JSA 社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2011年11月

オピニオン

2011年11月

小畠 徹

財政規律・米国への支援

日本船主協会 常任理事
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
小畠 徹

 円高・ギリシャ危機・復興増税等々難しい言葉が毎日、新聞を賑わせていますが、突き詰めると問題は二つであるかと思います。

 一つ目は、政府の借金による景気刺激は、お金が新しい産業とか、生産性の向上という実体経済にではなく、不動産や株などに向かい、資産価値の上昇およびそれによる表面的な好況感(バブル)しかもたらさないということ。そして、その副作用として、インフレリスクに加え、借り手(政府)の信用不安をもたらしてしまうということ。流動性(liquidity)を高めようとすると信用不安(credit risk)が上がっていき、それがもう限界点に達したということではないでしょうか。

 二つ目は、基軸通貨特権(seigniorage)を持つ米国も上記信用不安状態になってしまい、決済通貨ドルの信用が極めて不安定になってしまったこと。アンカー不在、ゴールキーパー不在といった現在の混迷は、米国のポピュリズムに基づいた放漫な財政運営に起因するところが大きいでしょう。

 解決策などはすぐには出てきませんが、以下、私見です。

 一つ目の考えは、各国が財政規律を守ることを前提に、景気対策資金が実体経済に多く回るように規制してしまう。例えば、FXや株・不動産に関する取引税率を上げる一方で、イノベーションや新規事業立ち上げに関する支援・セーフティネット整備にお金を使う、国債発行もより目的的に認める、ヘリコプターから無目的にお金を撒くようなことはやらない、ということでしょうか。

 二つ目は大変です。ドル不安は今までも経験してきました。ニクソンショック(金兌換性の喪失)、プラザ合意といった歴史を振り返ると、日本は保有するドル資産の大幅目減りを繰り返してきたとも言えます。通貨交換レートは購買力平価に帰着しますので、相対的なインフレ国通貨(ドル)はデフレ国通貨(円)に対し弱まるのは仕方ないことなのですが、決済通貨(基軸通貨)そのものが信認されなくなると困ります。通貨価値とは何か?所詮、お札は紙であって信用が乗っかっているだけの話ですが、基軸通貨の場合は、発行国は自国通貨(ドル)を印刷して、そのまま対外借金の返済にも贈与にも使えるという特権があります。ドルの乱発は、基準のブレをもたらすだけでなく、インフレの輸出にもなります。基軸通貨特権の濫用はあってはならないことです。ドルに代えてSDR(IMF特別引出権)や人工通貨(戦後、ケインズはBankorという通貨を主張しました。)を決済通貨にという案もあるようですが、私は基軸通貨には政治・軍事の裏付けが必要であり、ドルを守った方が良いと考えています。東アジア共同体とか米国離れのアイデアをお持ちの方も居るようですが、米国を中心として、それを支えていくのが基本でしょう。過去のドルへの支援(円高受忍)も防衛費をGDPの1%程度しか負担しない我が国の特別コストと理解すべき面もあると思います。米国を支える国際グループを作って、米国の自律・自助を確認しながら、その財政再建に協力していく、例えばODAの負担とか海賊対策とかに貢献していくということではないでしょうか。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保