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オピニオン

2005年2月

外航海運の新しい段階-“Cyclical Growth Industry”

日本船主協会 常任理事
三光汽船株式会社 代表取締役社長
松井 毅

昨年多くの台風が日本に接近し、うち例年の平均2.6個をはるかに超える10個が上陸し、多くの風水害をもたらした。これらの台風は家屋や農産物などに甚大な損害を与えただけでなく、10月に上陸した23号までの3つの台風が、練習船海王丸を含め多くの船舶を襲い、少なくとも20件の海難事故を発生させた。当社運航船も9個の台風に14隻が遭遇した。従前は台風など荒天の場合には状況を分析し、本船に対し情報提供と注意喚起を行い最終の判断を本船船長に委ねることが多かった。しかし、台風による海難の多発を見るにつけ、台風情報の提供だけに止まらず、積極的に避航・避泊の指示を行ったことにより沖出し・避航などによる遅延はあったが、幸い大事故の危険を回避することができたと思っている。
 一方、このことは練習船海王丸の事故後、航海訓練所による「事故再発防止に向けた対応」の一つに「陸上からの支援体制を強化する」と述べられているのを見るとき、想定を越える危険に遭遇する場合のリスク管理の貴重な教訓であると言えよう。特に、最近我々の運航する船舶の実態から日本近海における台風接近時について言えば、避航・避泊などの安全対策につき、具体的・積極的に「陸上からの指示」が必要である。確かに、船舶運航の責任者が船長であるという船員法などの定めがあるという事実は否定できず、昔はよく「それは本船船長の判断に委ねるべきだ」との言葉を耳にしたものである。しかし、その言葉の「判断」の幅は、最近相当に狭く考えざるを得ない状況である。
 船舶の安全運航達成が、その船舶所有者に利益をもたらす必要不可欠な条件であるばかりでなく、地域の安全や地球環境の保全という社会的・全地球的要求に拡大されているからである。加えて、現在の船舶に配乗されている船長全てに「人格・識見共に優れ他の模範となる」ような過去の船長像=グレート・キャプテン=を期待することの非現実性は、業界共通の認識であろう。特に、日本人船長配乗の外航船が僅少となった昨今、在港船も含め日本近海を航行する外航船船長の殆どが、日本近海の気象・海象に精通しているとは思えない外国人船長である。これらの船長が台風に遭遇し、荷役時間や入出港時間に合わせるために無理をしたり、また停泊中にあっては、沖出し費用や時間のセーブを考えてそのまま居座ることも考えられる。従って、それらに対するより具体的かつ積極的な危険回避策の指示は当然であろう。
 ことが台風避難に限らず、本船の危険回避にあたっては、「船長判断」の範囲をより限定的に考え、現実的な対応が求められているご時世となったことを痛感させられた2004年「台風の年」であった。

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