北米植物防疫機構(NAPPO)地域基準案
国際植物防疫条約(IPPC)に基づき、北米地域においては米国、カナダおよびメキシコの3ヶ国をメンバーとするNAPPO(North American Plant Protection Organization:北米植物検疫機構)が設置されており、検疫に関する基準の策定など植物検疫上の地域的な協力活動等が行われている。
2008年6月、NAPPOのホームページ上で、AGMに関する植物検疫上のリスク管理に関する地域基準案が公表された。同基準案は、北米地域へのAGMの侵入・定着を最小化するためのリスク管理のガイドラインであり、日本や韓国、中国、ロシア等のAGM発生地域に寄港した船舶に対して、AGM不在証明書の保持を要求し、ない場合には入港を拒否するというもの。
なお、同基準案が採択されると、NAPPO加盟国において自国の植物検疫制度に反映されることで具体化される。
現行AGM規制とNAPPO地域規制案との比較
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現行AGM規制 |
NAPPO地域基準 |
規制国・港湾 |
日本・ロシアの一部の港湾 |
日本・ロシア・中国・韓国・モンゴルの全ての港 |
検査対象 |
船舶 |
船舶・貨物 |
証明書がない場合 |
沖合い検査 |
入港拒否 |
証明書がある場合 |
着岸後検査 |
着岸後検査 |
証明書がありAGM発見の場合 |
沖出しされ、清掃 清掃後、再検査 (少数の場合は現場での撤去のみ) |
NAPPO地域外の海域への退去 清掃後、再検査 AGM発見が続けば当該地域(日本)からの全ての船舶の入港拒否 |
<わが国の対応>
2008年12月、わが国よりNAPPO地域規制案に対して下記のコメントを提出した。
@ 従来のとおりトラップ検査(性フェロモントラップにより雄のAGMを誘引・捕獲)を実施し、規制対象港を特定すること
A 規制対象から積載貨物を除いて船舶のみとし、現実的な検査を実施可能とすること
B 日本、米国、カナダとの間で合意済みの現行リスク管理措置は有効に機能していることから、従来どおり両国政府が認めた検査機関によって発効される不在証明等制度を継続すること
C システムアプローチが適用され、AGMの発生が抑制された港から出航する船舶は規制対象から除外し、植物検査証明書又は、NAPPO加盟国から承認された証明書等の提出要求を免除すること
D 船舶が証明書を保持していない場合、沖合いでの検査を実施し、AGMを除去することによってNAPPO地域の入港を認めること
NAPPOはコメントの内容を受け止め、当初10月に採択を見込んでいた同基準案の改訂を行い、第二次案として公表したが、内容に大きな変更はなかった。NAPPOは再度関係各国にコメントを求め、2009年8月のNAPPO執行委員会での採択を見込んでいる。