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オピニオン

2006年11月

心の海を想い 船出せよ

日本船主協会 常任理事
株式会社商船三井 代表取締役社長
芦田 昭充

「考えていた以上に船は大きかった。その大きな船に乗って広い海の上に出られたことが、一番良かった」(小4・男子)「いつも観られない星や星座を、船でたくさん観られてうれしかった」(小5・女子)「海や船のことが分かって楽しかった」(小6・女子)「素晴らしい機会だった。来年も是非続けてほしい」(保護者)
 海洋国家・日本。わが国の将来を担う小・中学生に船や海洋への関心を一層深めてもらう機会として、児童・生徒およびその保護者合わせて314人を招いた「商船三井キッズ・クルーズ」を、この3月に客船にっぽん丸を舞台として実施した。
 受付や出発式、避難訓練の際には緊張気味だった「キッズ」たちは、船内探検が終わるころには生き生きとした表情になって、各々興味を持った分野に参加。快晴の下、デッキスポーツでは歓声が飛び交い、手旗信号・ロープワークなどの船上教室では真剣な表情で取り組む姿がみられた。船や航海、地球環境を守る海の大切な役目・素晴らしさに関する話にも、子供たちは瞳を輝かせながら聞き入っていた。
 当協会を挙げて取り組んだ「海の日」祝日化は成就したものの“ハッピーマンデー”によって、明治以来の歴史を持った7月20日から7月第3月曜日に変えられた。この事例でも、日本は周囲を海に囲まれていながら一般的国民の「海との心理的距離」が近いとは言えず、海や船への関心もさほど深くない、と感じることが多い。CSR(企業の社会的責任)が叫ばれる中、社会貢献の一環として初めて取り組んだクルーズであったが、船や海に接して子供たちが輝かせる瞳や率直な思いに教えられることもまた多かった。参加者の感想に接して痛感したのは、やはり「海洋の素晴らしさや船の大きさ・役割」を業界全体として、次の世代に伝えていくことの大切さだ。将来、船員になってほしいといった短絡的な考えで実施したクルーズではなかったが「少年少女たちの心の中に各々の海を持ってもらい、自由に船出してほしい」「海や船との距離を縮めたい-」といった思いは深い。海を基盤に事業展開する業界人として今後、こうした思いや海運の大切さをいかにして発信していくか。この課題に日本海運全体として取り組んでいき、分かりやすく伝えることが、益々必要になってきている。我々に課せられた責務は、小さくない。
 この夏、NHK「みんなのうた」で「みんなのうみ」という曲が話題になった。『海への思いや憧れ』をこめて、人気グループ“TUBE”の前田亘輝氏が童謡「うみ」へのオマージュとして作詞したそうだ。新進画家“326”(ナカムラミツル)の絵も心温まる作品だった。その「みんなのうみ」の曲中にも取り入れられた「うみ」の懐かしい歌詞を口ずさむと、故郷・島根の美しい日本海や秋の日差し、はるか水平線を航行する船が鮮やかに想い出される。浜辺に寄せる波の音、松籟(しょうらい)も聞こえてくる。
 このように日本人には一方で、海を思える環境や心理的因子があるようだ。当協会そして海運業界全体のさらなる広報活動によって、海が文字通り「みんなの海」となり、日本そして世界の暮らしを支える船舶が多くの人の心に息づくことを祈りたい。これらの歌のように…。

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