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オピニオン

2010年3月

松井常任理事

母校に帰ろう

日本船主協会 常任理事
三光汽船株式会社 代表取締役社長
松井 毅

昨年6月に、私の母校(高校)から講演の依頼があり、広島県福山市に帰省する機会があった。未来を担う若い人達が、海運に興味を持ち、少しでも理解を深めてもらえればと「海上輸送と海運業の役割」という題目で約1,000人の現役高校生を対象に講演した。四方を海に囲まれた我が国の輸送手段としての船舶、資源確保と海運業の役割、安全輸送と環境保全などの観点から話しをし、反応は今ひとつであったが、海上自衛隊の護衛艦にエスコートされアデン湾を航行する船団をフィルムで紹介した現代版海賊事情には、多くの学生が大変驚いたようであった。皮肉にも海賊によって「海運立国日本の商船の役割」が認識されたといってもいいのではないだろうか。

高度成長と呼ばれた1960?70年代、日本の海運業は日本の産業の成長とともに隆盛を極め、日本人外航船員、日本籍船、ともに戦後のピークを迎え、1974年には船員数56,833名、日本籍船1,427隻となったが、その後ドル・円交換レートの円上昇の影響をもろに受けコスト競争力の低下とともに斬減し、1985年には30,013名、1,028隻となり、現在では夫々1/10に満たない2,621名、98隻のみとなっている。この間日本商船隊は海外籍船の用船と、外国人船員の配乗により世界の船腹量の12%を超えるシェアを有し、日本発着貨物の積取比率も62%を超えて維持されている。この展開の中で、航海の安全と安定した輸送サービスの技術的側面を支え、外国人船員の教育・訓練の機能を担ってきたのは日本人船員であり、その大きな役割は、将来も変わることはないと思われる。

世界経済の拡大が進むなか、近年の世界海上荷動のトン数は年平均5%弱の増加を示し、三国間輸送を含めた日本商船隊の輸送量の伸び率も3%台を保持している。海運立国日本の復活に向けて一層の努力が必要だと考えている。

外航海運の国際的な競争基盤の確立、即ちイコールフッティングの実現とともに、船員教育に携わる大学と商船高専の卒業生のうち、外航船社に就職する割合が40%を切る状態から脱却できる環境作りにも船社なりに力を注がねばとの思いを強くしている。海事産業の一翼である造船業を中心に、昨年5月に今治市後援による海事展とシンポジウムが盛況であったこと、また最近同市で行なわれた高校生を対象として、先輩である船社代表による海運セミナーなど、地域を中心とした広報・啓蒙活動が行われていることは、海運業に身を置く者として大変心強い思いである。

母校に帰り若い人達に語りかけ、思いを伝えたなかから、海運業に身を投じようという人が一人でも掘り起こされるなら、大変喜ばしいことではないだろうか。

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