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オピニオン

2007年5月

Safety Before Schedule

日本船主協会 常任理事
日鉄海運株式会社 代表取締役社長
島川 惠一郎

海運業界に身を置く私どもにとって、事故災害のない「安全運航」を実現することが、まず社業の原点である。船舶の建造技術が進歩し、設備自体に安全対策のノウハウが確実に蓄積され、又GPS等最先端の技術に支えられた操船技術が進歩した今日、なんとしてでも万全な安全対策のもと、事故災害の撲滅を実現したいものである。事故は、大概、想定外の状況が複数重なりあって発生する場合が多いが、設備を作るのも、操作するのも、状況を想定しマニュアルを作るのも全て人間であることを考えると、やはりいつの時代でも、「安全は人間が支えるもの」という基本認識のもと、安全管理がなされるべきなのだと思う。航空業界をはじめ様々な産業の安全対策をみてこられた専門家のお話では、日本人の場合は特に一生懸命がゆえの「懸命ミス」、あるいは相反する2つの価値のどちらを優先するか迷う「ジレンマゆえのミス」が多いという。
 カンタス航空が1951年以降死亡事故を起こしていない要因を調べた「無事故調査」の結果では、同社が「安全憲章」で掲げるスローガンは「Safety Before Schedule」のひとつだけであったそうである。つまり、航空業界で大切な定時制即ち「時間を守る」よりも、「安全をまもることが大切」という、経営としての価値判断を明確に示し、ジレンマを解消した、というわけである。もちろん、その背後にはパイロットと地上スタッフとの綿密な連携やバックアップシステム等が確立され、それが一つの企業文化にまで高められているからこそ、結果的には時間も守られ、トータルとして有効に機能しているのであろう。
 又、安全な職場に共通するのは、現場の人々が生き生きしているところであるという。「従業員一人一人が健康で、働く喜びをもって仕事が出来、家族が幸せであること」がやはり安全の目的でもあり又原点であることを、経営として肝に銘じたいものである。そのような気持ちと願いを持って、私もフィリピン、ベトナム等外国人船員との家族懇談会にはとりわけ積極的に出席し「元気づけ」を行うことを常としているが、時に彼らの素朴で健全な明るさと逞しさに「元気をもらう」ことも多い貴重な旅となっている。

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