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オピニオン

2005年5月

クオリティシッピングに向けて

日本船主協会 副会長
新和海運株式会社 取締役相談役
鷲見 嘉一

当協会は、従来の「工務委員会」と「安全環境委員会」を「海上安全・環境委員会」に統合した。統合は組織の合理化の観点からも当然のことではあるが、より積極的な意味合いは、安全、環境面で優れた海運、すなわちクオリティシッピング確立に向けて、引き続き世界の海運界をリードしていく上で必須のソフト・ハード両面の海上技術問題に一元的に取り組む形を作ることにある。
 海上輸送活動を遂行していく上で、海上汚染に直結する海難事故の防止、大気汚染やバラスト水管理への配慮等運航面での質的向上、マ・シ海峡等の航路改善、設計・構造およびメンテナンス等における船舶の安全基準のレベル検討、更にはテロ・海賊対策、船舶解撤のバーゼル条約への対応等々、今や企業存続の前提条件であると認識すべき「安全」と「環境」に係るすべての技術的課題に取り組み、外部の関係者へ発信していく役割を一元的に扱う委員会が誕生する訳である。
 従来から「安全」と「環境」をないがしろにした企業活動はあり得なかったのだが、その要求水準は今後ますます厳しくなっていくのは当然の傾向であり、企業側もコスト合理性とのバランスを「安全・環境」側へ一歩も二歩も片寄せする必要性を認識しているところである。こうした厳しい認識は当然のことであるが、現実には問題点もあり、二・三例示すると、

地域規制が先行する傾向にあること。言うまでもなく海上輸送活動は世界の海が共通の舞台であり、地域毎に水準の異なった規制が存在するようになれば活動は大きく制約され、全体から見ればむしろ非効率になりかねない。
船舶に係る設計、構造、メンテナンスの基準について。これらの基準を司っている各国の船級協会、その国際団体である国際船級協会(IACS)の最近の活動が、個人的見解になるが、安全基準の評価に際しての技術的アクセスがややもすれば世間の動きに阿る政治的判断に堕する傾向がある。また欧米の船級協会が先行してデファクトスタンダードがどんどん出来ていくことも問題ではないか。
各国議会等でもソフト・ハード両面における基準、規制の制定に当たり、専門的、技術的検討を抜きにして情緒的に事が進められる傾向にあること。

私たちはクオリティシッピング確立に向けて努力を重ねていくが、そのためには旧来風にいわゆる業界エゴに固執するのではなく、私どもの主張の正当性を皆さんに納得して頂くためにはどう専門的立場から説明責任を果していくかが問われることになる。 新委員会に大いに期待している。

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