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オピニオン

2006年9月

環境問題への地道な取り組み

日本船主協会 副会長
川崎汽船株式会社 代表取締役社長
前川 弘幸

2006年夏、1994年に次ぐ記録的な残暑であった。7月まで比較的涼しかった東京都心も8月に入りヒートアイランド現象もあいまって酷暑に見舞われた。船舶は他の輸送モードに比しエネルギー効率が優れているといわれているが、地球温暖化防止はじめ、地球環境への負荷軽減は我々にとって引き続き社会的使命をもった重要な課題であり、ハード・ソフト両面で地道な取り組みが求められる。
 ハード面では、川崎汽船の場合、船舶で年間約4百万トンの燃料油を消費し、CO2約12百万トン、NOx(窒素酸化物)約0.3百万トン、SOx(硫黄酸化物)約0.2百万トンを排出している。燃料価格高騰の折から経済的側面も然ることながら30万トンクラスのVLCCの輸送量に換算して約14隻分に相当し、少なからぬ量の点で環境への影響についても重く受け止めている。これら有害物質の排出量減少は酸性雨・大気汚染の防止、地球温暖化の軽減につながることになる。最近は造船会社技術陣との共同作業を通じ電子制御エンジンを搭載した船舶が登場した。同エンジンはエコノミー・エミッションの2モードを備え、燃料噴射・排気弁開閉のタイミングを電子的にコントロールし、NOxの削減、燃費向上によるCO2削減を実現、特にエミッションモードの場合、NOxの発生量はエコノミーモードに比べて約1割削減することができる。また、海外では船舶停泊中に電力を陸上から供給することにより着岸・荷役中の本船発電機からの排気ガスを事実上ゼロ・エミッションとする取り組みも始まろうとしている。
 ソフト面では我々にとってもっとも基本的なことである安全運航の確保が、地球環境への負担軽減に寄与することは論を待たないことを指摘しておきたい。乗組員のうっかり、ちょっとした判断ミスが重大海難を引き起こし、環境に重大な影響を与える可能性がある。世界規模で海事技術者に対する教育方針の策定、教育研修プログラムやカリキュラムの拡充をはかり、安全運航を支える海事技術者を育成していくべきである。また、海外での植林プロジェクトに協賛といった社会貢献的な取り組みも必要である。
 環境問題への取り組みにはこのような施策をこつこつと地道に積み重ねていくことが肝要と考える。

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