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オピニオン

2008年6月

「国境を越えるメセナ」

日本船主協会 常任理事
日鉄海運株式会社 代表取締役社長
島川 惠一郎

先日久しぶりに「感動の一時」を味わうことが出来た。  4月9日に紀尾井ホールで行われた日本と韓国の障害を持つアーティスト達による「ビューティフルフレンズコンサート」の公演である。2008年は日韓政府が定めた日韓観光交流年に当たることから、韓国を代表する鉄鋼会社であるPOSCOと新日本製鐵が後援し、日韓の文化交流事業として開催され、またその収益金の一部が視覚障害者の自立支援活動を行う東京ヘレンケラー協会と、アジア、アフリカ等で飢餓や貧困に苦しむ人々の支援活動を行う日本国際飢餓対策機構に寄付されるものであった。当日は日韓を代表する若手の世界的アーティストの素晴らしい演奏の数々が繰り広げられたが、中でも日本の視覚障害の若手ピアニスト辻井伸行の素晴らしいショパンのポロネーズ、韓国の視覚障害者の室内管弦楽団であるハートハートチェンバーオーケストラによる見事なブラームスのハンガリー舞曲第5番、そしてとりわけ圧巻であり、感動的であったのは、先天性の障害により両腕の指が2本ずつしかなく、膝下の足が無い韓国の女性ピアニスト、イ・ヒアによる見事なショパンの幻想即興曲であった。彼女は障害を克服すべく幼少の頃より、一日10時間の猛練習により実力を向上させ、コンサートピアニストになり、94年には韓国で障害克服大統領賞を受賞し、今日では4本指のピアニストとして広く活躍するようになった、まさにヘレンケラーのような努力の女性である。
 演奏の素晴らしさは言うまでないが、彼女の明るく屈託のない表情と、話し、笑い、歌う姿に魅了され、その人柄に感動を覚えずにはいられなかった。最後は、出演者全員と聴衆が一緒になって、韓国の名曲「故郷の春」と、日本の唱歌「故郷」を歌い、日韓両国民にとっての感動のフィナーレで公演の幕を閉じた。
 POSCOと新日鐵による、このような国境を越えた文化交流事業の展開、あるいは世界の障害者や難民の支援活動への貢献は、グローバル化に対応する国際的企業の新たな使命と役割を示唆するものと感じた。翻って、外航海運業界にある我が社を考えてみると、世界の多くの国々から原燃料を輸送し、また船員もフィリピン、インド、ベトナム、中国、等々多くの国の人々に働いてもらい事業活動が成り立っている。こうした各国の人々との長期に亘る友好関係を築いてゆくためにも、単なる経済関係にとどまらぬ、文化的理解や友情の涵養にも今後は更に意を用いる必要がある。ともすれば国際競争力の強化の側面にばかり目が向きがちなグローバル化時代の昨今ではあるが、思いやりや友情、相手の文化、伝統や人間性など、より人間的文化的側面への理解が大切なのが、国境を越えビジネスを展開するグローバル化の時代なのではないだろうか。

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