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オピニオン

2007年11月

ノルウェーのある一日

日本船主協会 常任理事
三光汽船株式会社 代表取締役社長
松井 毅

先般、大手P&Iクラブの一つであるGARD の理事会に出席するため、欧州に出張しました。当社はGARDと40年間の関係を有し、現在も管理船の約4分の1に当たる10隻を船主加入として付保し、更に多数の用船船舶を用船者加入として付保しています。
 このクラブの本拠はノルウェーの首都オスロから車で約4時間ほど南に下ったアレンダールという小さな町にありますが、1907年に設立され、今年は丁度100周年にあたる事から、祝賀会を兼ね、世界中から関係者が1000人以上も集まり、盛大なお祝いを致しました。
 1907年といえば、日露戦争が終わったのが1905年ですから、その直後に開設されたことになります。それでも、英国ではBritannia P&I が1855年、UK P&Iが1869年に設立されているのでどちらかというと遅いほうですが、海運業の歴史の違いとは言え、今様に言えば船主としてのリスクマネージメントの考え方が進んでいたんだなと感じざるを得ません。
 会場には船主と海事関係者など多くの代表者クラスの方々がお見えになり、様々な意見交換ができました。「ドライ・バルクの好調なマーケットはいつまで続くのか ?」、「中国は一体どうなるのか?」などの内容ですが、決まって「2008年は良いだろう。しかし、それ以降は分からない。」との意見でした。なぜ分からないかというと、欧州から見た極東アジアは、「Far East」と言われているくらいですから、遠過ぎて良く分からない。もっとも我々日本人でさえ、隣の中国は良く分からないのですから、ましてや欧州の人々からすれば中国がどうなるか見当もつかないということでしょう。また、現在の船舶発注残高がタンカーでは現船腹の40%に、バルカーではその45%に達している状況下で、誰もが予測できないというのが実情のようです。
 海上の危険に対しては、一般にP&Iを含めて保険が大きな役割を演じてきましたが、市況の変化というリスクに世界の船主は今どのように対処しているのか大変興味深い事柄でした。自らが望む期待感と裏腹に将来起こりうるリスクを加味したポートフォリオを目指して積極的に中古船市場に参加し、それによって得た利益を丸ごと貯え、来るべき不況に備えるということです。実際、この日の船主たちは、どちらに変化しても大丈夫といった態度で余裕すら伺えたものでした。確かに、中古船市場で売買されているタンカー、バルカーの隻数・トン数は、ここ数年の平均では新造船の引き渡しを上回っていることは明らかです。長期間保有し、将来の含みを安全弁とした考えと対極にあると言えます。これら船主の経済活動の下支えとなっている税制にトン数標準税制がありますが、この税制は1996年以降欧米諸国、韓国など多くの国に導入され、一般化してきたもので、世界単一の海運市場にあって現在の史上稀な好況下、制度差による圧倒的な蓄積でもって非導入国の船主に迫ってくるのだろうかと、彼らの思考と行動様式に改めて身の引き締まる思いをした貴重な一日でありました。

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