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オピニオン

2009年9月

中国化が進むドライバルク市場

日本船主協会 常任理事
日鉄海運株式会社 代表取締役社長
島川 惠一郎

 今回のグローバリゼーションの大きな特色は、「帝国化、金融化、二極化」にある、としたのはエコノミスト水野和夫氏であった。昨今の鉄鉱石貿易市場での圧倒的な中国シェア、鉄源不定期船市場での中国向け成約の大きさ、あるいは傭船者としての、ヴァーレ、リオティント、BHP等三大資源メーカーの台頭等をみると、需要、供給、物流各側面で、まさに巨大な帝国化、あるいは、資源や購買力を持つ者と持たざる者の二極化が進行していることを想起させる。世界の鉄鉱石輸入における中国の比率は昨年で約50%、今年は2月から7月まで過去最高の輸入量(対前年約30%増)が続き、そのシェアは約70%に上昇したものと思われる。原燃料輸送に使われるケープサイズのスポット市場での取引量は80?90%が中国向けといわれる程の一極集中ぶりである。一方、資源供給側も、世界の鉄鉱石輸出の7割が(伯)ヴァーレ、(英豪)リオティント、BHPの三社で占められ、その上リオとBHPは鉄鉱石生産を合併統合することで合意したと伝えられる寡占化の進行ぶりである。
 では今年上期中国で鉄鋼生産自体は横ばいから微増程度で推移する中で、何故に急激に輸入鉄鉱石へのシフトが起こったのか。中国商社による過剰輸入との指摘に加え、中国国内産鉄鉱石が品質面(鉄分約30%と輸入品の半分)、生産面(小規模鉱山で無計画な採掘による生産の限界)、価格面で競争力を喪失し、多くの中小鉱山が閉鎖に追い込まれた可能性がある、と見るのが専門家の見方である。だとすれば、今後中国は巨大な胃袋をもつモンスターの如く、更に世界の鉄鉱石(あるいは原料炭)の確保を求めて、資源を暴食する動きを強化するに違いない。現在中国政府は鉄鋼の過剰生産と鉄鉱石の過剰輸入を抑制するため、懸命の努力を継続しているようだが、6億トンに及ぶ巨大な市場を相手にしての需給バランスの正常化は極めて難しいだろう。従って、このような需給両側面での巨大化(当面は特に需要面での過剰化)と、一極集中構造が続くとすれば、それはその間の物流を担うドライバルク海運市場に何をもたらすのだろうか。運賃の一時的高騰がもたらすユーフォリアに安穏とするわけにはゆかないだろう。むしろ警戒すべきは、このような少数プレーヤーへの集中構造と過剰な需要がもたらす危険性に加え、もう一つの巨大なモンスターである金融、即ち投機資金が暴走し、突如とした激しい市場変動を生起させ、又その振幅を拡大させること、あるいは巨大化した資源メーカーの意図により傭船市況が上下させられること等、不確実性と市場リスクが更に増大することではないだろうか。昨年の夏までの市況の暴騰と秋以降の大暴落は未だ記憶に新しい。中国一国での情勢変化が全てのドライバルク市場の激変へと繋がらぬよう、市場の多極化と影響の緩和をもたらす、日本あるいは欧州鉄鋼業の一日でも早い健全な操業レベルへの復帰と市場プレゼンスの回復を期待して止まない。又、資源、国際海運はもとより、地球環境、エネルギー、食料需給面からも中国経済が今後とも安定的、且つ節度有る成長を遂げることを切に期待したい。

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