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2007年8月

「トン数標準税制の論点」

日本船主協会 理事長
中本 光夫

年末に向けての税制改正のシーズンが始まる。税制の差異からくる外国船社との競争力の格差は拡がっており、トン数標準税制の実現はなんとしても今年勝ち取らねばならない。
 ここでは一般世論に正しく理解を得られていないことについて指摘したい。

 それは、何故、外航海運の税制改正か。他の産業でも国際市場において収益に対する軽課税国の企業との競争に苦しんでいる。わが国の外航海運は好調であり、経営的に苦境にある業界はほかにある、との問題提起への回答だ。

 第一には、外航海運が競っている世界単一市場の中身だ。この市場においては、通商航海条約等により各国間の貿易取引において完全に「海運自由」が実行されている状況がある。
 即ち、外航海運の分野では関税障壁その他の障害が全くなく、これを分かりやすく譬えれば、世界のすべての国々の間で完璧な自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)が締結されているのと等しい状況にある。また製造業で言えば、その工場に当たる船舶に対する構造規制やその従業員に当たる船員に関する規制もすべてIMO条約という国際基準に従うこととされている。「中国市場」「タイ市場」「日本市場」等のどこの国の外航海運市場をみても均一であり、参入は自由である。このような世界単一市場は他の産業においては見られないと思う。

 第二には、外航海運の「海運自由」の考え方の根底には、世界の人々の間で出来るだけ安価で、円滑な物品の移動を実現させるという発想がある。それ故、自由な物品の輸送を妨げる行為にはOECDや国連の場において各国が協調して徹底的に対抗してきた。

   第三には、外航海運は異国間の輸送活動であり、自由であるから、ここで消費される物品はどこか特定の国に課税権を与えることなく基本的に免税扱となる。燃料油も船員用の食料品やビール等と同様に免税である。

 そこで、このように均一で自由な市場で、決定的に競争力の差となって残っているのが収益に対する課税である。外航海運の収益税はすべて本社の所在国で課税されるため、特定の国の船社だけが、他と全く異なる税方式で高い税負担を負えば、競争の結果は明らかである。

 極端に減ってしまった日本籍船や日本人船員の増加策に真摯に取り組むことは当然であるが、そのためにもわが国の外航海運の競争力を維持し、貿易物資の安定輸送の確保を図ることの重要性について、世論にしっかり理解してもらうことが必要だ。

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