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2011年4月

武藤光一

ソマリア沖・アデン湾における
海賊問題解決への道

日本船主協会 副会長 (株式会社商船三井 代表取締役社長)
武藤 光一
 

アデン湾とインド洋のソマリア沖で発生している海賊行為は、最近その活動範囲をアラビア海まで拡大、手口もより過激化し国際海運にとって深刻な事態となっています。海賊は小銃やロケットランチャーなどで武装、母船を中心に小型高速艇数隻で船舶を襲撃し乗っ取りをしており、交通の要衝であるインド洋を航行する多くの商船にとって非常に大きな脅威です。

これら海域で海賊による襲撃が多発しソマリア周辺海域の航行が危険になったことから、2008年10月に国連安全保障理事会で、加盟国がソマリア沖の公海に海軍艦艇や哨戒機を派遣、海賊行為を阻止する権限を認める決議を採択しました。この決議を機に、多くの国が船舶警備のために海軍艦艇を派遣し、海賊の鎮圧にあたっています。日本でも諸外国と同調し海上自衛隊を派遣するため、2009年3月に「海上警備行動」を発令し、同月、第1陣となる護衛艦をアデン湾に派遣、同年6月に「海賊対処法」を成立させ、本年3月には第8陣となる護衛艦がアデン湾に向け出港しました。

このように海賊撲滅のために各国が連携して対処しているにも関わらず、海賊の被害はなくなるどころかむしろ悪化しています。本年1月には韓国海軍の特殊部隊が海賊に乗っ取られていたケミカルタンカーに突入、銃撃戦のうえタンカーを奪還しましたが、海賊は母船方式で活動範囲を拡大し、人質を盾に各国軍に臆することなく交渉を行う組織力を備えつつあり、海賊問題は個別船社が民間企業として対応出来る範囲をはるかに超える事態となっております。

各国船主団体が構成員となっている国際海運会議所(International Chamber of Shipping (ICS):本部ロンドン)は、かつて商船への武装警護員乗船について反対していましたが、反対も賛成もしない中立スタンスに変更してきています。この変更は関係国の対応が不充分な状況下で海賊の被害が拡大し続ける中、海賊による商船への襲撃・乗っ取りから船乗っ取りから船舶と乗組員を守るためには、商船が武装警護できる「自己防衛」の選択肢も必要であるとの声が高まってきたことによるものです。

海賊問題に対しては1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」が適用されています。この国連海洋法条約第101条で「海賊行為」を定義、同105条において「海賊への対応」を規定しています。そこではいずれの国も公海その他いずれの国の管轄権にも属さない場所において、海賊を捕らえて自国の法律で裁くことが認められています。海賊の処罰は各国の法律に依拠していることから、各国が協調して海賊に対し必要な司法手続きを進める法律を整備する必要があります。

またそもそも海賊行為を発生させないために、ソマリア自体の政治・経済体制を安定させる国際支援の体制作りが急務となるでしょう。海賊被害を未然に防止する海上警備能力の強化は当然必要ですが、かかる課題、視点を共有して、国連を中心にソマリアを平和的に安定化させる取り組みをさらに深めていくこと、即ち、対症療法のみならず原因療法への取り組みが求められます。

日本船主協会におきましても、ICSをはじめとした国際団体などと協力し、各国政府に海賊対策への行動を求める広報活動をしています。

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