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2005年3月

外航海運の新しい段階-“Cyclical Growth Industry”

日本船主協会 常任理事
株式会社商船三井 代表取締役社長
芦田 昭充

外航海運業は市況変動が大きいために業績の振れが激しいCyclical Industryと認識され、事実、長年にわたりそのとおり推移してきた。そのため好業績を上げている昨今、記者やアナリストから、ピークアウトはいつか、次の下降局面では大幅に損益が悪化するのではないか、といった質問を受けることがある。これに対して私は「今後もマーケットの動きにより一時的な影響を受けることはあろうが、外航海運は長期的には持続的成長が可能な産業、即ち、Cyclical Growth Industryに転換した」と答えている。
 中国による資源・エネルギーの旺盛な需要、世界の工場として製品の大量輸出による海上荷動き増加は、新たな発展段階に入った構造的転換によるものと理解している。大きく後戻りするとは考えにくく、10年単位での成長が期待できよう。しかし、需給関係の逼迫という外部環境による部分もさることながら、忘れてならないのは日本海運が業界全体で切磋琢磨して競争力の強化を成し遂げてきたことである。
 1985年のプラザ合意に端を発する急激な円高ドル安へのさまざまな対応に始まり、1990年代以降も手綱を緩めることなく顧客ニーズを先取りしながら、あらゆる局面でコスト削減を果敢にかつ地道に続けてきた。こうした日本の外航海運の筋肉質への転換こそがこの好業績の大きな要因と思う。将来、もし中国経済が一時的な調整局面に入ったとしても、絶えずコスト競争力で世界レベルの優位性を保ちながら顧客満足のため不断の努力を続ければ、業績サイクルの山・谷の形、ピークの高さまでを変えることも可能ではないだろうか。
 外航海運業の好業績は日本企業に限られたことではなく、我々の競争相手である海外の船社の多くも好業績を謳歌している。特にトン数標準税制が導入されている国の船社は、我々を上回る利益を上げているにも拘らず法人税は我々の何十分の一というケースも見られ、このまま好業績が続けば、内部留保の差が拡大していくことは火を見るより明らかである。税金を払わずに手元に残ったキャッシュフローを新たな船舶投資に回すことができる外国船社と競争力で劣位に立たされる懸念が拭い切れない。トン数標準税制が既に導入されているEU諸国の他、韓国や米国でも導入が決定した。導入の背景にあるそれぞれの国の社会経済や政策などが日本とは違う場合もあることはわかるが、一刻も早い導入がわが国でも実現することを切望する。

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