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2006年5月

新時代の内航海運活性化に向けて

日本船主協会 常任理事
栗林商船株式会社 代表取締役社長
くりばやし

内航海運の活性化が叫ばれて久しい。規制緩和により船腹調整制度がなくなった時期と、日本経済が低迷しさらにその後の荷主業界の再編の時期が重なり、内航は定期、不定期、タンカーを問わずすべての分野において輸送量の激減と運賃の低落に見舞われた。
 その内航海運業界がこの難局を乗り切るため、唯一のよりどころとして当局の指導の下に始めたのが暫定措置事業である。この事業の目的は規制緩和の突然の終了に対する激変緩和措置であり、同時に余剰船腹の買上げを行ってマーケットの回復を待つという、当時として採りうる最善の方策であったと思われる。しかし世の中とは時として想像を超えた動きをするのは良くあることで、残念ながらこの暫定措置事業もその想像を超えた動きに翻弄され、姿を大きく変えざるを得なくなった。そして七年近い歳月が流れた。日本経済はようやく回復の兆しを見せ、大手荷主を中心に業績は急回復している。もちろん原油高という新しい問題は生じている。また格差社会ということも言われるようになってきた。しかしこれらはすべて時代が新しい局面に入った証拠であろう。
 日本海運界も、遠洋近海とマーケットは急騰を続け、造船所には注文が殺到し、永年夢見たことが現実となり、各社新時代への対応に追われている。内航もほんの僅かではあるがおこぼれに預かって、粗鋼生産の回復とともにマーケットは少しずつ引き締まってきている。それと時を同じく改正された船員法により、船員問題がさらに顕在化し始めている。このような状態で、今こそ本当に内航海運の活性化が必要な時期に来ている。
 それなのにまだ暫定措置事業である。この事業の不幸なところは基本が船腹調整制度の焼き直しであるため、現状維持、縮小均衡の方向に力が向かっている点にあり、国交省が「内航船舶の代替建造推進アクションプラン」を策定し、設備投資により業界を活性化させようという動きとは正反対の働きをする事である。
 さらに不幸なところは、このままこの事業を必死の思いで継続しても、誰も幸せにならないという点であろう。多くの見込み違いがこの事業の形を歪め、もらえない解撤交付金と不当に船舶コストを押し上げて業界の競争力を殺ぐ建造納付金という深刻な問題を生んでいる。誰のため、何のためだか分からない状況で、継続することが最大の目的になってしまっている事実を行政当局も含め多くの人がすでに感じている。このような迷路に似た状態に入り込み、早くも三年近くが過ぎようとしているのである。
 内航に残された時間はもうあまり無い。この暫定措置事業という大きな問題を解決し、船員、安全、環境といった新しい時代に対応した問題を解決するためのプラットフォーム作りが急がれている。日本の物流の四割以上を担う内航海運が活性化され、より良い物流サービスを日本国民に提供できるよう当協会を通じて働きかけてゆく所存である。

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