5.港湾関係

 

5・1 水先問題

 

511 上限認可・届出制料金と水先人指名制の導入

平成1941日に施行された改正水先法により、水先料金は1年間の暫定期間を経て、平成2041日より上限認可届出制へと移行し、合わせて水先人指名制が導入された。当協会としてはユーザーの立場から、仮に市場原理が働かず、結果として料金水準が、国土交通省が公示した上限認可額に係る自動認可額に張り付くとすれば、水先制度改革の意図するものとはかけ離れたものになってしまうとの認識から、運用状況を確認しつつ、競争環境の整備に向けて活動を行った。

1)水先人指名制の導入後の運用状況調査

新料金制度のスタートにあたり、3か月を目途に指名制等の運用状況の調査を行ったところ、各社からの個別協議申入れに対する水先人側の反応はそのほとんどが否定的なものであり、料金に関しての成約例は見られなかった。その要因として、@水先人会の指名受付条件(引受事務要領は、水先指名に関する長期契約を想定していない。)、A指名の優先順位(個別契約を所持する船社が必ずしも優先されない)、などの問題が指摘された。

その後、事前指名契約の成約例があり、さらに料金の多様化につながることが期待されたが、新たな料金の届出には至っていない。

2)規制改革会議における検討への対応

規制改革会議事務局は、新たな水先料金制度の下で競争原理が働きにくい現状についての打開策を、同会議からの要請に基づく当協会の問題指摘などを踏まえつつ、年末答申に向けての問題提起として平成2072日に「中間取りまとめ」(資料5-1-1-1参照)を公表した。その後関連のヒアリングが8月1日(国土交通省海事局)、829日(当協会および日本水先人会連合会)に行われ、当協会は、指名制導入にあたって改定された水先人会の引受事務要領について問題点を説明の上、次の2点が競争環境をもたらすうえで必要であると指摘した。

・指名されている船については水先人が輪番に優先してあたる必要がある。引受事務要領の中に、指名が明らかな場合は、その引受を優先することを明記すべきである。

・上限認可届出制料金に関し、水先法の規定する不当な差別的取扱いの「不当」が何かが明らかになっていない。指名船の料金が、他と異なるものであっても不当ではないと考えるので、これを明確にすべきである。

これらの問題提起については、規制改革会議の委員に一定の理解が得られ、指名契約から発展した料金設定を想定した取扱いの検討を当局にも要請した。

同会議は、さらに水先人養成問題に関する関係者からの非公式ヒアリング、国土交通省からの再度のヒアリングなどを行い、1222日に同会議の「第三次答申」(資料5-1-1-2参照)を公表した。これには、@指名制と応召義務の関係についての整理、及び引受ルールの策定、A三級水先人養成コースの拡充の2点について平成21年中に検討、結論を出す旨が盛り込まれた。また、同答申を受けて平成21331日に閣議決定された規制改革推進のための3か年計画(再改定)でも、これら項目が重点計画事項に挙げられた。

 

3)交通政策審議会海事分科会船員部会水先小委員会への対応

平成21119日に開催された交通政策審議会海事分科会船員部会において、下部機構として「水先小委員会」の設置(資料5-1-1-3参照)が決定された。同小委員会の設置の趣旨は、規制改革会議の第三次答申に盛り込まれた2点の検討のほか、新制度の定着に向けてさらなる努力を必要とする問題、三級水先人の将来的な教育の在り方、新制度下における水先の将来像といったテーマを水先関係者や第三者を含めた幅広い視点から議論する場が必要であるためとされ、当協会港湾関連業務専門委員会の原田副委員長と萬治副委員長が臨時委員に就任し、検討に参加することとした。(委員名簿は資料5-1-1-4参照)

平成21226日に開催された第1回水先小委員会では、国土交通省から現状説明とともに水先を巡る問題として以下の課題が挙げられた。

◎ 新制度の定着に向けての課題

@ 水先料金が上限認可額へ張り付いた状態

A 事前指名契約を締結した事例がわずかである状態

に対する適切な市場環境の整備

 

◎ 新制度下における水先の将来像に関する課題

@ 水先人の需給の将来推計(要確保数、要養成数等)

A 多様な人材供給源の確保

B 免許取得後の三級水先人の教育の在り方

C 三級水先人試験の実施

 

◎ 規制改革会議答申への対応に関する課題

@ 指名制と応召義務の関係について整理及び引受ルールの策定

A 三級水先人養成コースの拡充

 

当協会からは、新制度下における船社の活動例とこれに対する水先人からの反応などを具体的に説明するとともに、水先人会において現在運用されている当直、輪番制に焦点を当て、新制度に対応した見直しが行われたかを質し、水先人代表の委員からその体制についての説明を求めた。当協会としては、制度上の料金規制の緩和を実効あるものとするには、指名制が実質的に機能する体制とすることが不可欠であるとの考えの下、水先人側に必要な改善を求めていくこととしている。

 

512 水先人養成制度

平成19年4月の改正水先法施行後、水先人の養成は、登録養成施設(3校)における養成課程の受講が義務付けられ、既にスタートしている一級水先人養成課程に加え、平成2010月に三級水先人養成課程がスタートした。

1)水先人の養成計画

海技振興センターの水先人養成支援対象者の募集については、平成21年度一級水先人38名、平成22年度三級水先人25名とすることが決定された。

一級の募集員数は各水先区における入会希望数(34名=廃業予定者と業務補充)を基本としているが、平成19年度に期間中の病気、その他で養成ができない例(55名中5名)があったため、これらを踏まえての員数となっている。二級水先人については一級の養成が不足する場合に検討することとされ、今回についても募集は見送られた。また、三級水先人については当初5年程度を25名の定数養成としており、これを継続することとされた。

当協会は選考時期に関する社会人応募者へ配慮の必要性、登録養成施設による確実な養成教育の実施について、海技振興センターの水先人養成支援事業検討委員会等を通じ意見反映に努めた。

なお、平成20年度は、新規一級水先人養成支援対象48名のうち、試験における合格者は40名であった。(8名の不合格者に対しては追加試験が予定されている。)

 

2)三級水先人養成課程における商船等乗船訓練への協力

三級水先人の養成がスタートするにあたり、国土交通省海事局ならびに養成施設3校より、同養成課程における商船等乗船訓練(4ヶ月、そのうち国際航海を2ヶ月以上必須)への協力依頼があった。当協会は各社が訓練生の受入にあたって共通する問題点、各種条件について検討を行い、その基本的な運用を海技振興センターとの間で確認した。これをベースに平成2012月〜平成213月の間に会員会社の協力により外航船3隻において海技大学校の修業生6名(各船2名)の訓練が実施された。

以上