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オピニオン

2006年10月

新しい海技者

日本船主協会 常任理事
三光汽船株式会社 代表取締役社長
松井 毅

日本人の海技者が足りない、S.I.(SUPER INTENDENT)が欲しい、などと海運業界全体が騒がしくなって随分久しい。それどころか、海運マーケットの上昇を背景にした未曾有の造船ブームは、将来に亘る極端な船員不足に拍車をかけ、その深刻さは日毎に増大している。
 海運業を取り巻く環境は、船舶設備の高度化、運航形態の複雑化、環境保護や安全運航、ひいてはテロ対策にも配慮を払わねばならない状況にあり、乗組員にかかる負荷は増大するばかりである。
 船員不足は船舶コストの上昇と共に運航面での質の低下を招く恐れがあり、乗組員に対する海上業務負荷増大という状況を切り抜けるには、陸上からの支援・指導体制の強化、なかんずく優秀なS.I.の確保は不可欠の要素と言っても過言ではない。しかしながら、日本人の海技者を充分確保し、且つ新陳代謝を行いながらその状態を今後も維持することは、多くの船社にとって容易なことではない。何故なら、これら海技者の源泉となるべき外航日本人船員は1985年プラザ合意以降の円高を経て一層減少し、その傾向は今も変わりはないからである。更に、その船員の卵である船員教育機関への入学志願者の減少、卒業生の海離れ現象などにより、日本人船員を当てにしたS.I.確保という図式が現実的ではなくなりつつある。
 この海離れ現象は、日本人の生活様式・社会環境、国民の中流意識や少子化に根ざしたものであると考えると、一挙に流れを変えることは非常に困難である。その背景のなか、有力船社は、船員供給国に教育施設の建設を推進しており、外国人船員経験者をS.I.に起用することは、もはや趨勢といえよう。このことは当社においても例外でなく、数ヶ国の外国人オフィサーをS.I.として配置している。彼らは日本人社員と一緒に社宅より通勤している者、或いはマンションから一人で通勤している者など、日本での生活、東京での通勤地獄に懸命に立ち向っている。そして、生活のみならず、仕事の面でも日本人に負けない成果を上げており、大いに頼りになる存在である。国民性・国情の違いによるのであろうが、少子化と、海離れが顕著な日本に対し、故国を離れてS.I.として頑張る外国人の状況を見るに、誠に複雑な思いがする昨今である。然しながら憂いていても始まらない。国技館で、海外出身力士が流暢に日本語を繰る現在、受け入れ側にも、真に技量を備えたS.I.を海外より受け入れる度量としなやかさが、いま求められている。

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