JSA 社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン > 2010年9月

オピニオン

2010年9月

栗林理事

「海原から問いかけるもの」

日本船主協会 常任理事
栗林商船株式会社 取締役社長

今年も6月4日に日本殉職船員顕彰会の戦没・殉職船員追悼式が三浦半島の観音崎で行われた。特に今年は40回の節目の年に当たるため、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、晴天の下厳かに式典は執り行われた。

栗林商船においても先の大戦時に陸海軍に徴用され、日本近海から遠く南方まで、物資と人員の輸送に従事し攻撃を受け沈没した船舶は39隻、殉職された船員数697名と甚大な犠牲を出したことから毎年会社関係者が出席して来たが、今年は初めて私が出席することとなったわけである。

また今年は終戦から65年という節目の年であり、この式典を皮切りに8月15日まで色々な式典が催されることであろう。現在この原稿を執筆しているのが8月初旬なため、どんな終戦記念日になったのか推測の域を出ない。民主党政権下での最初の終戦記念日ということもあり、また何か自民党時代とは違うと印象付けようとするのか注目されるところである。特に菅内閣に変わり、総理や官房長官の発言を聞く限りでは、近隣諸国への更なる謝罪を繰り返すとの見方もあるがいかがなものかと思う。

本来海運は海軍とイコールといわれ、その国の安全保障のあり方と海運政策は密接に結びついているものである。しかし日本は戦後いわゆる海軍を失い、自国の軍事力の保護の無い中で海運だけが急速に復活した。そしてその海運が戦後の復興を担い、日本経済の発展と繁栄の基盤を築いてきたことはまぎれも無い事実である。

戦後も65年を数えると、東西冷戦の時代は遠い昔の話となった。しかし、湾岸戦争、地域・民族衝突、そして9・11テロを経験した国際社会は決して平和な状況ではない。さらにリーマン・ショック以降の欧米経済の衰退と、中国を中心とした新興国の急速な台頭により、世界は多極化の時代に突入し、複雑かつ不安定な時代へと向かっている。その証拠として、マラッカ海峡やアデン湾等中東海域では海賊やテロ行為が依然として頻繁に行われ、危険な状況の下での船舶の航行が続いている。

今後さらに多極化していく世界の中で、日本の安全保障という「国のあり方」は本当にどうあるべきなのかという議論を真剣にしなければならないと思う。そしてそのときはカボタージュも含めて日本海運の役割を理解した上で、経済的な成長を安全に維持するために各界の活発な議論をふまえ「日本が国家としてどうあるべきか」をきちんと見つめ直して頂きたい。それが戦火に散った6万余の船員の尊い御霊に報いる国家の姿勢だと考える。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保