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2012年5月

上野孝

エネルギーの安全保障と海運

日本船主協会 副会長
JX日鉱日石タンカー代表取締役社長
加藤木 覚

さる3月27日に開催された日本船主協会主催の「海賊対処活動に対する感謝の集い」に出席し、凛々しい制服姿の自衛官、海上保安官の皆様等と交流することができ、改めてソマリア沖・アデン湾等にて厳しい環境の下、日々海賊対処に当たっていただいていることに感謝の念を強くした。改めてお礼を申し上げたい。

(一財)日本エネルギー経済研究所によれば、島国であるわが国はエネルギー安全保障上、
(1)エネルギーの自給率がG8で最低レベル(原子力以外で4%)
(2)EUのような、北東アジアネットワーク(送電網、パイプライン)の不存在
という二つの視点で最も脆弱な国の一つであるという。

自給率に関しては、昨年の東日本大震災以降、原子力発電所の稼動減少から、残念ながら、短期的には石油への依存度が上昇するのは避けがたい状況である。

二点目の「ネットワークの不存在」については、島国として必然的に抱える弱点であるが、私たち海運会社がこれに代わる役割を持ってカヴァーしていると言うことができるだろう。特に当社のようなタンカー専門会社としては、自分たちの業務が上記の安全保障上の問題点に直結する位置づけである、との認識の下、日々安全・安定運航に取り組んでいるところである。

このいわば“海のパイプライン”に関して、足下、厳しいリスクと考えられているのが、イラン問題に端を発するホルムズ海峡の封鎖懸念、および海賊問題の二点である。

ホルムズ海峡の封鎖問題が昨今の原油価格高の一因になっていることは良く知られている。また、海賊問題については、文頭に触れたとおり諸官庁の強力なご尽力を得ているところであるが、日本船主協会の芦田会長は3月の定例記者会見で個人的試算としながらも、海賊対策のための設備投資額が日本の海運業界全体で40億円規模に上るとの見方を披露されている。

いずれも大きな課題と言えるが、私は、これらに加えて「環境問題への対応」も、敷衍すればこのリスクに当たる、と考えている。

例えば、大気汚染規制やバラスト水管理条約、温室効果ガス(GHG)排出規制等への対応である。これらの諸課題にきちんと対処していくことができなければ、“海のパイプライン”としての役割を、安定して継続的に果たすことができなくなることも十分に考えられる。

もちろん、環境問題への対応には、一義的には美しい海洋・地球を子供たちのために残す、という大切な目的がある。

しかし、それだけではなく、未だにわが国エネルギーの最も重要な幹線であり続ける中東-日本ルートの原油輸送を担う業界の一員として、国のエネルギー安全保障の一翼を担っている、という矜持を強く持ちつつ、環境対策にも取り組んでいく必要があると考えている。

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