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オピニオン

2010年2月

工藤泰三

減速航行へのチャレンジ

日本船主協会 常任理事
日本郵船株式会社 代表取締役社長
工藤 泰三 (くどう やすみ)

昨年、当社は今後取り組むべき技術開発のロードマップとして「NYKスーパーエコシップ2030」を発表した。国際貿易の9割以上を担う国際海運が、世界の経済発展を阻害することなく温室効果ガス排出削減を果たすには、画期的な技術革新が求められる。そして技術開発と並んで環境対策の両輪をなすのが運航効率の改善であり、なかでもCO2排出削減の決め手となるのが減速航行である。当社の場合、燃料油購入にかかる費用は運航費全体の約半分を占めており、減速航行による燃料消費抑制はコスト削減のための即効薬としても期待される。

減速運航はソフト面とハード面の両方の取り組みが必要である。2005年以来全社的に取り組んできた「Save Bunker」運動では船底のクリーニングやプロペラ研磨に始まり、天候や潮流予測をもとに船の走らせ方を見直したり、港での停泊時間短縮により減速航行をする余裕を持たせるなど、当初は主にソフト面中心の対策だった。最近では船舶の運航状況を常時モニターし解析できるシステムの開発に取り組み最適運航を図ると共に、ハード面にも大きく踏み込み、燃料消費を抑える船体付加物を開発したり、新造船の設定速力の見直しを行った。また就航船でも過給機の一部を封印して主機出力を3割以上減少させるなど、低負荷域での連続運転や燃費向上にむけてあらゆる対策を動員して減速に取り組んでいる。これらハード面での対策にはコストもかかっているが、昨今の燃料油価格の高止まりにより、比較的短い時間でそのコストを回収することができ、高い経済効果を上げている。

昨年はコンテナ船大手各社がこぞって減速航行実施を発表し、これまでスピードを競う運航形態をとってきたコンテナ船業界は大きく様変わりしようとしている。減速航行を実行するにあたり一つの懸念として仕向け地までのトランジットタイムの増加が挙げられていたが、製造から物流、消費まで商品のライフサイクルを通じて省エネルギー化に心を砕くお客様のご支持が減速航行の浸透に一層の拍車をかけている。環境問題は今世紀最大の課題であり、われわれ海運界も自らの役割をしっかり自覚して持続可能な社会の発展に貢献しなければならない。減速航行は業界一丸となって取り組むべき大切なチャレンジだと考えている。

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