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2008年5月

日本の港湾と内航海運

日本船主協会 常任理事
栗林商船株式会社 代表取締役社長
くりばやし

海運と港湾がそれぞれを必要とする、密接不可分な関係であるのは周知のことである。物流を円滑に行うという同じ目的のため、両者は協調して発達し、今後も調和のとれた発展を続けなければならない。しかし近年、日本のごく近くに我が国の港湾政策の想定をはるかに上回る規模のメガポートが出現したことは、この調和のとれた発展に大きな障害となっている。
 まず日本の港湾に与えた影響としては、メガポートにハブ港が移ってしまったことにより、日本中がフィーダーポート化してしまったことが挙げられる。主要港だけでなく、日本中のローカルポートからのプサン、上海といった港への定期航路の充実振りは目を見張るものがあり、コンテナの扱いを着実に伸ばしている港が多い。
 次にこのことが海運、特に内航海運に与えた影響としては、国内から海外へとハブが移転したことにより、内航の貨物が外航の貨物へと、莫大な量の流出が起きているということが挙げられる。このように見ると、日本の港湾しか利用しないあるいは利用できない内航海運が、大きな被害を受けていると考えることもできるだろう。
 先日、内航総連合会の代表という立場で福岡市長と面談する機会を得た。福岡市は博多港という日本有数の港を有し、内外航ともに多数の船舶が寄港している九州を代表する都市である。この福岡市から小泉内閣の時代に、対面のプサンからハブを取り返すために、特定の外国船社に沿岸特許という形で内航フィーダーを行わせるという、ある種のカボタージュの緩和申請が、当時流行した特区申請という形で出されているのはあまり知られていないと思う。
 内航の消滅に繋がりかねないこの問題が、いまだにくすぶり続けているのは内航業界として説明不足ということで、今回吉田市長に業界の実情と今後の方策について縷々ご説明し、この申請の取り下げをお願いした次第である。
 博多の地政学的な問題から、日本の他の港以上に近隣諸国との競争やそれに対する焦りがあるのは仕方のないところであろう。しかし港湾と海運は調和の取れた発展が原則であり、内航フィーダーの充実と、日本港湾のハブ機能の充実が不可分で、ルール破りの対応は如何かと思う。
 またこのような対応をせざるを得ないほど、近隣メガポートと日本港湾の差を容認した行政の責任も大きい。今後はこの差を埋めるべく、連携の取れた港湾と内航政策により、双方が強調して発展できるプラットホーム作りを急ぐことが国の責務であろう。

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