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オピニオン

2010年4月

芦田副会長

瑠璃色の海の叫び

日本船主協会 副会長
株式会社商船三井 代表取締役社長
芦田 昭充

沖縄や八重山の海からこの数年「約10年ぶりの【白化現象】によるサンゴへの大被害」とのニュースが発信されている。日本のサンゴが存亡の危機に瀕しているという。サンゴは水温18-30度程度の温かな海に生息している。日本人がサンゴを思い浮かべるときに、九州から琉球弧の島々や小笠原などの瑠璃(るり)色の海を想起する通りだ。しかし逆に水温が高すぎるなどの事象が引き金で、動物であるサンゴと共生する褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類がサンゴから逃げ出し、元々多彩な色彩をもったサンゴが白くなってしまう。褐虫藻がいなくなったサンゴは光合成ができなくなり、栄養不足で死にいたる。さらにそれが海草や藻などで覆われると、サンゴ礁全体が滅びてしまう。これが白化現象で、惨状を報じる「白骨の群れ」のような映像に言葉を失った。

世界の少なくとも32カ国で、98年にも白化現象が起きたそうだ。太平洋・インド洋・紅海・ペルシャ湾・地中海・カリブ海といった、我々に馴染み深い海ばかりだ。主因として海水温の上昇が挙げられ、数年前から再び大規模に始まった白化現象の原因として、地球温暖化が引き起こした海水温上昇が疑われている。海洋環境の変化で大発生するようになったオニヒトデによる食害も大きな心配事だ。石垣島と西表島に囲まれたサンゴの宝庫・石西礁湖では、白化現象とオニヒトデの影響で何割ものサンゴが死滅したと聞く。

「サンゴ礁は海の森」。テーブルのように広がったり、枝状に発達したりするサンゴには魚介類をはじめ多くの海洋生物が暮らし、海の幸の宝庫だ。瑠璃色の海はまた、人々を引きつけて観光資源や野外研究の舞台にもなり、波などから沿岸の人々や生き物を守っている。そして何より大切なことは「地球温暖化の主因と言われているCO2を、炭酸カルシウムの形で海中からサンゴが体内に取り込んで、骨格にしている」との点だ。陸上の植物以上(6-7倍の効率)に、サンゴや海洋の植物プランクトンがCO2を吸収しているらしい。つまり、サンゴ礁は「地球温暖化への防波堤」なのだ。

政府は2009年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」で国内のサンゴ礁が年間2500億円の経済効果を出していると試算した。しかしこれは主に観光面に注目した数値。地球を守っているという重大な役目を見逃してはなるまい。

日本や世界の海からサンゴ礁が死滅すると、どのようなことになるのか。考えただけで恐ろしい。いや、海を基盤に事業を営む我々海運会社の面々は、単に事実を知るだけでなく、実際の行動をとるべきだ。地球温暖化の原因と考えられるCO2の排出量を少しでも減らすこと、効率的航路選択や運航方法に努めること。これらの方策は、地球の生きとし生けるものを支える海中環境をも大切にすることに他ならない。(弊社では昨年秋以降、CO2排出量などを大幅削減する「環境負荷低減型」の次世代船シリーズの構想を発表し続けている)

今年は国連「国際生物多様性年」。10月には名古屋で、国連「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が開かれる。瑠璃色の海の叫びを聞き、そこに生きるサンゴをいかに守るか。海に生きる我々に課せられた責務は果てしない。

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