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オピニオン

2010年12月

上野副会長

内航海運を巡る議論について

日本船主協会 副会長
上野トランステック株式会社 代表取締役会長兼社長
(日本内航海運組合総連合会会長)
上野 孝

最近いろいろな機会に申し上げているのですが、平成19年の海洋基本法の成立は、内航海運の重要性を広く国民に認識していただくうえで画期的な出来事だと改めて感じています。なぜならばこの基本法に基づく海洋基本計画に海運業の役割や位置づけと今後の対応方針が次のように明確に謳われているからです。

「わが国にとって重要である周辺海域と沿岸部においては、密輸・密航、不審船の侵入等の問題に加え、津波、高潮等の自然災害の脅威が存在している状況から、国民生活や経済活動を維持・発展させ、国民の生命・身体・財産を守るためには、安定的な海上輸送体制を確保する等の取り組みが急務である」、また、「わが国は、貿易量のほぼ全量、国内輸送量の約4割(セメント、鋼材等の産業基礎物資については8割以上)を海上輸送に依存している。これらを支える海運業、水産業、造船業・舶用工業等の海洋に関する産業は、わが国の経済社会の健全な発展や国民生活の安定向上の基盤であり、その健全な発展は、海洋の開発および利用と海洋環境の保全との調和や、海洋の安全の確保等を図っていくためにも不可欠である。」、さらに「内航船員が減少するとともに高齢化が著しい状況は、安定的な海上輸送の確保の観点から、憂慮すべき事態である。将来にわたり海洋産業が健全な発展を図っていくためには、人材の育成及び確保を図っていくことが重要である。」としております。

最近は、内航海運がいろいろな場面で俎上に上がっておりまして、カボタージュの問題とか暫定措置事業のあり方などが議論されています。

例えば、成長戦略会議等において、カボタージュ制度の解禁が内航フィーダのコスト低減に資するなど単なるコスト論から外国船を使った方が良い等の議論がなされました。また、国土交通省は、本年3月に沖縄航路の一部貨物について沖縄経済の振興のためにとして沿岸特許を認める方針を表明しました。内航船は、全船が日本人船員・日本船籍船として高いコストを払っていますが、それは安全・安心のためのコストであり、国家安全保障のためのコストの一部だということを理解していただきたいと思っています。また、沖縄の経済振興ということももちろん大事なことですから、我々も沖縄の自由貿易地域から本土に向かう船については、内航海運業界としても何らかの競争力が強化されるような支援を行うなどいろいろな方法が考えられることを申し入れました。その様な考え方を受け入れず、また、海洋基本法の精神を無視して、安全保障上、治安上最も大事なカボタージュ制度に何故穴を開けてしまわなければならないのかと未だに大きな疑問を持っています。

また、暫定措置事業についていえば、成長戦略会議等の国際コンテナ戦略港湾構想論議において、「海上輸送に係るコストを大きく低減させることは、港湾サービスを向上させる上で必要不可欠な課題である」としたうえ、「海上輸送コストを低減させるためには・・暫定措置事業の廃止も含めて抜本的な改善が必要であろう。」そして「内航海運暫定措置事業の存在(フィーダーコンテナ船の建造時に係る建造納付金)が船舶の大型化のコスト増を招いているから早期改善が求められる」としました。内航業界にとっても、国内フィーダー輸送量が増加することは、活性化につながることですので、暫定措置事業の特例措置を設けて協力することとしております。しかしながら、そもそも暫定措置事業は船腹調整事業廃止に伴うソフトランディング措置として、当時の運輸省、産業界、労働組合、学識経験者等からなる海運造船合理化審議会の答申に基づく閣議決定のもと内航業界は苦渋の選択を強いられ導入に合意したものでありますが、暫定措置事業を実施していることがあたかも悪いことをしているかのような指摘がされました。また、国内フィーダーコストが割高となっている原因を調べますと、その割高の原因の主要部分は、荷役費を含む港湾コストにあったことや税制・各種規制等の面で外国船と比べ、イコールフィッティングになっていないにこと等にありました。

しかしながら、建造納付金の輸送コストに占める比率は、極めて軽微であるにも拘わらずコスト高の主たる原因があたかも内航業界にあるような指摘がなされています。

内航業界からの説明不足を反省すべきなのでしょうが、そもそもこのような議論のスタートについて、内航海運は、港湾、港運或いは外航海運などの産業のためにこうあるべきだ、そして、カボタージュ制度や暫定措置事業があるからいけないのではないかという昨今の議論の前提とか方向性というものが果たしてこれで良いのかということを内航海運に身を置く者として感じています。

内航海運はいかにあるべきか、内航海運の本当の役割は何だろうかということから議論をする必要があって、そのためには、海洋基本法の精神に今一度立ち戻って議論を進めていただきたいと思います。

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