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2011年12月

松井 毅

「北極海航路の初航海」

日本船主協会 常任理事
三光汽船 代表取締役社長
松井 毅

北極海では、近年夏季の海氷が減少傾向にあり、2007年の夏には北極海の海氷域面積が(衛星)観測史上最小を記録したと報道された。2011年の夏は、それに続く海氷の少ない年といわれている。北極海を利用する航路は、大西洋からカナダ多島海を抜け、ベーリング海峡に至る北西航路と、ノルウェー沖からユーラシア大陸・ロシア沿岸沖を通り、ベーリング海峡を抜ける北東航路が存在する。報道によれば、地球上の未発見の原油の13%、天然ガスの30%が北極海に分布していると推測されている。氷で閉ざされていた時代に比べて、近年は航路の商業利用や資源開発の動きが本格化し、境界線画定等をめぐって沿岸国による駆引き・せめぎ合いが活発化してきた。

とりわけロシアでは、北極地域を戦略的地域として経済発展の最重要課題に取り上げ、1935年商業ルートとして開削された北極海(北東)航路の効率的運用に力を入れている。ロシア政府は、更なる商業化を目的に複数隻の砕氷船を建造する予定であると聞いている。

この航路の利点は、何よりも欧州・極東間を結ぶ航路の航海日数が、スエズ経由によるそれに比べて圧倒的に短縮されることにある。記事によれば、本年7月初旬から10月にかけてタンカー、バルカーにより15航海が行われたようだ。そのなかには、機会があって、当社所属の耐氷型75,600重量トンのばら積貨物船が、ロシア・ムルマンスク港積み中国・京唐(ジンタン)揚げ鉄鉱石輸送に従事した航海も含まれている。本船は8月31日ムルマンスク港を出港、邦船社としては初めてこの航路をロシア砕氷船に先導され、約10日間を要しベーリング海峡に到達した。本航路の航海総日数は22日で、これをスエズ経由航海の42日に比べると実に20日の短縮であった。航海日数の短縮は、消費燃料の削減のみならず、CO2排出削減にも繋がる。試算に拠れば、スエズ経由に比べ、約44%もの削減になり、北極海航路の商業利用の意義は大きい。地球温暖化の申し子とはいえ、北極海の多年氷の減少は、同航路の開通期間を延長することになり、今航海においても砕氷船による啓開航行は、東シベリア海でのわずか1日のみの航走であった。航路の安全を確保するには磁気嵐への対応や、避難港や修繕港の充実など課題が無くはないが、沿岸国を含む関係各国の権益合意と航海の自由が満足されるとしたなら、利用国による砕氷船の先導によるコンボイも夢ではない。通常であれば、スエズ運河を通峡し、海賊が跋扈するアデン湾・ソマリア沖・インド洋を航行し、極東に向かうことになるが、北極海航路を選択することによって、海賊からの被害の危険性を回避でき、本船乗組員の安全も確保することが出来る。

今年は大西洋から太平洋への航海であったが、その逆の所謂「バック・ホール」も可能であり、航海日数の短縮は大きな利点となる。北極海を経由した、大西洋・太平洋を結ぶ新たな航路であり、気候変動やエネルギー価格高騰といった環境下で、この北極海地域の情勢を注意深く見守っていきたい

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